落ち着く喧騒の中で
「…………」
あの後語られたであろうコカナシの話の内容はわからない。
あれは聞くべき話ではない。さっき言った裏事情というやつだ。
必要な事であればコカナシがいつか教えてくれるのだろう。
ともかく俺は盗み聞きをやめて部屋に戻っていた。
「…………ん?」
PHSが尻の下で振動した。画面にはコカナシの文字が映し出されている。
どうやらこのPHSはメール機能がついているようだ。
『お休みかもしれないのでこちらで報告します。
ローラさんから愛のこもった証言を頂きました! さらに驚きの真実まで!
タカの方はどうですか? できれば明日どこか食事をしながらでも進歩状況を聞きたいです』
文だけ抜き出したがそのメールにはところどころ絵文字が挟まれていていかにも女性が書いたという感じだ。
時々忘れそうになるがコカナシの方が二歳ほど年上なのだ。
「食事をしながら、か……」
俺は少し考えた後コカナシにメールを送った。
*
「なかなか騒がしいすね」
翌日の夜、コカナシを連れてきたのはヴァルクールさんと来た居酒屋だ。今日はもちろん奥の密室ではない。
「こういうとこは嫌いだったか?」
「いえ、最近は上品な食事ばかりだったので逆に落ち着きますね」
コカナシは席に着いて小さく笑う。
「キミア様ともよくこういうところで飲みましたよ」
「先生はこういう騒がしいところは苦手だと思ってた」
「私もキミア様も元々は苦手でしたけど……最終的には楽しんでいましたよ」
「……ってことは誰かに連れてこられて?」
「まあ、そんな感じですね」
注文を取りに来た店員を見てコカナシが話を止める。コカナシが幾つか注文をすると店員が手を止めてコカナシの方を見る。
「すいませんが年齢の確認を……」
「ああ、忘れていました」
コカナシが机の上にカードのようなものを出す。店員はソレを見て
「はい、注文受けたまりました」と下がって行った。
「それ何?」
「成人証明書です。小人族は成人したことが分かりにくいですから」
俺が納得したところで店員がお通しと酒が運ばれてきた。さすがこういう店は早いな。
「通しは枝豆か」
「タカの生ビールに合いますね」
「…………」
勝手に飲むなよ。
コカナシからビールを取り返して飲み始める。やはり俺もこっちの雰囲気が性に合う。
「さて、こちらの成果から発表していいですか?」
「おう」
まあ、知ってるんだけどな。
*
コカナシの後俺も成果を発表した。
コカナシは何杯目かの酒……カルーアミルクを飲んで嬉しそうに笑う。
「では、相思相愛ということですね!」
「そうだけど……テンション高いな」
「酔っていますから」
「自覚してるならまだ余裕だな」
コカナシは酔うとテンションが上がるタイプなのか、それともただ恋の話に対してなのか……ちなみに俺は酔うと口数が増えるらしい。どうやら思った事がすぐ口に出るタイプらしい。
「で、コカナシとしては二人を結婚させたいわけだよな」
「結婚とまでは言いませんが……ローラさんの事を考えるとそうなりますね」
コカナシはから揚げを食べて俺のハイボールを飲む。
「この組み合わせはいいですね」
「確かにから揚げは肉の水分が残ってて美味いしハイボールも……」
目線で訴える俺を無視してコカナシは咳払いをする。
「結婚相手が居ながら他の人に恋をしている……なかなか厄介ですね」
それはローラさんから見た視点だ。
「男から見れば恋する人が結婚しそう……か」
それだけを抜きだせばお約束のシチュエーションだ。ならばお約束の方法があるが……
「大企業同士の結婚なら警備も厳重だろうしなぁ」
「警備がどうにかなれば策があるのですか?」
「まあ……一応、な」
しかし……
「警備をどうにかする策が浮かばん。式場に細工でもできれば……」
「話は聞かせてもらったな」
突然視界に髭面が入ってきた。前にもこんなのあったな……っていうか
「ヨロズさんじゃないですか! なんか久しぶりですね」
「少し大きな仕事が入ってな」
ヨロズさんは持っていた大ジョッキをあおってゲップをする
「改めて……話は聞かせてもらったな」
「なんだか自身満々ですね。なにか策でも?」
コカナシの振りにヨロズさんはニヤリと笑う。
「警備を突破するための式場への細工……儂に任せてみるんだな」




