ダルメシア戦争の正史(5)
前話に地図を入れました。
両軍の英雄が混戦している状況において、王都側に一筋の光明が見える。
激闘を繰り広げる中でナルシッサの固有血技である《点穴》に変化が訪れた。効果深度か大幅に向上したと記録されている。
だが固有血技の内容であるため、何が変わったかを示す文献は残されていない。
唯一記述が残るのは教皇録で、恐ろしい速度で魔法を行使し結界の一部を消滅させたとある。
危機を感じた教皇とヴァルジェ大佐が部隊を緊急撤退させ、3人は退却が遅れた連合軍を蹴散らすと悠然と帰還した。
再度建て直しを図り2度目の防衛戦が開始された。時間が経つにつれて王都の魔法障壁は強度が低下し、あと少しで破壊されると言う段階にまで来ていた。
デルタとトージは再度の出撃を敢行しようと城壁に登った時、トージの言うその時が訪れた。
半ば勝利を確信していた連合軍が飛来した何者かによって、閃光と共に結界ごと消し飛ぶ大惨事が起きた。
そして上空にある三つの影は、王都を護るように城門前に着地する。
伝説上の生物である四大真龍のうち、赤龍、光龍、そして黒龍がトージの援軍として飛来したのだ。
それを見た連合軍は即座に撤退を決意し、攻城を取りやめて各々の領地に向けて退却した。
デルタはそれを確認すると、騎士団を率いて帝国側に追撃を敢行した。
ダルカンダまで追撃したところでヴァルジェ隊に追いつき、二人の指揮官はこのダルカンダの地にて雌雄を決する。
第二次ダルカンダ攻防戦と呼ばれ、連戦続きのヴァルジェ・サーマス大佐がデルタ騎士団長に押し切られる形で完全敗北を迎えた。
この時ハーミットで帝国の補給線を維持していた部隊が増援として付近に来ていたが、ダルメシア王国防衛戦は連合軍の敗走との早馬を受け、ヴァルジェ大佐の救援に向かうことなく踵を返した。
聖騎士司書によると撤退は迅速かつ早急に行われた。帝国側の結界を即座に解除すると、教皇は自分と聖騎士のみに対象を絞り強度を向上させた。
だが、結界が無残に砕ける瞬間は脳裏に焼き付き、教皇は神に祈りながら昼夜問わず疾走して聖都へ帰還したとある。
王都は防衛戦と追撃戦の勝利に凱旋を行った。この時真龍達は人型へと擬態していたと言う。
また、トージと真龍の仲については謎とされているが、凱旋と祝賀会の様子を記した書物や絵画から密接な関係であると推測されている。
この後王都ダルメシアは、聖都に対してトージを使者として和平交渉へ赴かせる。
トージは教皇に賓客として迎えられて教皇が直接会談に応じると、結界に傷を残した武勇を称え「平和を望むのならばそれが神のお導きだ」と、民衆に宣言して終戦を迎える。
聖都と王都が和平を結んだ事により、帝国側から使者が赴いた。ヴァルジェ・サーマス大佐を討ち取ったデルタ騎士団長に敬意を表すとして、勲章が皇帝より届いたのだ。
裏を感じて周りが止める中で、デルタ騎士団長は堂々とそれを受け取った。そして使者に皇帝への言伝を依頼した。
「ヴァルジェは良き戦友であった。俺がいる限り帝国の愚者は全て斬り伏せる」
それを受けて二ヶ月後、皇帝より直々に和平会談の申し出があった。国王は教皇を交えて大陸の3国代表者を王都ダルメシアに集結させた。
この会談は『不可侵会談』の呼ばれ、人族同士の戦争根絶を発表。『ダルメシア戦争』はここに完全終戦を宣言された。
ーーー隠し執務室ーーー
以上がダルメシア戦争の正史だ。
因みにこの正史は各国の文献を全て集めて部会形式で有識者が作ったため信頼性は高く、各国共通認識である。
「私からの講釈は以上だよ。」
それを聞いて皆一様に礼を述べた。
「「「ありがとうございます。」」」
ここでユウキは先のノーザス手記を照らし合わせた。この手記の1ページでさえ正史と異なった情報が記述されている。
正史ではナルシッサが西側聖都領に向かったのは、聖都の敵意炙り出しだ。
だが手記には獣人ホルアクティの調査となっている。何故ホルアクティが動いたのか?
正史には獣人の話が出るのは、戦争前の騎士団による鎮圧と、帝国の進軍を阻んだ突発事象だけだ。
しかも帝国は4万もの軍勢のうち5,000もの兵士の命が失われた。詳細は書かれていないが大規模な闘争であった事は容易に想像がつく。
「この執務室とトージの書庫には、本人達が駆け抜けた歴史を書かいたとすれば・・・」
「その通り。たった1ページで正史が覆った事を喜ぶべきか恥ずべきか。」
ユウキは今現在の魔族の動きを考えると、当時の知識を蓄えた方が良いと考えた。
「学園長、ダルメシア王からの命による出立を遅らせる必要性を感じます。
せめて一ヶ月、できれば一年は欲しいですが・・・」
そしてこの執務室の本よりもトージの書庫を最初に巡った方が良いと考えていた。それはレナードも同じ考えであった様だ。
「ユウキ、僕はトージの書庫の方が気になるけどどうかな?」
「それは俺も考えていた。正史上にノーザス・バレル氏についての記述がほぼ皆無なのは気になるけどね。」
そこでアリサが現在の問題を指摘してくる。獣士達と連携を取れた今を逃すと帝国と聖都の交渉に支障をきたす可能性がある。
「私は目の前の問題を先に片付けた方がいいと思うわ。獣士と人の繋がりができた今だから動ける事よ。」
「そうだね、ボクもアリサに賛成かな?こう言う時はすぐに動いた方がいいよ。」
ユウキは考えた末一つの結論をつけた。
「学園長、やはり出立はします。ただ準備期間に少しだけダンジョンに潜らせてください。」
それを聞いて学園長は頷くと、許可などの申請は任せろと言い皆で執務室を後にした。
「では、君達は課外活動として学園に在籍したまま出立することとする。
それと首飾りについてだが、同調した魔道具をこちらに用意したので定期的に連絡を下さい。」
ユウキ達は決意に満ちた瞳で力強く頷いた。彼らの道は以前険しいが可能性はある。
「ありがとうございます。良くなるように尽力します。」
そして4人は学園長室を後にした。
残されたノイントは水晶に手をかざすと、ダルメシア王へ今あったことの報告とダンジョンの使用許可を求めた。




