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久しぶりの再開(2)

 室内に中に入ると、ほのかに紅茶の香りが鼻腔をくすぐる。その香りにややリラックスする気持ちを受けて部屋の奥へと向う。


「お帰りレナード。客人がいるなら言ってくれれば良いのに」

「あぁユウキ、こちらは僕の母上さ」

「えっ?母上…?はは…ハハァ!いつも懇意にさせて頂いております!!」


 凄まじい勢いで両手両足を地につけて額が擦れるほど地面に近づけている。

 これが世にいう “ゴアイサツ” だ。


「ちょっ!ユウキやめてよ!」

「ふふ、それじゃお見合いじゃない。レナードと良くしてくれてありがとう」

「いや、貴族とかじゃなくて礼儀だよ」


 それだけ言うとティーカップを追加で二つ用意して、左手でウォーターボールを出し、右手に炎を出して湯沸かしを始める。


 僕たちにとっては、ごくごく当たり前の日常風景であった。


 ぱくぱくぱく…


 口が開いては閉じ、開いては閉じ…

 ユウキの湯沸かしを指さしてフードをかなぐり捨てた少女(?)が飛び出した。


「すっっご!君たち無詠唱を生活に組み込んでるの!?」


 いきなりユウキに飛びついたミミは、湯沸かしを見て不思議そうに眺めていた。


「えっと…魔血衆のミミさん……ですよね?」

「そだよー」


 ……


「俺たち戦争中ですよね?」

「そだよー」


 ………


「パーミスト洞穴とゼリウス大雪山で戦ったんじゃないのですか?」

「そだよー」


 ユウキへの説明が遅くなり順序が逆になってしまった。

 本当は説明してから姿を現してもらおうと思ったんだけど…


「ユウキ、色々あってミミには人族と戦う気がないよ」


 それを聞いたユウキは怒ったり否定したりするつもりはないようだった。


「ん、ツノは隠しておけよ。それと一般庶民は叩いただけで死ぬから気をつけろ」

「えっ?それだけ?」

「おいおい、獣人と仲良くしたのは誰よ?やったのは俺の方が先だよ」


 言われてみればそうだ。

 人族と不和を持つゴブリンと仲良くしたくて必死に駆け回っていた。


 そんなユウキが真剣な眼差しを向けて友として大事なことだと告げた。


「だけど忠告しておく」

「何かな?」


突然の剣幕にゴクリと喉を鳴らすと、平静を装って答えを待った。


「…超しんどいからな」

「ふふっ、確かにそうだったね」


 僕たちは少し前を思い出して笑いあった。

 それを見た母は、聞いていた以上に破天荒で僕にとって掛け替えのない人なんだと思っていたに違いない。


 新たに紅茶を淹れて客人に席を用意し、ユウキは改めてミミの眼を見て問いかけた。


「ミミ、俺はカイラスを止めるけど最悪は良いんだよな?」

「仲裁はしないから良いよ。ミミはミミのいる場所がミミなんだよ」

「分かった。それと北方から迫る魔族が来ている。そこにジーザスの魔力が混じった」


 連絡のつかなくなったミミの補填に充てられたのだろう。それを聞いてレナードと母は頷き合い覚悟を決める。


「北方の守りはドールが引き受ける」

「だろうね。今の戦況は聖都がガーミランと、神無砦でコルモスと激突」

「大丈夫そう?」

「あぁ、共に撃破または撃退に成功した。けど他方の戦力は動けないのも事実だ。転移先が全土に及ぶことを証明したからな」


 魔血衆コルモスはミルキーファームと自らの名を変え神無砦で一戦を交えた。

 そこでフェニキアから手痛いダメージを受けて姿をくらましたのだが、即時副首都チェストに向けて侵攻へと転じたのだ。


 街道と補給路が絶たれた事を商人が慌てて早馬を走らせ副首都チェストへ報告。議会は早々にダルカンダへの退却を決意し王都へ申請をした。


 だがしかし、全ての物資類の運搬や破壊が間に合わなかったのだ。

 ミルキーファームは無人の副首都を手に入れた事で食料を確保することだろう。


 更に最悪な事に、チェストに残された盗賊団“鵙”の罪人を現地徴用する可能性がある。

 彼らは恐怖による統制に慣れており『従えば悪い様にしない』という提案をサラリと受け入れて魔王軍の軍門に降る。


「やはりあの時斬っていれば…」

「“もし”の話は幻想であって現実から遠くなる。反省は全てが終わってからだ」

「ふふっ、あなたは年相応に感じませんね。レナードの良き師のよう…」

「師ではなく親友です。俺も完璧じゃないですから」


 そう言って苦笑いを浮かべるユウキは、一年の旅でぶつかり合った事を思い出しているのかもしれない。


 僕もそうだったから。


 さすがに開戦から一週間程度でここまで戦局が動くとは思っていなかった。


 だが明るい知らせもある。

 アリサが聖都を襲った魔血衆ガーミランを倒し残存勢力を戦意喪失させた。


「ガーミランが?アリサってあの洞窟に居た子でしょ?ミミにはとても戦闘向きには…」

「新たな固有血技に目覚めて十八番の炎と合わせて圧倒したらしい。“雹炎の女神”と呼ばれたらしいが…まじこぇー…堕天使だな…」

「あの雷と剛腕バカ相手にねぇ。凄いね」


 ユウキはミミの舌が僅かに唇を濡らしたのを見逃さなかった。


 しかし転送装置を使って追い抜いたのは良いが、魔族がどのくらいの位置に居るのかが分からない。


「北の到達予想時刻は?」

「3日って所だ。俺はこれからダルカンダに向かうが…お前らならイケるだろ?」


 ユウキはニヤリとしてレナードとミミを交互に見やった。


「ミミは王都への侵攻を防ぐだけ。攻勢には加わらないよ」


 ユウキは頷き「それで十分」と加え、僕の肩をトンッと叩いた。

 それが何を意味するのかは分かっている。


 騎士団と共に北方の最後の防衛を任されたのだ。

 ドール家の末裔として、失態を挽回するチャンスを拾わせてくれる。


「君は本当に…王様のような人だね」

「俺は王様じゃないよ。レナードの友人でただの学生だよ」


 この一言に涙を流した母を見て、出立の準備を終えたユウキは部屋を出て行った。


 長旅の疲れを癒すように三人で自由に使って良いと言っていた。

 しかし精神的に休まる時間が必要だと感じて、予定を早めて出発したのを知ったのは後になってだった。




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