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病弱勇者と過保護な魔王  作者: ヤナギ
第一章 病弱勇者
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パペットマスター 人形化

「おら! 動くんじゃねぇよ!」


 フード三人組の内一人が、怯える店員の腹に蹴りを入れる。店員は体ごと蹴り飛ばされて壁を衝突して気絶した。口からは血を吐き、腹は抉れたように凹んでいる。


「はははっ! すげぇ、すげぇーぞこの魔石! 力が溢れてくるぜ」


 緑の腕輪を気持ち悪く摩り笑う男。それにつられて魔石を握っている男も笑っている。


「そいつは上々だ。さすがに専門店に置いてあるだけのことはある」

「なら俺も試させてもらおうか」


 三人目のフード男は、軽装備の女旅人に向かってゴツい手をかざす。その指には見覚えのある指輪が光っていた。


「な、何をする気な・・・の・・・?」


 女旅人の瞳から光が失われた。そして、その場に力なく立っている。指輪を付けたフード男は、正気なく立っている女の大きな胸を鷲掴みにした。女は特に反応することなく、男に揉みくちゃにされている。


「ふへ、ふぇひゃはははは! こいつは最高だ! 今日からお前は俺の人形だ!」


 涎を垂らしながら女の唇を強引に吸い付く。正直、気持ち悪すぎて見ていられない。周りの旅人も店員も、只ならぬ状況に身動きが取れない。


「パペットマスターか。あいつらさっきの魔具店から強奪したわね」


 メディは軽く呟いたあとに舌打ちをした。腕輪の男は次々と旅人に殴りかかっていく。もちろん応戦する旅人達だが、単純に力負けして倒されていった。指輪の男は女旅人の服を破り捨てて犯し続けている。

 そして、もっとも危険視している爆弾を握る男は旅人の荷物から金目のものを奪っている。



 俺とメディは店の奥に位置しているため、すぐに相手にされることはなかったが時間の問題であった。


「どうすればいいと思う?」

「どうもしなくていいわ。エージはそこで大人しく座っていればいいから」


 メディが席から立ち上がると、ふっと影に覆われた。


「おやおや、動いちゃダメじゃないかお嬢ちゃん」


 腕輪の男が瞬間移動したかのように目の前に現れた。さすがのメディも驚いたのか、目を見開いて立ったまま動かない。


「驚いたわ」

「へへへ、そうだろ? 今の俺に敵う奴なんていねーよ」

「まさか、この程度の男に魔具店が潰されたなんて、あそこの警備体制の方が問題だったみたいね」


 ああ? っと男はメディに拳を振り下ろした。バキバキっとテーブルと椅子を貫通して床に拳が刺さる。もちろん俺には、その攻撃が見えなかった。気付いたら木片が飛ひ散っていた。


「キサマ、木片がエージに刺さったらどうするつもりだったのだ?」


 腕輪の男の背に立ち見下すメディ。男は怒り任せに腕を振るうが、メディに拳が届くことはなかった。その代わりに赤い鮮血を店内へと振り撒いた。


「な!? は? う、うぐアアァァっ!」


 腕輪の男、いや腕の無い男はその場に踞るように倒れ、血溜まりを作っていく。激痛に酷く悶えながら痙攣している。


「どうし――なんだこりゃっ!? 誰がやりやがった・・・テメェか小僧!」


 女を投げ飛ばして慌ててやってきた指輪の男。息を荒げながら、俺を指差して怒鳴る。


「許さねぇぞ。テメェはボロ雑巾のように使ってから、四肢を引きちぎって殺してやる」


 男は俺に向かって手をかざす。それと同時にメディが踏み込もうとするが、腕輪の男の攻撃で床が脆くなっており、踏み込みに耐えられずに崩れた。体制を崩したメディは、一瞬だけ攻撃が遅れてしまった。その一瞬の内に、指輪から紫の髑髏のような影が放なされる。俺は抵抗することもできずに、呆気なく髑髏に飲み込まれていった。

 隣でメディとランライトが何かを言ったようだけど、どうでもよくなった。指輪の男の首が高く跳ね上がっているが、どうでもよかった。今は何もしたくない。ただ人形のように居るだけ。そう、俺はただの人形だ。





 ランライトside


 困りました、非っ常~に困りましたわ! エージ様がパペット化してしまいました。あの事件以後、あの悪魔は引っ切り無しに魔法薬店や、魔具店を回っていますわ。もちろんエージ様のパペット化を解呪するため。

 本来なら、持ち主が死亡した時点で解呪されるものなのですが運がなかったみたい。タイムラグと言いましょうか、パペット化が完全にエージ様を蝕む前に、悪魔が主側を殺してしまっため、不完全なパペットとなってしまいました。つまり、操り主のいない人形さん状態なのですわ。

 誰のものでもない、誰にも操る権利がないパペット。そんな状態を解呪する方法は、パペット解呪の魔法薬しかないでしょう。

 余談ですが、あの女性旅人は無事に解呪されていますが、身体が無事かは別問題ね。


 悪魔が走り回っている一方で、私は飛びっぱなしですわ。この都市は広すぎ。悪魔は五百店舗あるとか言っていましたが、その二倍はあるように感じますわね。

 それに加えて、この人の数。はっきり言って滅入っておりますわ。でもでも、これもエージ様のため、お母様のため! ランライトは頑張りますわよ。




「すいませーん。ここにはパペット解呪の薬は置いてありませんか?」


 少し古臭い店ですが、種類は豊富そうなお店です。店員さんを呼ぶと、黒フードのご老体が杖をついて出てきました。この街ではフード姿が人気なのでしょうかね。よく目にします。


「パペット解呪の薬かい? そんな珍しい物なんて、私の店では置いてないねぇ~」


 一つの紙束をペラペラとめくると、首を横に降るお老人。外見からはわかりませんでしたが、声からしてお婆さんのようです。ヨボヨボの口を必死に動かして話しているようですが、聞き取りにくいですね。


「あら、そうなこと言わずに譲ってくださいな。お金なら融通が利きますわよ」

「可笑しなことを言う客だね。小さい声で聞きにくかったかい? ここには置いてないよ」

「あらあら、何処なら置いてあるのかしらね」

「そんなの知らんわい。私はこの店を構えてから長いけど、全店の品物を把握するなんざ私には無理無理」


 困りました困りました。このお婆さんは隠し事をしていますわ。恐らく解呪の薬に心当たりがあるようですわね。でも口を割らない割る気が、さらさらありませんわ。

 私はこれでもフェアリー種の一人。人の些細な瞳や口の動き、指先の仕草や声調で、嘘か真かをある程度判断できるの。

 で、このお婆さんは嘘の動き。だけど、店に無いのが嘘なのか、全店の品物を把握していないのが嘘なのか、どちらが嘘なのかがわかりませんわ。


「お婆ちゃん、よ~く思い出してほしいの。パペット解呪の魔法薬をどこかで見ませんでしたか?」

「しつこいお嬢ちゃんだねぇ。知らないものは知らないんだよ」


 嘘。


「あら、あそこの棚にある魔法薬がそうではありませんか?」

「はぁ、いい加減にしないと兵隊さんを呼ぶよ。先日、魔具店が襲われたばかりだからね。余り怪しい行動はしないでおくれ。・・・若い子を突き出したくはないよ」


 真。


 このお婆さんは警戒しているだけね。ちょっと異常なまでの警戒心だけど、今は置いておきましょう。


「わかりましたわ。失礼いたしました」

「また日が経ったらおいで」


 私は一礼をして店を後にしました。このまま他の魔法薬店も回りましたが、みんながみんな同じ対応。さすがに異様ですわね。一度、悪魔と情報交換をしたほうがよさそうね。






 ホールが荒れた宿屋の中で、無事だったテーブルの椅子を並べて座っているのは、私と悪魔。宿屋の主は、店員と共に改装修繕をしていますね。他の旅人さん達はみんな、他の宿へ移動しました。


「露出狂も同じか」

「その露出狂ってのいい加減にやめない? さすがにムカついてくるわ」


 悪魔は苦虫を噛み潰したように、不快な顔を向けやがりますわ。結界に閉じ込めてしまおうかしら。


「チッ、わかったわよ。今は争いたくないからね」

「同感ですわ」


 私と悪魔は、差し入れされた果汁の飲み物で喉を潤します。柑橘類のミックスですわ! じゃなくて、今の状況整理ですわね。

 今日の成果はほぼ無しと言って過言ではありませんわね。どういうわけか、魔法薬店の全てが商品を売るのを渋っております。特に解呪系の魔法薬。理由はわかりませんが、悪魔はある仮説を立てていますね。


「昨日襲われた魔具店がかなりブラックらしいのよ」

「ブラックですか?」

「そう。あのパペットマスターがあった時点で異常だったのに、私としたことが警戒を怠ったわ」


 悪魔は悔しそうに歯を食いしばり、果汁の飲み物をぐいっと飲み干します。ここで私は小さな樽から御代わりを注いであげます。私ったら大人ね!


「ありがとう。っで、ブラックの内容何だけど、取り扱い禁止類の魔具を裏取引していたのよ。儲けた金で、趣味の魔具集めに使っていたみたいね」

「取り扱い禁止ってたしか、人を危める力がある魔具よね」

「そうね。ただ程度にもよるわ。本来の目的で使用する限りは危険が少ない物。例えば、炎を出す魔具なんて旅の必需品だから一般で売られてるけど、使い方次第では大量虐殺も可能でしょ?」


 私が頷くと、悪魔は話を続けます。


「取り扱い禁止の魔具は、使用するだけで殺傷、もしくは大規模な影響を及ぼすものを指すわね」

「あのフード男が持っていた物もそうだというわけね」

「そうね。間違いなくフード男三人は、あの魔具店を襲ったわ。ただ問題なのは、実行犯のフード男達が三人だけじゃなかったなかった事なのよ。兵士達の話によると、犯人は全員で十三人。そのうち三人は昨日殺したから、残り十人」


 悪魔の情報によると、この話はすでに街中に広がっており、一部混乱・暴動が起こっているらしい。もちろん優秀な兵士達によってすぐに沈静。さすがですわね!

 しかし、私はよく分からなくなっています。危険な魔具が大量流失してしまい、その危険性から解呪系統の魔法薬の需要が拡大。今まさしく売り時のはず。なのに、魔法薬店はみんな売りたがらない。う~ん不思議です。

 おそらく悪魔もそこがわからないのでしょう。私と同じ難しい顔をしています。



 今日はもう頭が一杯です。休むことにしましょう。

「ところでエージ様は?」

「心配ない。幸か不幸か、パペット化すると病弱体質が抑えられるみたいなの。理由は知らないわよ? でも実際に私の魔力循環を通さなくても、エージの体調が安定してるの」

「それでメディが自由に動けているのね。納得したわ」

「でも、何を言っても何をしても反応してくれない。・・・正直、つらいわ。不思議よね、エージに会ったのなんて、つい此間のはずなのに」


 悪魔、いえ、メディは天井を見上げながら何かを見ています。それが何かは詮索しませんが、似合いませんね。私はメディを連れて部屋に戻ることにしました。明日に備えて寝ましょう。



メディ「エージ、昨日買ったオニヒメの実を煮たわよ。ほら、美味しそうでしょ!」

エージ「・・・」

メディ「見て! これも昨日買ったアクセサリーよ。エージが私の髪とお揃いだって選んでくれた、紅の首飾りよ。どう、似合ってる?」

エージ「・・・」

メディ「今日はもう寝ましょうか。その前に体を拭きましょう。この街は熱気に溢れてて暑いからね!」

エージ「・・・」

メディ「・・・必ず、助けるから」



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