久々の休暇(1)
長く滞在するうちに身内から苦言が噴出した。
「少しくらいは街並みを楽しむ時間が必要よ!」
それは女性陣から発せられた切実な願いだった。
先日宿屋に遅く帰ったユウキとルインに、アリサちゃんが大変ご立腹であったのだ。
そんな訳で本日の鍛錬や依頼を受ける事は止めになった。
冒険者ギルドに行きそれをジャック達に告げると、苦笑いしながら必要な事だと人生の先輩として諭されてしまった。
トータル生きた年数はジャックより上だが、赤ちゃんからやり直した為あまり人生経験は変わっていなかった。
若干反省の色を出して宿屋に帰ると、アリサが腰に手を当てて待っていた。
服装も旅装から私服へと変わっている。
夏用の少し露出が多いもので、ユウキはマジマジと見てしまった。
「さぁ!行くわよ!」
「えっ?ちょレナード?ルインは??」
「2人は忘れ物をしたって言って出て行ったわ」
何を忘れたのか不明だ。
ルインに至っては一緒に行動していたから、そんな物がないのは分かっている。
つまり、先日ルインと2人揃って帰宅が遅かった件について弁明はなく、認めるからお前らも行ってこいと言う行動で示した発言だった。
「分かった!分かったから!」
グイグイ引っ張るアリサの腕を掴んで引き寄せた。
顔が間近に迫り、プイッとする仕草にドキドキしてしまった。
「お、落ち着けよ。ほら、急がなくても逃げないさ」
そしてアリサの手を握ると、今度はユウキがアリサをエスコートするように出発した。
2人は街中を散策していると、露店が並ぶ商店街に出た。
王都でも家屋で商売する人より露店の方が多かったが、ここでも同じようであった。
「あっ見て見て!お芋を蒸してるわよ!」
辺りには芋の蒸した甘い香りが漂っており、大変食欲をそそる物があった。
「一つ買って食べてみるか」
そう言ってユウキは蒸し芋を一つ買ってみた。
「兄ちゃん、温かいうちにこれを付けると格別だぜ。本来は有料だが姉ちゃんに良いところ見せてやりな!」
気前の良い店主から受け取ったのはバターであった。
勝手を知っているのでそれを芋に乗せると、香り豊かなじゃがバターの完成だ。
ユウキはアリサの元へと戻ると座れるところを探し、丁度いい噴水があったのでそこへ向かった。
「こいつはじゃがバター、熱いから気を付けろよ?」
そう言って差し出し、ホクホクの芋にトロける黄色い液体を塗ってアリサは一口。
「あつっ!あふあふ」
「だから言ったじゃないか」
ユウキは自然と笑みが溢れて自分も一口。
「あふっ!」
「だから言ったじゃない」
ユウキは涙目でアリサを見ると、2人は笑いあった。
そして食べながらジャック達の話になった。
アリサもジャックのパーティメンバーである魔導師カーミラの師をしている。
「ジャックはすごい才能の持ち主だよ。基礎鍛錬を確実にしただけで化けてきたよ」
「カーミラも魔力制御が凄まじいわ。試しにユウキに教わった無詠唱をやってみたの」
「おぉ、どうだった?」
「最初から手に炎を出す事ができたわ。だけど・・・」
「ん?問題が?」
「ユウキに見てもらわないと分からないけど、魔力量が多くなさそうなの」
制御が完璧でもアリサのように貯蔵する魔力量が多くないと、中級の複数同時行使や上級魔法が使えない。
「やり方次第では初級無詠唱の方が役立つけど・・・」
「ええ。無い方がいいけど大規模な魔物に出会したり、長期戦のダンジョンは厳しいわ」
そんな話をして芋を美味しく頂いていると、通りかかった男が声をかけてきた。
「よう、ユウキも年相応だな」
ジャックだ。それにカーミラとナタリーも一緒にいる。
「やぁ、アリサが買い物に行きたがっていてね」
「俺にはデートにしか見えないがな」
ガハハハと豪快に笑ってカーミラにツルツル頭を叩かれていた。
「ごめんなさいね。お邪魔は行きますので今日はゆっくりしましょ!」
彼等は商店を覗きに行ってしまった。
じゃがバターも食べ終わり立ち上がった2人は再び商店を見て回った。
途中でアクセサリーの露店を見つけて、そこで立ち止まった。
ある一つの物にアリサは釘付けになっている。
「おっちゃん、これいくら?」
「2銀だよ。姉ちゃんくれるなら1銀でいいよ」
「気前いいね!」
そう言って店主に2銀を差し出した。アリサへのプレゼントだがそれ以外の理由がある。
「その心意気に1銀で2銀さ。生活あるでしょ?」
店主は言われて敵わないなと言いながら、お金を受け取った。
アリサに振り向くと、髪ゴムを手に乗せて差し出した。
アリサは嬉しそうにポニーテールを揺らしながら二人で歩いていると、一軒の店が目に入った。
剣と盾をモチーフにしたデザインが飾られた店、武器屋だ。
「どうしたの?ナックルが欲しいの?」
バルトフェルド戦で壊れてしまった金獅子のナックル。
だがユウキの全力に耐久する武具は店では売っていないだろう。
「いや、大斧が見たいんだ」
「ジャックにプレゼント?」
ユウキは首を横に振り否定した。
武器は自分達の命を預ける物で、入念に調べて気に入ったものを買うのが良い。
「ヒミツ」
ニヤリとして武器屋の中に入ると、沢山の種類の武器が扱われていた。
その多品種さに、店主の腕の高さが窺い知れた。
真紅の瞳の投稿が遅くなり申し訳ありません。
ホラー小説2020の予定が出たので、そちらの執筆に時間を取られてしまいました。
アリサのお話が少し続きます。




