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祝福された生誕(2)

 獣人の集落…いや、今は獣士の集落と言うべきだな。

 昔は大木を刺しただけの簡素な壁だったが、あれは撤廃されて綺麗な花壇として境界が敷かれていた。

 それほどまでに獣人は心に余裕を持ち、生きることに楽しさを覚え始めていたのだ。


 そもそも自らも動けなくなる大木の柵は不都合があるとして、警備体制の見直しが図られていた。


 そしてこのグライス一族の集落は人口に対して建屋の数が多めに構成されているのだが、サウスホープの住民を受け入れる準備をしたからだ。


 森林内にも上空から見えない場所に避難小屋が多く建てられおり、今回はそこに避難することになっていた。


 俺達は村長からの要望もあって、村長宅として使用する場所に同居することになった。

 外観はカモフラージュのために無骨な作りをしているが、中はロッジのように居心地の良い空間だった。


「凄いわ…!こういう部屋も悪くないのね」

「あぁ、ゴブリンの繊細さには驚かされるな」

「リースさんはあちらの部屋を使ってくだされ。大事になさって」

「ありがとうございます。でも…」


 リースが気にして何かを言おうとしたが、村長はそれを遮った。

 それは村の発展や村民の大事という大きな意味があるのだ。


「子供は村の宝だ。子が生まれなければ村は滅びてしまう。そういう意味では国も村も同じじゃ」

「リース、お言葉に甘えよう」


 リースは断る事が失礼であると察して、直ぐに笑顔を向けて部屋へと向かって行った。

 彼女は思いやりが強い反面、非常に自分の事を無下にする事がある。だが今回は自らに宿った生命の息吹が素直になる理由になった。


「さてボストン君、茶も出ぬ間で申し訳ないが…」

「はい、直ぐに村に戻り状況を確認して来ます」

「俺達も行こう」


 急ぎ建屋から出ようとすると、二体のゴブリンが鎧を着飾り進言してくれた。

 警護隊だと思うがゴブリン集落の警護は大丈夫なのだろうか。


「良いのかい?少し長くなるよ」

「問題ない。ボブ様から命令を受けているから安心してほしい」


 ボブはグライス一族で、ユウキから名を与えられた個体(通称ネームド)の一体だ。

 護りに長けた彼は集落全体の防衛を担っており、不在の間の行動命令を事前にしていたのだろう。


 通常の獣人ではこういう集団的な考えは浮かばない事が多い。

 この頭のキレ具合が通常個体とは一線を越えた存在だと分かる。


「それと上空を飛ぶ鳥の数がおかしい。ホルアクティの可能性があるから情報収集を頼む」

「こちらも察知しているが正答だろう。齟齬なく承知した」


 そう言って影から現れたゴブリンは音もなく消えていった。

 本当に恐ろしい集落だ…


 あれはダンゾウの部下だろうが、情報収集能力は人族のそれを超えている。

 そして師は自分の息子だと言うのだから尚のこと背筋に汗が伝る物があった。


(本当にユウキは凄いな…この状況でも混乱が起きないのはユウキのおかげだ)


 蒔いた種は確実に芽吹き、そして大きく育っている。

 それは数百年前から続く芽吹きの延長だが、知らず知らずに一族がその木を大きく育んでいた。


 巨万の富や名声もない一族がそれを遂行するには、途方もない苦労があったに違いない。

 時には途絶えたブレイク家があったかもしれない。

 故にその種は皇帝という立場や、遠く離れた農夫など種々累々に芽吹いた。


 この事をボストンは気が付かないし知る由もないのだ。


 ブレイク一族。

 ナルシッサから始まり赤龍の血と固有血技を絶やさず継承し、その困難を乗り越えてユウキ・ブレイクは大輪を咲かせようとしている。


 そして父であるボストン・ブレイクもその一端を担おうとしていた。

 ほんの小さな世界のほんの少しの幸せかもしれないけど、それを守れる力がある人は一握りなんだから。


「行こうか。助けが必要な人が居るかもしれない」

「「承知」」


 森を駆け抜ける最中、ビッグベアに遭遇した。

 敵意がなければ普段は無視するが、今回は避難者が襲われる可能性もあり命を頂戴した。


 土属性初級魔法 《グレイブ》


 隆起させた地面に足を載せ力を入れて駆け抜ける。


「大気の精霊よ、我が身に貸したまえ」


 付与魔法《疾風刃》


 音もなく剣を抜くと、切っ先に風圧を付与して振りぬいた。

 すると、固い皮をも切り刻みビッグベア―の頭部は身体から離れて脱力した。


 ヒュッ!チンッ…


 血払いをして剣を納めると、そのまま村に向けて疾走を続けた。

 恐らく放っておいてもゴブリンが回収に来るだろう。彼らの縄張りを荒らすのはあまり好ましくないが今は仕方がない。


 集落に到着すると、案の定と言うべきか問題が山積みだ。

 大量の荷物を背負って動けなくなった村人や、耐力的に乏しい高齢者が休みながら進んでいたのだ。


 森の方でも子供は普段森に入らないから探検家気分で迷子になる始末である。

 これはゴブリン(主にダンゾウの部下)に探索をお願いしたが、有事でも遊びにしてしまう好奇心は凄まじい。


「ふぅ…こんなもんかな?」

「では我々は最終確認をする」

「待ってくれ。君たちは戻ってくれないかな?」

「なぜだ?」


 俺達は一通り村を回って取り残しや、避難間違いがなかったかをチェックした。

 誘導も終わって最終確認という段階なのだが、先ほどから上空に嫌な空気が漂っていた。


 自分でも何がそう思わせるのか、分からなかった。


 これは《点穴》が一際大きな魔力を感じての事だったのだが、ユウキほど扱いに長けていないので、それが何なのか理解できなかったのだ。

 普通はそれに気が付く事さえない。故にそれが分かっただけでも大したものなのだ。


「説明は出来ないが、嫌な予感がする」

「……分かった。大事にしてほしい」

「ははは…死ぬ気はないよ」


 ゴブリンたちと別れた後は備蓄庫や子供が遊びそうな場所を確認して我が家に戻ってきた。

 この家には沢山の思い出があり、初めてこの村にやってきた事を今でもよく覚えている。


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