少しばかり彼女と重ねて
「相思相愛?」
俺が聞くとコカナシはなぜか嬉しそうに頷く。やはり恋愛話が好きなのだろうか。
「はい、ラヴです」
何故言い直した。
「そうか……あれは恋してるからなのか」
「何故言い直したのですか?」
「…………」
お前に言われたくねぇ。ふざけるなよ。
「相思相愛と言っても私の推測の域を出ません」
当然だと頷くとコカナシは目を輝かせる。
「そこで、タカにはヴァルクールさんがどう思っているか調査して欲しいのです」
つまりコカナシはローラさんの方を調査する。確かにその采配は間違っていない。が……
「恋愛の事なんかわからんぞ」
「彼女を持っていながらその言い訳は通じません」
「いや……」
トモノがあの状態になってから五年以上恋なんて物はしていないのだ。わかるわけない。
「あの感じから見てヴァルクールさんはタカ以上に恋愛を知りません。問題なしです」
「うん。その言い方はヴァルクールさんにも俺にも失礼だな」
「問題なしです」
問題だらけな気がするが……とりあえずは行動あるのみ、だ。
*
翌日の昼。広い豪邸の中を歩いていると紅茶のいい匂いがした。覗いてみるとヴァルクールさんが一人お茶をたしなんでいた。
とても綺麗な部屋だ。棚に並んだ難しそうな本にもほこり一つ付いていない。
辺りに立ち込める紅茶の香りはヴァルクールさんが飲んでいるソレだけの物とは思えない程重厚なモノだった。今まで飲んできた、保管してある茶葉の匂いが部屋に沁みついているのだろう。
俺には無縁そうなその部屋を見てあっけに取られているとヴァルクールさんと目が合った。
「おや、また迷いになられましたか?」
「いえ、そんな方向音痴じゃないです」
探していたヴァルクールさんにそんなことを言われた。この人もそこそこ失礼だな。
……もしかして俺って舐められてる?
「試験が終わって暇なのでしたらツェットを案内いたしましょうか?」
「いいんですか?」
「茶葉の買い出しもありますので、そのついでですけど」
……やっぱ舐められてる気がするなぁ。
ヴァルクールさんに連れられたのはコカナシと行った場所とは反対方向、一人で入るには気おくれしそうな高級な店が並んでいる通りだ。
店の一つ一つが個性を主張しながらも全体的な気品は保っている。こんな通り見たことないぞ。
「ローラさんの家って何をしている家系なんですか?」
きらびやかな店の外装を見ながらヴァルクールさんに話を振る。
「宝石業です。代々受け継がれている採掘技術を使って商売をしています」
「なるほど……あれ、今日はローラさんについていなくてもいいんですか?」
どうにかローラさんに繋げようとしたが……少し強引だっただろうか。
「……ローラ様は婚約者と親密を深めるために会食をなさっております」
おお、予想以上にうまくつながったぞ。
自分で自分をほめながら話を掘り進める。交渉術などは全く分からない俺はド直球で行くしかない。
「ローラさん……あんまり乗り気じゃないように見えたんですけど」
「そうですか」
ヴァルクールさんは茶葉の箱に視線を向けながらも心ここにあらずと言う感じだ。
考えているのはやはりローラさんの事だろうか。
「ローラ様が望んでいるのは恋愛では無く結婚ですからね」
そう言ったヴァルクールさんはソレを望んではいないように思えた。
望んでいないのにその気持ちを無理やり飲み込んでいるような……
昔そういうヤツが、智乃がそうだったからなんとなくわかってしまって……俺の口は勝手に動いていた。
「……聞かせてもらうことはできませんか?」
「あまり人に話すべき事ではないのですが……」
少しの沈黙の後、ヴァルクールさんはよわよわしい笑みを浮かべた。
「少し、移動しましょうか」




