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小さな村の大きな想い

 俺は地を蹴ると、ムサビへと接近して剣を振った。


 今まで感じたことのない速度だ。

 景色が流れるようだが《点穴》はその全てを俺に分からせてくれる。


「ふッ!」

「キッ!」


 ムサビは鳥獣特有の動体視力で鉤爪を使って剣を受けた。通常であれば、その硬質な爪で弾かれてしまうのだが、真紅の魔力が刃に流れてそれを容易に引き裂いた。


「そんな剣で俺様の爪が!!ぐあぁあ!」

「見えるぞ!激流のように流れる世界の魔力が!!」


 《サイクロンブレード》

 微細に蠢く魔力を刃先に整えると、剣より放出した魔力が風を起こしムサビはキリモミしながら吹き飛ばされた。


 だが真紅の魔力はここで終わらない。

 散った風が再び集約し、周囲に大暴風をまき散らしムサビは地に叩きつけられたのだ。


「がァ……バカなァ………」

「はぁはぁ…からだが……ユウキが魔力を使えなかったのは……」


 真紅の魔力は俺の欠けた腕を疑似的に再生させた。

 だが吹き荒れる魔力が自身を蝕む。


 …どうやってユウキがこの魔力を制御しているのか分からない。


「んんっ…なん……だ、これは?何がどうなった!?」

「ボブ、大丈夫か?俺にもわからん…あれはボストン氏か?」

「二人ともよく聞いてくれ、村長代理として獣士ゴブリンに要請する」


 今までにない只ならぬ気配を察して、ボブとダンゾウは不思議と片膝を地につけていた。

 それは師であるユウキに重ねた何かをボストンに感じていたからだ。


 そして俺の一言に目を丸くして驚いた。


「村を破壊してくれ」

「「なに!?」」


 今まで必死に守ってきた村を破壊する。

 驚くのも無理のない話だが、これには理由があった。


「この村の伝承で火魔法の使用為らずと言われている…俺はいま、その禁を犯す」

「備蓄庫まで燃すつもりか?」

「いや、瓦礫と共に村全てを焼き払え……レベル5の発令だ」


 レベル5はクモの子散らせ。


 つまり村に帰ることを考えずに生きろという指示だ。


 ムサビは倒したが依然として高高度には大量のホルアクティが旋回している。

 再びの襲来があれば、もはや生き残ることなど不可能だ。


 いまは村人全員で立ち向かわなければならない…

 そのためには全てを賭す覚悟が必要だ。


 特殊な魔力の波を使ってゴブリンと村民に俺の考えを告げた。


『村長代理ボストンより通達する。現時点をもってレベル5の発令を宣言…それと同時に村の禁忌魔法を解禁する』


 避難小屋からは俺の声を聴き留めた人たちが出てきて、サウスホープ森林は村民とゴブリンで溢れかえっていた。

 レベル5の発令と聞いて動揺が起きると思ったが、空爆の惨劇もあってその瞳に宿す炎は強い。


 これを見た瞬間、俺は行けると思った。

 だから迷うことなく、皆の覚悟を載せて宣言する。



『……全てを燃やし尽くすんだ、生き残れ!』



 きっと成しえるだろう。

 俺が朽ち果てようとも、この大業を…


 村人たちはゴブリンが集めた木々へ向けて、とある魔法を放つ。

 この世界ではごく当たり前の魔法だが、この村だけは御法度となった魔法を。


「「ファイアーボール」」

「「「ファイアークラスター」」」


 自分たちが使える最大の火属性魔法を放ち、森に火をつける。

 燃え上がる炎は熱を帯び、急激に周囲の水分を蒸発させ高熱の嵐を呼び込む。


 《真紅のヴェール》と《ソリッドフィールド》でゴブリンと村民を高温から守りつつも、その火柱は高く…高く昇っていく。

 やがて炎は渦巻をおこし火炎流へと変わっていく。


 その凄まじさが一番わかるのは、突如発生した上昇気流に翻弄されたホルアクティだった。


「ケケッ!まずいぞ気流が安定しない!」

「ケーケケッ!カァァ!!」


 熱を帯びた上昇気流は、サウスホープの南部にある崖を伝って急激に大気を熱する。

 ホルアクティの飛行状態が不安定になっているのを見て、皆が思ったに違いない。


 一人一人が小さな力でも、協力すれば大きな結果を生み出すことを。


『いいぞ…その調子だ。もう少しで必ず起きるはずだ……』

「ケーッ!お前かぁぁ!!」


 ホルアクティが俺に向けて集中攻撃を仕掛け、鋭いかぎ爪で引き裂いてきた。

 だが今の俺にはなんてことはない。


「邪魔だ!しゃらくせぇ!」


 真紅のヴェールは攻撃魔法を弾き飛ばし、魔力の軌跡が攻撃場所を見せてくれる。

 《点穴》の真価はここにあるのだが、真に扱えるものは一族でも数人だけだった。


 全ての攻撃を回避しては弾き返し、ホルアクティを掴んでは投げ飛ばして炎を剣に添わせる。


 《紅蓮剣》

 突っ込んできたホルアクティをクシ刺しにすると、切っ先に集めた真紅の魔力を一気に開放する。

 凄まじい爆炎が上がりその残滓は花のように美しくかたどられた。


 それを見たホルアクティが一度距離をとると、周囲では先ほどまで吹き荒れていた暴風が鳴りを潜めてた。

 だが上空は依然として大気が渦巻いているように見える。


 それは兆候だったのだ。

 ずっと待っていたものだ。


『来た…来たぞ!全員伏せろ!!』


 かつてこの地で起きた(おぞ)ましい現象。


 雨が降りやまず麦や畑が枯れるのを心配した村民は、“火属性魔法”で上空の雲を吹き飛ばそうとした。

 最初は見事にその狙いが的中し、差し込む後光の様な陽光に感謝して喜んだ。


 だが、その喜びは急転直下。

 突如として強風が吹き荒れ、全ての作物や家々を破壊してしまった。


 先人たちは悪魔の息吹に恐怖し、その惨劇を繰り返さないために村の禁忌として語り継いだ。

 だが今、その子孫達は生き残るために禁忌を犯して奇跡を生み出そうとしている。


 片田舎の農村で起きた珍事件は、世間で広く知られることはなかった…

 そして魔法に精通する者が知ったならばこう言っただろう。


 それは“超級魔法”だと。



 風属性 超級魔法 《悪魔の息吹(ダウンバースト)



 立ち昇る気流に対して、上空から地表に向かって突風が襲来した。

 ホルアクティは突然押し寄せた突風に成す術もなく、すべからく大地に叩きつけられる。


 だが天災級の事象は必ずしも我々に味方をしない。

 誰にでも平等にその牙をむき出しにするのだ。


 サウスホープ森林の木々や建屋を放射状に吹き飛ばし、さらに上空へ巻き上げては地表に叩きつけた。

 竜巻は旋回と上昇だが、このダウンバーストは真逆に上空から地表に向けて一気に叩きつける突風だ。


 まさに悪魔の息吹と呼べる現象だった。


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