宿探しは旅の途中で
アルカロイドのバス停から一時間ほど行ったところに大きな駅があった。そこから数時間かけて、数回電車を乗り換えてようやく最後の乗り換えが終わった。
二つ向かい合った二人乗り席に座っていると突然声をかけられた。
「失礼、こちらの席は使われておりませんでしょうか」
話しかけてきたのは整った顔立ちの男性。なんだか執事のような服装をしていている。
「はい、空いてますよ。よかったらどうぞ」
「ありがとうございます……こちらにお座りください」
男性が一歩後ろに下がると後ろから綺麗なドレスを着た女性が出てきてコカナシの横に座った。
「アウローラと申します、失礼しますね」
アウローラと名乗った女性からあふれ出る気品になんとなく緊張してしまう。
「もしかしてレオポルトの嬢ちゃんかな」
ヨロズさんの言葉にアウローラさんは少し驚いた後、執事の方に顔を向ける。
「こちらの方はお知り合いかしら」
執事は眼鏡を上げ、ヨロズさんをまじまじと見つめた後に手を叩く。
「ああ、御父上がご贔屓にしている修理屋……いや、何でも屋のヨロズ様ですね」
「そーそー、ローラ嬢に会ったのは相当小さいころだっけな」
「いつもの作業服ではないのでわかりませんでしたよ、今日は仕事帰りで?」
「そーそー」
世間話を始めた二人を見てヨロズさんに興味をなくしたのかアウローラさんは俺に目を向けた。
「貴方たちは旅行かしら?」
「い、いえ。薬剤師の資格試験に」
緊張して声が上ずってしまう。
「ツェットで行われている資格試験は多いですからね……で、貴女は」
コカナシに鋭いまなざしが向けられる。
「私は付き添いで……」
「貴女の名前は?」
「コカナシです」
「へえ、コカナシっていうの……」
アウローラさんはコカナシから視線をはずさない。それはまるで獲物を狙う鳥のような眼だ。
「貴女を探していたわ」
「え……わわ!」
アウローラさんがコカナシの肩を持つ。まさかアルス関係の……
俺が動くより先にアウローラさんはコカナシを抱きしめて声を上げた。
「わたくしは貴女のような小さくて可愛らしい子が妹に欲しかったのよー!」
「……は?」
「ねーコカナシちゃん。わたしの妹になっちゃいなさい、それがいいわ!」
もがいて抵抗してやっと大きな胸から解放されたコカナシはアウローラさんから離れる
「失礼ですがアウローラさんは今おいくつですか?」
「もうすぐ十八になります」
その言葉にコカナシはため息をつく。
「私はこれでも二十四です」
「あら、年上だったのね……でもいいわ!」
「よくありません、心に決めた人を家に置いてきていますので」
「そう、なの……」
アウローラさんは少し落ち込んだ後、滑空するかのようにテンションを上げてきた。
「薬剤師の試験は確か一週間後くらいよね、宿はもう決めているのかしら?」
「いえ、まだ……」
「じゃあわたしの家に来なさいな、ついでにそっちの貴方もついてきなさい」
「は、はあ……」
宿代が浮くからいいのだが……コカナシはどうなのだろう
「あの、よろしいのですか?」
迷っている様子のコカナシは判断を執事にゆだねたようだ
「えっと……なんでしょうか」
執事はヨロズさんとの話を中断してコカナシから説明を受ける。
「二人なら問題ないでしょう。私が手配しておきます」
「さすがルークね! 褒めてあげるわ」
そういってテンションの上がったアウローラさんは執事を軽く蹴った。
「ありがとうございます……私は執事のヴァルクールと申します」
「わたしはアウローラ・レオポルト、ローラって呼んでちょうだい。よろしくね!」
ローラさんはそう言って笑顔を浮かべ、一瞬の隙をついてコカナシに抱き着いた。




