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第33話 哀れなジュダル


「そんなことしても無理だ、大体ここは人が多いからやめてくれ」


 周りの人々がざわつく、街の往来で人が急に土下座を始めたら誰だって注目する。


「お願いしますぅ……! 私は自分の弱さを痛感しました。それだけじゃありません、人としての器も小さい最低の人間だと」


「……」


 ジュダルは顔を地面に擦り付ける。


「このままだと私は冒険者としてやっていけません。上級クエストの報酬の味を知ってしまった以上、下級の報酬程度じゃ到底生きて行ける自信がないんです、そもそもクリア出来るかどうか……」


「それは自分で頑張るしかないだろ」


「マキナ様の武器があれば頑張れます!!」


 ジュダルは腹の底から声を出した。


「それに、もうワインもラデム豚の丸焼きも食べられなくなっちゃいます。私……舌が肥えてしまったんで、庶民の飯を食べて暮らすのなんて辛いんです……」


「……」


「本当に辛くってぇ……!!!」


「……」


「だから、戻って来てください」


「無理だ」


「――ぬぁああんでえええええ!?!?!?」


 ジュダルはお菓子を買ってもらえない子供のように、仰向けになって暴れ始めた。


「今ので何でいけると思ったのよ」


「マー兄、この人なんか怖いよ……」


 ステラは呆れはて、アリアは言いようのない恐怖を感じていた。


「俺を追い出したのはお前だ。あの時確かに必要ないと言っただろ、なら最後まで突き通せるよな」


「嫌だ嫌だ嫌だあああああああ!!!! 無理なんですうううううう!!!!」


 ジュダルはのたうち回り続ける。


「とりあえず暴れるのやめろ! アイスに砂が掛かるだろ!」


「だああああああああん!!!!」


 まるで会話にならなかった。

 ただ唯一、この街の最下位が決まったのは間違いなかった。


「はぁ、埒があかないな」


「どうする、このままじゃ私達がいるだけで迷惑だよね??」


「離れましょ、アタシもうアイスの気分じゃ無くなったわ」


 マキナ達3人は歩き出す。


「う、ぎぎぎぎぎいいい……み、見るなぁ、こんな俺を見るなあああ……!!」


 ジュダルは涙と砂でぐしゃぐしゃになったまま叫ぶ。そして、朧げな視界で遠ざかるマキナの背中を見る。


 ああ、

 俺の最後の希望が……、

 このままじゃ俺様のギルドがぁ、


 大体何でだよ。

 何でアイツは仲間に囲まれて、

 俺は今一人でうずくまってんだよ。

 クビにされた側ってのは不幸な人生を送らなきゃダメだろうが……!

 クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソが!!!!!!!

 

 どうしても戻らねぇってんなら……。


 「お前の人生、そのものを終わらせてやるよ……!」


 ジュダルは懐から銀色に光るナイフを取り出した。

 今、彼が唯一所持している武器だ。


 そして立ち上がり、一気に駆け出した。


 「――マあああキナああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


 絶叫と共にナイフを突き立てる。


 「!?」


 「――マー兄!!!!」


 ガキィィン!!


 金属音が鳴り響く。

 ジュダルのナイフはポッキリと折れた。


 マキナは背中のイフリートを抜き取り、ジュダルの攻撃を受け止めたのだ。


 「な、なな」


 イフリートはジュダルを威嚇するように赤い刀身に炎を纏わせた。


 「何でだよ」


 それはまるで、

 主人であるマキナを守っているように見えた。


 「――お前まで俺を裏切るのかよおおおおおおおおお!?!?!?」


 ジュダルは絶望した。

 本当の意味で味方がいなくなった、そんな感覚が彼を襲ったのだ。


 「マー兄大丈夫!?!?」


 「大丈夫だ、問題ない」


 「コイツ……! やっぱり今痛めつけてやるわ!!」


 「な、なあああああ!!!!」


 心も折れたジュダルは一目散に逃げ出した。

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