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最後の矜持(3)

 ネームドとは言え、グライスが勝手に名をつけたヒヨッコとばかり思っていた。

 だがその名に恥じぬ実力持っており、グライス集落の戦闘力の高さが一般的なゴブリンの集落と乖離していると認識せざるを得なかったのだ。


「全部燃せれば楽なんだがなァ…」


 焼夷による空爆を行えば地上の制圧も容易い。

 だが命令の一つにサウスホープの備蓄を確保することが命じられていた。


 故にこの戦略は目標物を確保するまで焼損させる可能性があって使えない。


(チッ、最初に確保していれば…少し遊びすぎたかッ!)


「ムサビ様爆撃ですか?」

「防御を絞れないほど広範囲に圧縮空気をバラまけェ!延焼する炎弾は使うなよ!!」

「「ケケッ!」」


《ソリッドフィールド》が厄介だ。

 あれは《変光星》でさえ囲い込んで爆散を防ぎやがった…


 だがそれも…もうお終いだ。

 全戦力による空爆の恐ろしさを知れェ!!


「ダンゾウ、敵が集結したぞ!」

「ボブか。《陽炎》で手傷を負わせたが、あの高さでは……」

「俺の《ソリッドフィールド》を使って防いでみせる」

「無理だ、範囲が広すぎる。集落の退避小屋を分散させたのが仇になったな」

「くっ…だが!」


 ボブとダンゾウは激しい戦略議論を繰り広げているが、自分一人が会話に加わった所で状況が変わるとも思えなかった。


 ネームド一体に翻弄された自分にできることは…何もない。

 出血のためか意識がもうろうとし始めて、気が付いたら地面に倒れこんでいた。


「ボストン氏!まだ…おい!……け…」

「《ソリッド……けて……」


 ダンゾウとボブが呼びかけているようだが、あまり判然としない。

 どこか遠くで話すように、とても会話の内容が聞き取れない。


「「ケケーッ!朽ち果てろォ!!」」


 そしてサウスホープに過去最大の災禍が訪れた。


 爆音と暴風による破壊の嵐が押し寄せ、音が風によって何も聞こえなくなるほどの重爆撃。

 凄まじい破壊の怨嗟と激しい土埃によって周囲が見渡せない状況となった…



 視界が確保できるようになるまで数分。

 それはまるで数時間であったかのような、(おぞ)ましい時間だった。


 だが《ソリッドフィールド》によって守られた自分に被害はなく、やっとの力で起き上がると我が目を疑った。

 まず最初に出てきた言葉はこれだった。


「……ここはどこだ?」


 道はない。

 畑もない。

 家もない。


 遠くの山が見通せる場所は…サウスホープ森林の木々があった場所じゃないのか?

 だが森林の一部は平地を作り上げ、平地には大木がいくつも突き刺さっている。


 破壊された村の残骸と備蓄庫。

 そして大空を凱旋する獣人ホルアクティが全てを物語っていた。


 引いた血の気が徐々に頭へと上ってくる感覚が自分でもわかった。

 これを惨劇と呼ばずに何と言おう。


 守ってくれたボブは倒れ、ダンゾウは防御姿勢で立ったまま動きもしない。


 なぜ使えない自分が立っている?

 なぜ村が残っていない?


「おれは…俺はぁぁぁ!なんで俺だけが!!」

「ケケーッ!いい御身分だなァ!」


 ムサビが戦果に満足して高揚を抑えきれずに罵る。

 それに対して…俺は怒る事さえできない……


 ドクンッ…


 失血のせいか、自らの鼓動が大きく聴こえる。

 喪失感とは本当に何も残らないときに感じるものだ。


「暑い…心の臓が張り裂けそうだ……うあ…うあぁぁあぁ!」


 唯一残された左手で剣を持ち、無様に構えてムサビへと突き進む。

 しかし利き腕を失い、振り回す剣技は児戯に等しかった。


 ムサビが呆れて固有血技も使わず放った圧縮空気は、俺の胸に当たり吹き飛ばされる。


 しかも利き腕を失っているので受け身も取れず、無様に転げまわる事しかできない。


 ドクンッ…ドクンッ……


「俺はなぁ…この村にきて……ぶうぁ…ペッ」

「もういいかァ?雑魚は雑魚らしく強者に食われなァ」


 そう言って羽を大きく広げると、眼前に《変光星》の分解光が襲い掛かった。


 パパンッ!


 俺の目の前で《変光星》の光が弾け飛び、ムサビの攻撃は防がれた。

 ボブは倒れていて《ソリッドフィールド》は発動できず、誰も助けられる状況ではなかった。


 ー…?


「なんだァ??」

「ユウキが産まれて、三人で幸せに生きてきたんだ…」


 パパンッ!


 再び光と羽根が眼前で弾けたが、俺は構わず歩みを進める。


「新たな命が産まれる時に…俺は見届けないかもしれない……」

「なんだ…?何なんだよォ!」

「それでも俺は…生まれてきてほしいと……願うから」


 ムサビはビクッと震えて体が硬直し、羽ばたく事もできずに地面へと落下した。


(俺は何を見た…?あいつを見た瞬間に体が固まっちまったッ!)


 ムサビは起き上がり羽ばたくと、自爆覚悟で《爆発型変光星》を発動させる。


 一気に消し去るつもりだ。


「きィえろォォォ!」

「俺にもあの血が流れているんだよ」

「細胞の一片までなァ!!」


 灼熱の棒を押し当てられた様な、熱い瞳で敵を見る…

 だが見据える先は違う。


 それは…ゴブリンや大切な村人(かぞく)だ!


「見せてやろう…全てに劣った父が息子に見せる…最後の矜持をな!」


 あらゆる物質を分解する攻撃的なエネルギーの光が俺を中心にして輝いた。

 その威力は凄まじく、大地は蒸発して円形状のくぼみを形成し、土煙をあげて蒸発させた。


 だが…


 流れる風は熱を帯びて、赤く発光する。

 光の中に輝く瞳孔は何を意味するか。


「これが本当の《点穴》の世界……」

「ケーッ!」



 ボストン・ブレイク


 真紅の瞳 開眼



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