久しぶりの再開(1)
ミミが落ち着くまで見守るしかなかったが、しばらくしてブランケットを引き寄せると僕の方に真剣な眼差しを向けた。
「レナード、お母さまに言わないといけない事があると思う」
「あぁ…うん。母上、兄上の事ですが…」
「迷わず斬りなさい。父上が真にお認めになられたのはレナードですよ」
―ッ!なんだって?父上が僕の事を??
父上は兄上ばかりを見ていたのではないのか?
兄上の裏切りによって心変わりしたのだろうか。
僕と父上との溝は縮まりつつも、あの事がなければ家督を継ぐという考えは浮かばなかったと思う。
「あなたが王都学園の試験で魔力の使えない子と交友を結び、鼻につく貴族の子息との縁を蹴飛ばした。この話を聞いて大笑いした時から王は考えていたそうです」
そんなに前から自分の事を見ていたのか…
それより僕が貴族を毛嫌いしていたのは知っていただろうけど、その逸話を大笑いして聞いたことに対して驚きを隠せない。
「誰が媚びへつらう息子を至上の喜びとしますか?レナード自身が選択した事が、親として何より嬉しくて、そしておかしな話だったのですよ」
本当に自分の事が何も見えていなかったと反省の念が浮かぶと同時に、申し訳ない気持ちで一杯になった。
「良かったね、レナード」
「ありがとう。それと母上はこれから…」
「一緒はちょっと危ないね」
これから王都に向けて進軍した魔族を追わないといけない。
だが母上を戦場に連れていけないが、このまま残しても一人では復興も生活もできない。
「構いません、連れて行きなさい」
「でも…あっ、そうだ。ゼリウス大雪山に向かうよ!」
「えぇ?逆方向じゃないの?」
ドールガルス城塞の地下にはトージの隠し部屋があって、そこが王都の地下ダンジョンと繋がっている。
今から崩落したドールガルスでその場所を特定するよりも、転送装置の場所が分かっているゼリウス大雪山に戻った方が早いはずだ。
「今は僕を信じて。王都に転送できるはずだから」
「分かったわ。私はあなたについて行きます」
「ミミがおぶさるよ。お母さま背中に乗って」
だが母上はミミの方ではなく装飾豪華な箱の方へと向かい、その一つを開けて中身を取り出した。
そしてミミの方に近づくと、それを差し出したのだ。
「その格好では外を歩けないでしょう?召し物をどうぞ」
「母上それは…!」
シーッ…
口を開きかけた所で、母上は指を口元に沿えてレナードを見た。
それはトージがやっていた仕草で、確か…静かにしろと言う意味だ。
ミミは今のやり取りが良く分からなかったが、裸で出歩くわけにもいかず差し出された衣服をありがたく頂戴した。
「ありがとう!これで手が使えるね」
ルンルンと意気揚々と服を纏うと宝石類が光り輝き、ミミの身体へと吸い込まれていく。
「こんなに良い物いいのん?」
「もちろんよ、あなたに良く似合うわ。いえ、あなただから似合うのね」
??
ミミは小首をかしげて、でも高そうでちょっと困ったように “にへら~” と笑って僕を見てきた。
「へへっ、かわいい?」
「うん、とっても」
なぜか心の臓が早鐘を鳴らしたので、平静を装ってニコリと返事をした。だがそれを見逃す母ではなく、なぜか優しい雰囲気に包まれていた。
穴を脱した僕たちはまず父上の遺体へと母上を案内し、最後の別れの時間を作る事にした。
しかし母上は父上の手を胸に置くだけで、直ぐに立ち上がり向かうように促したのだ。
恐らく僕たちが地下室へ来たことで、その時が来たことを悟っていたのだろう。
本当は自分が泣きたいくせに、聖母のように子供の世話を焼いて…
その後ゼリウスまで何事もなく戻って魔法陣を起動し、トージの残滓に出会った部屋へと辿り着いた。
ここは以前と変わりないようで、やはりドールガルス城塞のどのあたりに作られた部屋であるのかは分からなかった。
母上もミミも不思議な空間に驚きつつ通り過ぎて、王都ダルメシアの地下ダンジョンへと戻ると、勾玉の首飾りからユウキに念話を飛ばした。
『ユウキ、ドールガルスが陥落した。地下ダンジョンに戻ったけど急ぎ問題に当たりたい』
『そうか…学生寮に来られるか?』
『オーケー』
そう言って念話を終えて二人に行き先を伝えると、ミミにはフードを目深に被るように告げた。
魔族の角は外見で人族のそれとは直ぐに分かってしまう。王都内部に魔族が侵入したなんて騒ぎになれば大惨事間違いなしだ。
外に出ると王都に戦禍は訪れていないようで、物流制限などの慌しさはあるが誰にも止められずに学生寮へと行けた。
入口で寮長に止められたのだが、実母なので問題ないしドールの妻と分かれば、鬼の寮長と言え地に膝をつき首を垂れるという物だ。
(ごめんなさい、寮長)
普段だったら止めるのだが、今日に限ってはこの態度に助けられたので素通りさせてもらった。
そして部屋の扉の前に立つと、魔力を通じて部屋のカギを解錠する。
色々あったが本当に久しぶりの帰宅だ。そして中にいる人物にすごく会いたいと思う。




