清算
「あんなに怒ったユウキはこれで2度目だわ。」
思い出してブルっと震えると、レナードが聞いてきた。
「1度目は?」
アリサは少し考えてから首飾りでレナードだけに聞こえるように飛ばした。
『1度目はサウスホープ周辺でゴブリンと戦闘になった時よ。私が死にかけたの。』
『ゴブリンとは良い関係じゃなかったの?』
『最初は出会い頭で殺し合いになったのよ。その闘いでホブゴブリンのグライスをユウキが倒した時に、見解の相違に気が付いたの。』
「無茶してなければいいけど・・・」
当主、レナード、アリサ、ルインは城下町の東にある古教会を目指していた。
少し進むとやがて異変が生じた。
城下町の東側から巨大な魔力の奔流が吹き荒れたのだ。
ー古教会ー
ユウキは風を纏って物の数秒で教会に着いた。
バァァァァァン!!
教会の扉を蹴破って入ったユウキは中を一瞥した。
そこには鎖に繋がれた人々がひしめき合っていた。
「何者だ貴様!」
言われて素直に答えた。
「ユウキ・ブレイクだ。プレジャーのボスかボーロを出せ。」
すると1人の男が前に出た。オールバックにした紳士的な人物だった。
「私がプレジャーのボスでボーロだが、何かな?ユウキ君。」
嘲笑を浮かべながらこちらを一瞥してくる。
「てめぇがボーロか、ルインに虚偽の情報を与えて何してくれるんだ!」
そこで納得したように指を顎に当てて、さも当たり前のように告げてくる。
「私の所有物にどうしようが、私の勝手だが?それに何に楯突いてるか分かっているのかね?」
すると豪腕な男たちが前に出た。
ユウキは静かにボーロに向かって歩き始めた。
すると男達は呻き声を上げて腹を押さえると、地に顔を伏せた。
ズズン!
「なっ!何が?!」
ボーロは先程とは打って変わって焦った表情を示した。
ユウキはただ歩き続ける。
その瞳は怒りを露わにするように真紅の輝きを増していた。
「お前は終わりだ。肥溜めのクソに浸かり切ったその根性はもう救えない。」
徐々に近づくユウキに恐怖を隠さずにいた。
何だあれは?同じ人間なのか?
理解不能の状況に口から出た言葉は最低だった。
「アレはくれてやる!だから関わるな!」
ブチッ
ユウキの中で何が弾けた。
迸る真紅の魔力が渦を巻き、突風となって教会を粉々に砕きながら竜巻を発生させる。
「ふざけるなぁぁぁぁぁ!!!」
バチバチ!
ユウキからは真紅の稲光が発生し、瞳孔は猫目のように大きく縦に伸びていた。
それは以前戦った黒龍の瞳と同じであったが、ユウキ自身は気がつかない。
ガンッ!
ユウキがボーロの頭を掴み、地面に叩きつけた。
地面には窪みが出来ていた。構わず頭を掴んだままボーロを持ち上げる。
「何でギルドは変わったんだ?」
言われた意味がわからず意識が朦朧とする中、ボーロはユウキが付けているバッジに目がいった。
「そ、そのバッジを何処で・・」
言われて見ると、以前商業ギルド長のガルドから貰ったものだと気がついた。
「お前に関係あるのか?」
そこで背後から1人の男が歩いてきた。商業ギルド長のガルドだ。
「ユウキ君、関係あるのだよ。その傲慢な男は私に勝ったと勘違いしている愚者だからね。」
言われてユウキはボーロをガルドの方に放り投げた。
ズザァァァと音を立てながらボーロはガルドの前で停止した。
「プ・プレジャーさん、今まで何処に?私はまっていー」
ガンッ!
ガルドがボーロを踏みつけた。
「ガハッ!」
そこでアリサ達が到着した。しかし状況が読めず静観するしかない。
「ボーロさん・・」
ルインがつぶやくが、ガルドの声にかき消される。
「貴様に不穏な空気があったので騎士団と協力して泳がす事にしたんだ。
闇ギルドは王都の裏の顔として必要悪だったんだよ。それをこんなクソみたいな集団にしやがって。」
アリサはユウキを見て異変に気がついた。
龍の瞳孔に魔力が迸り鱗を形成していた。
「ユウキ!ルインちゃんはもう大丈夫よ!!」
そう言って駆け寄るが、真紅のヴェールがそれを阻む。
「アリサ、こいつは生かしちゃいけない。」
流石に様子がおかしい事に気がついたガルドがユウキに告げた。
「後はこちらで処理する。安心してほしい。」
ユウキはガルドを睨むと殺意を剥き出しにして言い返した。
「何を勘違いしている?骨も残らず俺が消し去ってやる。邪魔だ、どけ。」
右手を前に出すと風が圧縮されていく。
これ単体で接触すれば全てを破壊する脅威を示していた。
「うぐっ、これは・・何故!」
ユウキはこの時完全に膨大な魔力に飲み込まれていた。
幼少期は無意識でリミットをかけ、覚醒してからは制御していたが、感情の高ぶりで制御出来なくなっていた。
ザシュ。
「あっ・・ル・・イン・・・」
涙を流しながらルインはボーロに短剣を突き刺していた。
「ボーロさん、例え偽りであってもボクにとっては救いでした・・これが教えの最後です。」
ボーロに止め処なく水滴が落ちて行く。
ユウキはそれを見て一気に冷静になった。
目の前の圧縮した空気を天高く打ち上げると、ソレは暴風となって爆発した。
スッー・・カッ!ズガァァァァン!!
吹き荒れる風に真紅の雷鳴が轟き、その強さに皆が唖然とした。
(あんな物が街中で炸裂していたら、王都は一発で跡形もなく消し飛ぶぞ!)
ガルドは衝撃を受けたが、ルインがユウキの元に行くと背後から抱擁したのを見て、何も言えなくなった。
「ボクは・・ユウキはこの事でこれ以上怒ってはダメ・・」
涙を流しながら告げるルインを見て、真紅の瞳から涙が溢れて風になびかれ四散して行く。
「君をもっと早く守れなくて・・ごめん。」
そこでユウキの魔力の渦が突然止まり、瞳が黒く戻ると脱力して倒れた。




