邂逅(4)
ここでルインが立ち上がりトージに問いかけた。
「ところでボク達は結局何をすればいいの?」
ルインは俺の顔を見るとウィンクしてきた。
話が脱線したが魔族との戦争やゼロの盤上について詰めねばならない。
「そこのお嬢さんは大したものだ。魔族は4ヵ所から攻め入る」
「場所が分かるのですか?」
「いいや、だが転送は魔大陸の4ヵ所から行われるのは知られていた」
トージの話によると、魔大陸の東西南北4ヵ所に起動しない転送用巨大魔法陣がある。
だがこれは誰が何の目的で作ったのか不明。融和のカーテンと同じような代物らしい。
伝承では『融和のカーテンが解かれるとき、両大陸に光が指し示す』とあったが、三国大陸の何処に転送するかは不詳。
恐らくそれは魔族も同じであった。
開戦と同時に位置が分かった所で先攻は取れない。
開戦前から転移元の位置を知っている魔族が先手になるのは確定である。
「拠点防衛で分散するしかないってことですか」
「そのためのドールガルス城塞だ。ダルメシアは堕とすな」
ドールガルス城塞。
レナードはその単語がトージから出たことで身を強張らせた。良い意味での緊張と思えた。
レナードの故郷であり、王都を防衛する要塞都市。
生まれた頃からその使命を言い聞かせられていたが、先日魔族との実力差を思い知ってここへ来ている。
トージはそんなレナードのことを察したのか、先ほどの刀を差しだした。
「お主の魔力は我の先祖返りを果たしている。自信を持っていないだけだ、これを持て」
そう言って差し出したのは先ほど対峙した刀である。
「イビルウェポン…」
「二対一帯『狂乱』と言う。あらゆる物が豆腐のように斬れるので酔狂に呑まれるな」
それを聞いてレナードが僅かに震えたのを感じ取った。
確かにあの刀からは魔力とは異なる別次元の何かを感じる。
「ぐがぁっーーッ!これは!?」
“汝には無理だ。何も護れないし全てを巻き込むだけだ”
刀からレナードに直接呼びかけるような声が響き渡る。
あれは手に取った瞬間、自分の鏡のような問答を繰り返して圧し潰されるような感覚に陥る。
俺も大斧シュレッケンで感じたが、レナードが負けるような代物ではないはずだ。
「レナード、飼殺せ!」
「それに負けちゃダメ!ボクでも黙らせたから大丈夫!」
(僕は…もっと高みへ…)
“汝の言う高みは破滅。守護対象も殺して終わりだ”
(《光の翼》はもっと違う…力のはず!)
“違わないさ。汝は実際に巻き込み殺そうとした。あのパーミストで…”
(それは僕が弱いからだ!もっと正しく使えれば!!)
“そうだ。使う者次第で名刀にも妖刀にもなろう…”
(ならば僕は、君を、名刀にしてみせる!)
“自惚れるな。その自尊心が破滅を呼び寄せる”
(ならばどうすれば…!)
“困れば聞くのか?自ずと答えを出せぬか?ならばその手を放せ”
(…出せる。僕はお前を使いこなし皆を護る。だから…力を貸せえええ!!)
はぁはぁはぁ……
レナードの荒い呼吸が響くと同時に、強大な魔力が渦を巻いてレナードを取り込もうとする。
“…弱者よ、見惚れし時は今ではない”
一部始終を見ていたトージは頷いてレナードの肩に手を置いた。
「修羅となれ。正解の道は二つに一つだ」
「でも天満に導かれたら…」
トージは人差し指を口元に当てて頷いた。
レナードは首をかしげるも、それ以上は問答をする気はないと理解したようだった。
「刀次郎、それは俺達にしか分からんぞ」
「ハッハッハッ!そうであろうな。だが身内はみな吾輩の仕草を覚えたものだ」
そしてトージは魔族侵攻の対策を教えてくれた。
それは短い年月で成し得る物ではなく、半分賭け事の部分もあったが凡そ成功していると言っても良い。
魔族侵攻に対して打った手立ては三つ。
一つ目はイビルウェポンの収集。
二つ目は真龍の説得。
三つ目は固有血技の継承。
どれも時間の流れと共に衰退するものであって、継承が問題だった。真龍も長寿とは言え、使命を全うせずに死すことも考えられた。
戦争中にダルカンダの武器屋に封印したり、自分たちが使ったものを封印したりして対策を講じた。
そして固有血技の継承は半分賭けであったが、見事成功したと言う事である。
「だけど集めて世界が壊れたら、ボク達のせいなのかな?」
「いいや、恐らく扱う者が破壊を望まなければ暴走しない」
まずい。
ここで大事なピースが欠けている事を思い出した。
「一本、奪われました……」
「……ぇ?」
「魔王カイラスに……」
「なッ!6つ揃えた状態でカイラスに挑み、奴が望んだら…」
世界が崩壊。
「でも大丈夫じゃないかしら。魔族は豊かな地を望んでくるのでしょう?」
アリサの言う通り、奴らは豊穣の土地を狙ってこちらに来る。
であるのならば、わざわざ破壊を望んだりはしないだろう。
それこそ本末転倒だ。
「そうだと信じよう。しかしイビルウェポンが強力なのは確かだ。きっと力になる」
そこで僅かにトージの姿が蜃気楼のように薄くなり歪んだ。
「時間が近いな…」
「あの!兄が国王と妹を拉致して雪山に向かったと…急ぐ方法はありますか!」
レナードはやはり気にしていた。
焦るまいと静かに心を燃やしていたのだ。
「雪結晶の形をした魔法陣がゼリウス大雪山に転移する監視用魔法陣だ。レナード、兄が呑まれた時は迷わず斬れ」
レナードは『呑まれた』の意味が分かったのだろう。
操られた皇帝にフェニキアが殺されたとき発現した能力《天満の翼》。
あれは邪心の塊であって、とても天照光之翼とはかけ離れていた。
彼の言う修羅の道とは…
それに対してレナードは迷わず頷き返した。
彼もこの世界では罪人が断罪されるのは当たり前と言っていた。
昔の日本でもそうであったのだろう。
「斬れ…か、日本人の転生者である刀次郎が言うとチクリと来るね」
「ユウキには無理か?ならば秩序整う世界になったのであろう」
「まぁね、日本は産業革命で栄えて平和になった」
「そうか…刀を捨てた汽車は時代の転換点となったか」
明治2年より着工した新橋ー横浜に線を結ぶ計画より、測量士の帯刀が決められていた。
まことしやかに測量に使う磁石が刀に反応し邪魔なので、刀を外す許可を新政府に求めたとも言われた。
変革の象徴である鉄道が、武士の魂である刀を捨てたのだ。
いつの時代もターニングポイントがいつ訪れるかは分からない。
だがそれを逃してならない。
例えばこの戦争に負ければ人族が絶滅する未来は想像に容易い。
やがてトージの光は強くなる。
ナルシッサの残滓と同じように残した魔力が尽き始めているのであろう。
「必ず魔族に勝て…遺した欠片は必ず貴殿らの役に立つ…」
「あぁ、任せろ」
「僕たちが守ってみせます!」
刀次郎は最後にルインに目を向けると、微笑みかけて消えて行った。
「ボクの中にいるの、分かっていたんだね」
ルインはそう呟き、胸に手を当てて瞑想していた。
黒龍の思念から何かの感情が来るのかもしれない。
だがそれはきっと悲しい物ではないと…俺は想った。




