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第68話 いざヨロイ島へ!


 マキナ達の帆船は海を渡り、ヨロイ島への進路を辿っていた。

 心地よい風が吹き、遠くの空でカモメの群れが飛ぶ。


「気持ちいい〜!」


 アリアは船首部に立ち、ダイレクトに風を浴びながら行った。


「砂浜も良かったけど、船からの眺めはやっぱり最高だよ〜!」


「まさかマキナが帆船免許まで持ってるなんてね」


 ステラはリンドヴルムを磨きながら、広がる海を見渡す。

 まだ『白銀の翼』にいた頃、素材調達の活動範囲を広げるために免許を取得していた。

 鍛冶業務の合間で勉強し、その成果を活かす日が来たという訳だ。


「久しぶりの操縦だけど、まぁ大丈夫だろ」


 マキナは帆の角度を操作し、進路を確保する。

 この辺は漁でも使われている海域なのでモンスターも出現しない。


 ゆったりとした、束の間の船旅を楽しむ4人。


「ヨロイ島、あそこは王国が土地開発に失敗した所だな」


 ベローネの言ったことは、マキナも耳にしたことがあった。

 王国の港町からそう遠くない位置、農地や土壌も悪くなかったのだが、古くから生息するモンスターが強力なため、完全な駆除が出来なかったと。


「大昔は人間が住んでいたが、今ではモンスターの棲家。我々人間が迂闊に近付けない領域になったわけか」


「ヒヒイロカネみたいな鉱物でも無い限りな」


 狙ってる連中も手練れと見ていいだろう。

 そんな危険な場所にわざわざ出向くのだから。


 ただ、悪人かどうかまでは分からない。

 もし相手が攻撃を仕掛ければこちらも迎え撃つ、そのくらいの認識で大丈夫だろう。


 今回の目的はあくまでヒヒイロカネの獲得。

 数多の武器を所持するマキナだが、出来るだけ争いは避けたい気持ちがあった。


「確か海賊が出るとか言ってたよな? アリア、何か不審な船は見えたか?」


「うーん、特に何も見えないよ〜! キラキラした海が広がっております!」


 アリアは辺りをキョロキョロ見渡す。


「出来れば遭遇しないのが1番いいわね、面倒なのはごめんよ」


 やがて帆船は、ヨロイ島を含む島々が点在する海域に入る。


「ヨロイ島は……あの1番奥の奴だな」


 ヨロイ島は一際巨大な島、見ただけですぐに分かった。

 火山を含む岩山に、緑が生い茂った外観は、まるで朽ち果てた巨大な鎧に見える。

 ヨロイ(・・・)島、と名付けられた理由が理解出来た。

 肉眼でこそ捕らえられたが、まだ少し距離はある。


「無事に着きそうだね〜、私ずっと気が張ってたよ!」


「全然そんな風に見えなかったぞ」


「むしろいつも以上の能天気さだったわよ」


 ステラが続けて言った。


「ええ〜違うもん! 私は気合い充分だったよ!」


 アリアがむぅ、と頬を膨らませる。

 あっけらかんとしてるが、きっと誰よりもこのクエストを成功させたい想いが強いのだろう。

 自分が夢中になってる歌姫が頼ってくれた。

 彼女のためにも、他のファンのためにも、その期待に応えなければならない。


「あー分かった分かった、充分理解した」


「まさかここまでマー兄が私のことを分かってないとはね……とてもアリア検定1級所持者とは思えないよ!」


 何だそれは。

 いつの間にか身に覚えのない検定を受けさせられ、あろうことか合格している。


「ヨロイ島にいる可能性もある、降りてからも油断は出来ん」


「まぁそれならそれで痛い目に遭わせてやるわよ」


 ステラはリンドヴルムを磨き終え、その場で一振りしながら言った。

 海賊は海で戦うことに慣れた連中、装備や物資も海上に特化している。

 海上戦では、どんなに凄腕の冒険者でも苦戦を強いられることになる。

 王国の領海内で、海賊が無くならない理由もそこにあった。

 逆に言うと、フィールドが陸上になれば弱体化するということだ。


「でも少し拍子抜けね、アタシらの日頃の行いの良さって奴かもね」


「いや、そう都合良くはいかないらしい」


「え、どうして?」


「どうやらお出ましみたいだ」


 それは近くの島の影から現れた。

 黒い船体に、ドクロが描かれた巨大な帆を掲げる帆船。

 見る者を恐怖に陥れる外観、海を支配する存在。


 間違いなく――海賊船そのものだった。


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