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錬金薬学のすすめ  作者: ナガカタサンゴウ
ホーンテッド・にゃんション
123/200

錬金発明家の珍事件

「…………」

 水分が足りないなんて事はない。何せリンゴなのだから。

 しかし量を食べていると別の苦しみが襲ってくる。それは様々だが完全に予想外だったのは顎を使うという事だ。

 特に皮がキツい、なんだこの苦行。

「できました!」

 試合が始まって約五分で両チームは後ろに用意されていた電子レンジに飛びついた。

 これで焼きリンゴ風にすれば少しは柔らかくなる。しかし電子レンジはそこまで大きくは無かった。やはり素のリンゴを幾分かは食べなければいけない。

 更に五分過ぎ、折り返しに来たところで突然カリが立ち上がった。

「ワタクシ、思いつきました!」

 耳打ちされたモウが牛柄の服を真ん中から真っ二つに開く。両内側に様々な工具が揃っている。

「前に作った自動皮むき機を使ってください。材料はこれくらいですかね」

 頷いたモウが工具を手に取る、そのまま両手を広げ、上にあげ……

『な、なんだアレはー!?」

 司会が叫ぶのも無理はない。何をしているかわからないほどのスピードでモウは機械を改造し始めたのだ。

 手も工具も見えない、しかし材料は減り、機械は組み上がっていく。

「……すげぇ」

 しかし、だ。

「司会! なんか使おうとしてますけどいいんですか!?」

『もちろん! 機械を使ってはいけないとは言っていません、ルールにないなら何でもオッケー!』

 そりゃあそうだ、ここまでのパフォーマンスは大盛り上がりとなる。

「とりあえず食べるしかないぞ!」

「食べてますよ。口を開けているのはタカだけです」

「こうなったら俺も錬金術で何か……」

 しまった! 錬金溶液がない! 邪魔だから預けてきたのだった!


「パンパカパーン! 完成しました!」

 カリが機械を頭上にあげる。

「なに作ったか知らないけど早く使うんだよ!」

「もちろんですともマッカ姐、これは全自動リンゴ調理器! 電子レンジでの焼きリンゴなんて比じゃない速さ、そして多彩な味付けを施しますよ!」

 機械の中に複数のリンゴがセットされる。

「では……ポチッとな!!」

 激しめの駆動音と揺れと共に機械が動きだす。

 モノの数秒で焼きリンゴが完成した。実の色からして全て違う味だし、皮も綺麗に剥けて美味そうだ。

「こりゃあいいね、よくやったよ二人とも!」

 二人は勝ったとばかりに笑い声をあげる。声は出さないがモウも笑みを浮かべている。

『これは面白くなってきたぞー!』

 これは……大ピンチだぞ!


 *


『winner、ニャル・アゾート!』

「え?」

 確実に、明確な差をつけられていた筈だ。

「どういうことだい!」

 もちろんマッカファミリーからはブーイングが起きる。司会は笑いを堪えながら機械を指した。

『だってあなた達……皮を食べてないじゃないですか』


 *


「アタシ達の負け……と、いうより馬鹿だったよ」

「今日も勝ったー!」

「約束は約束だ、今日のところはひとまず退散……」

「退散? 何を言っているのでしょうか、その必要はありません」

 マッカファミリーの背筋がピンと伸びる。全員に視線を向けられた紳士はシルクハットを取ってお辞儀をする。

「初めまして……はいませんようで。しかして久しくあります故、一応名乗っておきましょうか」

 彼は話しながらも笑顔を崩さない。笑う哲学者の異名を持ち、ニャルを追う男……

「トリストメギストスが代表、ゲラシノスでございます」


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