凶変
ボブ隊は森を守るように部隊を横長に配置した。
現状目の前にいるレクサスと、リザードマン増援部隊としてやってくるノーデストに備えるためだ。
ボブは正直に言うと、レクサスを然程脅威として捉えていなかった。理由は単純に先の戦闘で力のほどが窺い知れたからである。
そのためボブ自身と部隊の大半は東からやって来る増援部隊に向いていた。
やがてボブは東側からリザードマンの部隊が視認できるほどの距離まで詰まった。大凡6000の部隊で中央には初老のリザードマンが見える。
「シュルルルル。うーむ、若いのよ死に急ぐでない。罪を認めて降伏と言う選択肢もあろう。」
諭すように言うが、眼は剣呑としており空気がピリピリしてくる。
「老将ノーデスト殿よ勧告痛みいる。だがオレ達は負けるつもりも無ければ、無用な謝罪もしない。」
「それが総意か?鬼の将ボブよ。」
殺気を更に強くして睨むように今度は告げてきた。だがボブもここで引くことはない。
「左様。ゴブリンの将であるこのボブが一歩も通さん!《ソリッドフィールド》!」
ゴブリン部隊に三角錐の防御壁が展開される。ボブは先の戦いと同様に守備からカウンターを狙う戦法を取る。
「一丁前か小僧・・ならば全てを灰塵と化してくれよう!
我はリザードマンの将にして《エクスプロージョン》を有する者、ノーデストである!」
ノーデストは右手を地面に突き刺した。すると辺り一面に猛烈な爆発が発生した。
ズガガガガ!!
地面がえぐられ土塊や砂塵が縦横無尽に飛び交い、一度無防備にその場に居合わせれば即死の様な状態となっていた。
朦々と土埃が舞う中、ボブは無傷で守備に成功していた。
「どうやらここまーっ!?」
ボブの目の前に突如として土埃の中から手が出てきた。流石に面食らって驚くとノーデストは言った。
「慢心が己を殺すぞ?ワシは貴様らを殺すのに躊躇しない。」
ソリッドフィールドに触れたノーデストの手から死の奔流が渦巻いた。
《コンタクト・バースト》
パッパッパッ!ズガァァァァン!!
ノーデストがソリッドフィールドに触れた瞬間、光が瞬いた。直後、巨大な爆発が生じてゴブリン部隊をボブごと薙ぎ倒した。
その強大な威力と熱量にソリッドフィールドは崩壊し、部隊にダメージを及ぼした。
だが幸いだったのが、森を守るために横広に展開させていたので全滅を免れた。
「よぉし!ゴブリンの将ボブはワシが討ち取った!全軍、手勢を蹴散らし森へ向かえい!」
ノーデストは部下に指示を出すと、自分は後方に下がった。
実は無類の強さを誇る《エクスプロージョン》だが、魔力量に難があるのだ。
リザードマンは元々魔力量が少ない種族である事に加えて、魔法のストロング並に癖が強い固有血技である。
故に魔力が枯渇してしまう問題があり、連続使用は避けてきていた。
(くぅ、ボブ・・ワシにあれ程の威力で使わせるとはな。コンタクトなど5連炸裂でようやっと壊せたわい・・)
ノーデストはゴブリンの守備隊を一瞥すると、小さく呟いた。
「だがな、最後まで立っていた方が勝ちなんじゃよ。」
ゴブリンからはそれぞれが鼓舞する様に叫びながら戦闘している。
「森を守れ!最後の一兵まで死守するぞ!!」
ボブは起き上がらない。彼が作ったソリッドフィールドはすでに崩壊している。
だが彼等は諦めない。
背後には護りたい者がいるから。
ーリザードマン本陣ー
レクサスはノーデストが到着したのを確認して動き出した。
「敵はノーデスト隊に躍起になっている。我等は敵の側面を突くぞ!
今回は俺も出る、遅れをとるなぁぁぁ!!」
ワァァァァァ!!
レクサス隊が動き出した。レクサスが出る事で士気は以前の比ではない。
「俺はリザードマンが将、レクサスである!《俊敏の軌跡》をとくと味わえ!」
名乗りを上げるとレクサスは高速で移動した。それを目で追えるものはおらず、守備隊の守りを一気に駆け抜けて森へと侵入した。
すると森に入ったところで別のゴブリン部隊を発見する。
「やはり居たか、弓隊!魔術師隊!ここで沈んでもらう!」
ゾゾ隊とスズ隊がレクサスと会敵し、即座に戦闘が開始された。
長弓を弩に持ち替えるとレクサスに矢が襲いかかる。
「ボクらの部隊は中距離にも強いよ。このゾゾが相手になる!」
レクサスはその異名の通り森の中を縦横無尽に駆け巡り、矢を回避して接近してくる。
「み、見えない!木を倒してでも隙間なく打つんだ!」
矢に風を纏わせると一斉射撃を開始した。横列にして射出された矢は木を貫通し、レクサスに逃げ場なく襲いかかる。
「呑気な矢だな。俺には止まって見えるぞ!」
そう言い跳躍して回避すると、更に高速で動き一気に間合いを詰めた。
そして一人、また一人と弓隊が倒れていく。
「ギャ!」「グギャ!」
バタッバタッ
そこで周囲に魔法陣が浮かぶと、クラスターボムがばら撒かれた。大人数で行ったために辺り一面が火の海となった。
「これなら速度が早くても意味がなかったね!」
そう言うのは魔導師隊を束ねるスズだ。
だが、レクサスは炎の中で何事も無かったかのように立っていた。眼光をギラつかせてスズを睨むと口角を吊り上げた。
「知らなかったのか?リザードマンはある程度の魔法に耐性がある。
ネームドクラスになればこの程度、障壁でどうとでもなる。」
スズは口をパクパクさせて青ざめた顔をした。ゾゾも慌てて照準を定めるが、俊敏の軌跡を捉えることができずに弓を右往左往させる。
レクサスの動いた跡が血の軌跡となり飛散していき、ゾゾは恐怖を感じていた。
「う、うわぁぁぁ!この!!」
ゾゾは一際風を圧縮して弦を引き切ると、目の前にレクサスが突然現れた。
「どうした?打たんのか?」
ドシュゥゥゥ!!
弦を解放して矢を放つ。それは一条の突風となり木々をなぎ倒しながら遠くへと飛翔していった。
「はぁはぁ、やった・・跡形もないじゃないか!ははは・・」
ザシュ
ゾゾの乾いた笑いはそこで終わった。
「ガハッ・・速すぎ・・」
ドサッ
倒れたゾゾを見る事もなくスズに向き直ると告げた。
「グライス一座は終わりだ。俺達に弓を引いたことをあの世で後悔しろ。」
スズは慌てて土属性魔法の《グレイブ》を無詠唱で発動させた。土がいくつも隆起して地形が変わっていく。
だがレクサスを捉えることは叶わなかった。
接近された時点で通常の魔道士は後手に回る。それを覆すように猛攻を続けたスズは称賛に値した。
そしてスズの背後から1突き。
ザシュ
「見事だ。ゴブリンの魔道士よ。」
ドサッ
これでゴブリン陣営は四体のネームドが戦闘不能となった。
各陣営は苛烈を極め、一般兵による戦闘が続けられたが、実戦経験の差と指揮者の沈黙により徐々にリザードマンが優勢となった。
当初の戦力比でゴブリンが3倍はいたが、その差は縮まって行った。




