011 聞き込み調査
チュンチュン…チュンチュン…
鳥の鳴き声が聞こえる。時刻は夜から朝の7時になり、バンルはとっくに起きてステラの部屋にいた。
「おろろろろ……」
「……」
トイレで吐いてるステラをバンルはただ黙々と見ている
「……泥酔するまで飲むから」
「うっぷ…バンルだって私以上に飲んでたじゃん……なんで元気なの……」
完全なる二日酔いで、ステラの顔色は真っ白だった。
ただ何故かステラよりお酒を飲んでいたバンルが二日酔いになっておらず、ステラは疑問に思って質問した
「俺 酒めっちゃ強いんで(笑)」
「そんなんで平気なわけ…ヴッ おろろろろろろ…」
「あららら……」
また吐いてしまったステラを見たバンルは、台所に向かう。
コトッ
バンルはコップに水を注ぎ、ステラの近くのテーブルに置いた。
「……水置いとくから、俺 先に集会所行ってるわ」
「うぅ……おっけぇ……うぉろろろ」
…………………………………………………
先に集会所に向かったバンルは、集会所の中でステラが来るのを待っていた。30分待った頃、集会所の扉が開き ゲッソリしたステラが現れた。
「あぁ……ごめんねバンル。ようやっと落ち着いた」
「あんま無理すんなよ」
「ヴゥ……あー大丈夫大丈夫、私は大丈夫」
(やっぱダメじゃん…もう自己暗示かけちゃってんじゃん)
ステラは壁に手をかけてゲンナリしている。そんなステラは自分に自己暗示をかけていた。
「んじゃ…カード持ってくるから、ちょっち待ってて」
「へぇへぇ」
「えーと…あれ違った。んーこの棚かな?あ、あったあった」
しばらくしてからステラは受付の方へ行き、棚をいくつも探して銀色のカードを見つけて持ってきた。
どうやら冒険者のランク分けを分かりやすくするため、ブロンズのランクは銅色のカード、シルバーのランクは銀色のカードのようだ。
「はいこれカード。絶対に肌身離さず持っとくように」
「もし無くしても再発行とかはできんの?」
「いんや、できないよ。冒険者カードを無くしたり、奪われるような奴は冒険者として失格だからね。冒険者は危険な職業…カードも守れないような半端者はむしろ冒険者をやめた方がいいよ」
冒険者にとってカードが無くなるということは、冒険者としての素質も実力も無いという証で、特例がない限り再発行をすることはできない決まりのようだ。
(ほーお…自己責任ってわけね)
「それとこれはこの国の地図と失踪者の情報リスト… ヴッ……ギリギリセーフ」
アルセリアの地図と失踪者のリストを取りだそうとした時、また吐きそうになったステラは口を抑えて言う。
(……やっぱ休めよ)
……………………………………………………
集会所での用事を終えたバンルとステラは外に出る。ようやく聞き込み調査を始めるようだ。
「それじゃ別れて聞き込み調査をしよう。手分けして調査した方が、事件解決が早くなるし」
「そーだな」
「よし、そんじゃ私はあっちの方にあるデネシーって街を聞き込みするからバンルは私の反対側のニューオーリンって街を頼むよ」
「おう、任せな」
ステラは集会所の奥の方を調査し、バンルはその反対側を調査するようだ。
「うむ、任せた。それじゃ、夜8時にここ集合で」
そう言ってステラは集会所の奥の方へと歩いて行った。ただ歩き方が妙だ。なんというか、足取りがフラフラしている。
「……」
そんなステラをバンルはじーっと見ている。
「すんません ちょっと聞きたいんだけど、あっちの奥の方に薬屋とかある?」
「えぇ、ありますよ」
バンルは自分の横を通りかかった人に質問する。どうやらバンルはステラが調査と言って実は薬屋に向かったことを直感したようだ。
(あいつ薬買うために わざとそっちの街 選んだな)
そう思いながらバンルは聞き込み調査をしにニューオーリンという街に行った。
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バンルは 一般人、食べ物や武器の商人、教会の神父など色々な人に聞き込み調査をしていた。しかし手がかりは何もでてこず、昼飯のサンドイッチを沢山買ってベンチに座って悩んでいた。
(やっぱどれだけ沢山聞き込みしても情報はでてこねーな…この事件、本当に失踪者がいたのかすら疑うくらいに)
そう思い悩んだ後、卵のサンドイッチをひと口食べて目の前の広い道で、買い物をしてる人や歩いてる人々を眺める。
(旅人や仕事で来てる奴を除いてもこんなに多くの住民がいるのに、誰も失踪する瞬間を見ていない。昼間じゃなく夜に失踪したんだと考えた方がいいな)
手がかりなしの憶測で、悩みながらサンドイッチを食べるバンルの目の前で、アイスを持った少年が黒服の青年にぶつかり 少年は転んでしまう。その転んだ拍子に少年が持っていたアイスが青年の服にかかってしまう。
(あらら…服がアイスで汚れちまった。あの兄ちゃん怒らなきゃいいが……)
「大丈夫かいボク。怪我はしてないかい?」
バンルの思ったこととは逆に、黒服の青年は少年の手を取って立たせてあげ、少年に怪我がないか心配をした。
「う、うん。大丈夫」
「なら良かった!ただアイスの方は駄目にしちゃったみたいだね。このお金でまた新しいアイスを買っておいで」
黒服の青年がポケットからゴソゴソと出した物は、アイスを買うためのお金だった。
「でも、こんなにお金はいらないよ?」
どうやら黒服の青年は多めにお金を渡したようだ。
「それはもう君のお金だから好きに使うといいさ。たとえばアイスを2個買うとかね。これで許してくれるかい?」
その言葉を聞いた少年は パァッと笑顔になる。
「うん!ありがとう黒服のお兄ちゃん」
そう言ってお礼を言ったあと、少年はお金を持ってニコニコしながら走っていった。バンルはベンチから黒服の青年をじっと見続けている。
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「おら!奴隷の分際で反抗しやがって!」
ムチを持った男が、上裸の白髪の男にムチを叩いている。どうやら白髪の男は、まだ奴隷だった頃のバンルのようだ。これはバンルが奴隷の身でありながら反抗したことにより罰を受けている過去の記憶のようだ。
ムチで叩かれるバンルは痛みで声をあげることはなく、死んだ魚のような目でギラっとムチを持った男を睨む。
「んだその目は!!ぶっ殺すぞ!!」
睨まれたことに激怒した男はよりムチの攻撃を強く激しくして叩きまくる。それでもバンルは悲鳴などあげず、ずっと睨んだまま罰を受けていた。
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(昔とはえれー違いだな)
バンルは自分が奴隷だった頃の過去を思い出し、昔と今の人の優しさの違いを深く感じていた。そんなことをかんがえながら、最後のサンドイッチを食べ、バンルはベンチから立ち上がる。
「うし!…飯も食い終わったし、今度は失踪者の家族の聞き込み調査を始めるか」
バンルはポケットから折りたたまれた紙を取り出す。その紙は集会所でステラから貰った失踪者の情報リストで、家族のことまで書かれていた。
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時刻はもう午後の5時になる。
「なんでもいいんだ。いつ失踪しただとか……何かこの事件に関する情報みたいのはないか?」
バンルは情報リストにのっていたニューオーリンの失踪者の家族を片っ端から聞き込みしていた。
「ごめんね…逆に私もこの国の騎士や冒険者に調査の依頼をしてるぐらいなんだ」
しかし何人聞こうと情報など出てこず、最後の頼みであった失踪者の兄妹に聞いてもダメだった。
「そうか…調査の協力あんがとな」
そう言ってバンルは失踪者の兄妹に背を向けゆっくりと歩きだす。
(クソ…やっぱ何も無しか。ちょっとは期待したんだが。仕方ねぇ…明日調査する街を今のうち決めとくか)
地図を取り出したバンルは自分が調査したこの街を赤ペンでチェックし、明日どの街を調査するか悩んでいた。
「…ん?」
バンルは地図にある何かを見て思わず「ん?」と言葉がでてしまう。
「なんだこの街…小さすぎて今まで気づかんかった」
「あー!その街はミズリっていう貧民街だよ。まぁ、他の街と違って小さいから気づかないのも無理ないね」
失踪者の兄妹がバンルの独り言を聞いて気になり、横から入って地図を見にきた。
「ふーん、貧民街か…」
バンルが気づかなかった小さな街は、この国唯一の貧民街だった。
「でもその街に行っても手がかりは見つからないと思うよ」
「どして?」
「その貧民街からは失踪者の報告はないし、私が依頼した冒険者が言ってたんだけど、どうやら街の人はよそ者に口を聞かないんだって」
「そうなのか……」
バンルは失踪者の兄妹の話を聞いて少し黙って考える。
「いや、でも行ってみるよ…無駄骨かもしんないが、もしかしたら手がかりがあるかもしれないからな」
(それに、今のを聞いて少し気になるところがあったからや)
バンルは明日調査する街を決めた。何故かバンルにはこの貧民街が気になって仕方がないようだ。
「そう、それじゃ頑張ってね」
「おう、あんがとよ」
そう言ってバンルは地図ひろげたまま歩いて行った。歩きながらバンルはじっと貧民街のところばかりを見る
(貧民街ね……どの国でも貧しい生活をしてる人はいるんだな。さてと、もうすぐでステラとの集合時間だ……)
グシャグシャ…
バンルは勢いよく地図を雑に折りポケットにいれる。
(ステラが何か情報を持って帰ってくることを、祈るとするか)




