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【第93話:お断りします】

 ◆ キュッテ視点


「レミオロッコのサポートに羊偵察隊も増員したし、向こうにはアレン様もついてくれているのだから、きっと大丈夫……」


 思わず漏れた呟き。

 でも、不安になる気持ちは押し殺し、今は自分のするべきことに集中することにしましょう。


「フィナンシェ、久しぶりに本気の走りを見せて!」


「がう!!」


 突然あがった速度に振り落とされないように、フィナンシェの背に必死でしがみつきます。


「ふぎゅっ⁉ ……ぐぬぬぬぬ……」


 まぁ落ちそうになっても、魔力の膜のようなものを張ってくれているので、落ちる事はないかもしれないですが、時間をロスしちゃいますからね。


 視界の後方に吹き飛んでいく景色。

 時速で言えば軽く100km以上は出てそうですが、もうこの速度になってくると、体感でいくらかなんてわかるはずもありません。


 とにかく、それほどの凄まじい速度で走っているわけですから……。


「見えたわ!!」


 あっという間にシグナ様たちのところへと辿り着けました。

 この短時間で正確に到着できたのは、フィナンシェの走る速さの他に、シグナ様たちに羊を一匹同行させていたおかげで、正確な位置が把握できたというのが大きいですね。


「おっと、そうだわ。突然近寄って驚かせないように……フィナンシェ、咆……少し控えめの咆哮よ!」


 私は学習する女なのです!

 背中に乗っている時にケルベロスモード(フィナンシェ)に本気で吠えられると、暫く耳がキーンとなって何も聞こえなくなっちゃいますからね……。


「がう!!」


 ケルベロスモード(フィナンシェ)は短く小さく返事をすると、その直後、遠くまで轟く咆哮を放った。


 控えめでも結構耳がキーンとなってるけど、何も聞こえないような状態ではないので良いでしょう……。


「なな、なんだ!?」


「ビッグホーンの群れがもう来たのか!?」


 結局ちょっと驚かせてしまったみたいだけど、突然現れるよりマシだとは思うので、これで良しとしておきましょう。

 そうこうしているうちに、顔が視認できるぐらいまで距離を詰めていた。


 そして、そこにはシグナ様の姿が。


「静まれ!! この声はきっと……」


 混乱する騎士団に一喝したシグナ様が、こちらを振り向いたのがわかったので、すぐさま声を掛けます。


「シグナ様!! こちらに半数近いビッグホーンの群れが向かっています!」


 シグナ様たちも魔道無線は持っていたので、既に連絡は入っているのはわかっていたのですが、まずはその事を伝えます。


「やはりキュッテか!? あぁ! さきほど連絡を受けた! し、しかし、来るのが早すぎないか……?」


 そして、シグナ様の返事を聞く頃には、もう騎士団の前に到着していたので急停止しました。

 急制動で私の身体が飛んでいきそうになるけど、魔力の膜がそっと包んで防いでくれた。


「さすがうちの優秀な牧羊犬!」


 フィナンシェ大好きよ!


「牧羊犬……」


 牧羊犬ですが何か?

 と、こんなことをしている場合じゃないわ。


 改めて周りを確認してみると、シグナ様率いる騎士団の少し後方に少し大きめの家が一軒あり、そこにみんな避難しているようです。

 今も、窓からこちらを不安そうに見る……というか、怯えた目で見る視線をいくつか感じる……。


 騎士団はともかく、さっきの咆哮で怖がらせちゃったみたいね……。

 フィナンシェ、コワクナイ、カワイイ、ヨ?


 でも、今は誤解をとくことよりも、ビッグホーンの群れを迎え撃つ準備を!


「シグナ様! 連絡ではどの辺りまでお聞きになられていますか?」


「ん~、とりあえずビッグホーンの群れの三分の一ほどがまっすぐこっちに向かっているということと、あとは大きく広がっているので逃げるのが難しいというぐらいだな。あとは、どれぐらいの猶予があるのかまではわからないと聞いた。それが一番知りたいのにさ……」


 はははは。すみません。

 ある程度正確な位置がわかるのは、おそらく私だけなので……。

 ただ、もう逃げる時間はなさそうなことだけは確かです。


 私は改めて能力を使い、別れたビッグホーンの群れに並走させている羊の居場所を確認する。


「え? もう見えてもおかしくない距離だわ!」


「なに⁉ もうそんなに近くまで来ているのか!?」


 私の言葉に、その場にいた他の騎士たちも騒然としています。


「とりあえず……迎え撃つ準備をします!」


「キュッテ、助けに来てくれたのは嬉しいが……我々が時間を稼ぐ。女子供だけでも連れて、ケルベロスで逃げてくれないか?」


 まったく……アレン様と違って、シグナ様はおちゃらけていて、そういうタイプには見えないのに、やっぱりアレン様のお兄様ですね……。


「いいえ、お断りします」


「よし、ではまずは家の中にいる女子供から……なっ!? 今断ったのか!?」


「えぇ、お断りしましたけどなにか?」


 まさか領主の息子で騎士団の隊長のお願いを断られると思っていなかったのでしょう。

 驚いて固まっていますが、私はみんなを助けるためにここにきたんです!

 そんな誰かを犠牲にしてとかお断りです!


 送還、召喚コンボを使うにしても、この後ろには広大な畑も広がっています。

 あのビッグホーンの群れが通過すれば、もう今年の収穫は無理でしょう。


 まぁ命を優先するにしても、そもそも時間が足りません。


「な、なにかって……いや、まいったな……ははははは」


 シグナ様が乾いた笑いを浮かべていると、そこで後ろに控えていた騎士の一人が叫びました。


「み、見えたぞ!! ビッグホーンの群れが来たぞー!!」


 うわぁ……あらためてこうしてみると、その数と迫力に腰が抜けそうになりますね……。


 でも、そんなことしている場合じゃないわ!


「もう時間がありません! これを家の周りにまいて(・・・)ください! 特にビッグホーンの群れがやってくる側に!!」


 私はそう言って、腰につけていた袋をシグナ様に渡したのでした。


2022/2/4にドラゴンノベルス様より

『羊飼いキュッテは異世界でもカワイイを広めたい

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主要サイトでは予約も始まっておりますので、どうぞよろしくお願い致します!

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