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第66話 『虹の蝶』せっかくだから海を満喫する


 ◇


 青い空、白い雲。

 真夏の太陽が降り注ぐ港町。

 多くの観光客で賑わう海岸に、一際はしゃぐ少女がいた。


「――うーーみぃぃぃ!!!!」


 アリアはハイテンションで海に飛び込み、キラキラ飛沫と舞う。

 可愛らしいフリルの水着が、底抜けの明るさを持つ彼女の魅力を押し上げている。


「ほら、ステラちゃんも早く〜!!」


「相変わらず子供ねぇ、そんなにはしゃいでると危ないわよ」


 やれやれと言った表情で波打ち際に近づいて行くステラ。

 パレオの水着のため、普段のヘソ出しショートパンツ姿より露出が抑え目という不思議な状況になっていた。


 そんな彼女はアリアに水をぶっかけられ、烈火の如き勢いで水をかけ返していた。

 はたから見ると、ステラの方がはしゃいでる様に見える。


「海かぁ……」


 そんなマキナはビーチパラソルの下、ビーチチェアに優雅に寝そべっていた。

 愛用の外套だけを脱ぎ、海に入る気などさらさら無いと言わんばかりに。


 帆船の予約の関係で、ヨロイ島への出発は2日後となった。


 その間は何をしようかと相談する際、水平線に広がる砂浜、青く輝く海が映った。


 もはや、やるべきことは1つ。

 海の家で水着を買い、4人はこうして海水浴に来ていたのだ。


「君は泳がないのか、マキナ?」


 遅れて水着姿のベローネがやってくる。

 身に纏う赤いビキニは、彼女の抜群のプロポーションを更に引き立てていた。

 男女関係なく、すれ違う者皆が振り返る美貌。

 正直、目のやり場に困る。


「日光浴で充分だ」


「ふむ、だが服を着たままでは日焼けも出来んぞ」


「俺は泳げないんだ」


 マキナは頭の後ろで腕を組み、身体をビーチチェアに預ける。


 正確には言うと、彼は泳げなくなった。

 海に棲まうモンスター、メガロラギアの鱗を手に入れるべく深海に潜った際、不覚を取って溺れたのだ。

 当時の武器の性能が不十分だったのもあるが、マキナにとってすっかりトラウマになっていた。


 運良く民間の漁船が通らなかったらどうなってたか。

 それ以来、よほどのことが無い限り海に近づかなかったのだ。


「意外だな、君にも不得意な物があるなんてな」


「こればっかりはどうしても克服できない」


 ベローネはクスリと笑い、となりのビーチチェアに座る。


「私の妹も泳げなかったのを思い出した」


「え、妹がいるのか?」


「そうさ、とにかく甘えん坊でな、私のそばを離れなかった。何かあるとすぐに泣いてしまうんだが、それも含めて可愛いんだ。あの顔は昨日のことのように思い出せる」


 笑顔のまま語るが、その目は少し寂しそうに見えた。


「幼少期はミリシャ村という小さな村で暮らしていた。もう地図からは無くなっている。ある日、村が大量発生したモンスターの襲撃にあった。大人達が私と妹を逃がしてくれたんだが、混乱の中ではぐれてしまったんだ」


「スタンピードか……」


 スタンピードとは、人間の生活圏にモンスターが大量に襲いかかる現象を指す。

 今は冒険者ギルドの活躍の賜物で発生は少ないが、ほんの数年前までは頻発していた。


「それ以来離れ離れさ、王国に捜索願いも出してるが何の進展もない。冒険者になって名が広まれば妹も私に気付いてくれるはずと『虹の蝶』に入り、剣の道に進んだ」


 そうして私は、今日までのうのうと生きてきた、とベローネは続ける。


「私は妹を守れなかった。駄目な姉だ」


 そんなことがあったとは。

 パーティーこそ組んでいるが、ベローネの過去は初めて聞いた。

 思えば自分は、メンバーのことを深くまで分からない。アリアはまだしも、ステラのことも『虹の蝶』で出会って以降のことしか知らない。


「何かごめんな」


「いいさ、私が話したかったんだ。こちらこそこんな話をしてすまない」


「ベローネは家族の話をしただけだ、謝らなくていい」


「もし君が溺れることがあればすぐ私が助ける、安心してくれ」


「すごくありがたい」


 少し情けなくもあるが、気分的には楽になった。同じ『虹の蝶』の仲間だからこそ、マキナはすんなり打ち明けることが出来た。

 きっとベローネも同じだ。


「ふふ、何故だか私は安心している。マキナにも苦手な物があると知れた」


「マー兄とベローネさんもあそぼーよー!!」


「この波に乗らなきゃ損よー!!」


 波打ち際のアリアとステラが呼びかける。


「呼ばれてしまったな。マキナ、不安なら手を繋ごうか?」


「俺の年齢下がりすぎてない?」


 極端な対応に、マキナは呆れるのだった。


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