【第91話:親友】
ケルベロスモードした二匹のフィナンシェの姿は圧巻でした。
見た目は頭が一つになっちゃってるし、もう大きな狼のような姿なんだけど、その纏っている魔力がなんだかいつもより凄まじい気がします。
でも、それもそうよね。
普段は私を保護するために魔力の膜を張っているだけで、魔力はかなり抑えてくれているみたいだし、前に副ギルド長を追い詰めた時などは今と同じように凄い魔力を感じたもの。
だけど、それよりも……。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「ひ、ひぃいい!?」
周りをなんとかしなきゃだわ……。
「みなさん! 落ち着いてください!! フィナンシェが真の姿、本当の大きさに戻っただけです! 私の牧羊犬なのは変わりありませんから安心してください!!」
って、言ったのだけれど……。
「「「こんな牧羊犬いるかぁぁ~!!」」」
凄い勢いで否定されてしまいました。
うん。その気持ちはわかるわよ?
私だって「これがうちの牧羊犬よ」って紹介されたら、全力でツッコむもの。
だけど、本当にうちの牧羊犬なんだから仕方ないじゃない!
あらかじめコーギーモードを紹介する時に、ケルベロスでうちの牧羊犬ですとは言っておいたんだけど、元の姿は初めて目にする人がほとんどだから、驚くのも無理はないわね……。
でも、どうやって落ち着かそうかと思っていると、またもやアレン様がイケメンを発揮してくれました。
「みんな落ち着いて下さい!! あらかじめ説明していたはずです! ケルベロスが牧羊犬なんて確かに非常識で信じられないことですが、」
ぅぅ……たしかに非常識なのは認めるけど、アレン様の口から改めて言われるとちょっとショックね……。
まぁ本当に非常識だから否定できないんですけど!
「ですが、こう考えて下さい! 敵に回すとこれほど恐ろしい存在はいませんが……味方に付いてくれた時に、これほど頼もしい存在もいません!! この街の命運は、フィナンシェに……フィナンシェたちにかかっているのです!」
アレン様はそう言いきると、驚く事にそのままスタスタとフィナンシェたちの元まで歩いていき、その巨大で強靭な足をそっと撫ではじめたのです。
「あ、アレン様!?」
「き、危険です!! お離れ下さい!!」
周りで見守っていた人たちが口々に叫びますが、アレン様は今度はにっこりと笑みを浮かべ、
「何が危険なものですか。これほど可愛くて頼もしい子をつかまえて」
と微笑んだのでした。
◆
アレン様のお陰で皆が落ち着きを取り戻し、その後、さっそくすぐに二手に分かれて現地に向かうことになりました。
そう。なったのですが……。
「だ~か~ら! 私が追い込む作戦の場所に向かうから、キュッテ、あなたはアレン様のお兄様のところに向かいなさいって!!」
「だ~か~ら! レミオロッコにそんな危険なことをさせられないって言ってるじゃない!!」
急にレミオロッコも協力をすると言い出したのです。
普段引っ込み思案の人見知りなのに、急にどうしたっていうのよ?
「危険って言うけど、それを言うなら状況も整っていない中、シグナ様たちを助けに向かうキュッテの方が危険じゃない!」
「ぅ、で、でも、私は本当にいざとなったらフィナンシェと一緒に送還で逃げる事ができるから!」
「だけど、あなたの性格からして絶対に一人で逃げないでしょ!」
た、確かに目の前の人たちを見捨てて逃げれるかと言うと自信はないけど……。
「ぅぅ、そ、そんなことは……」
「そもそも。フィナンシェちゃんはすっごく頭が良いけど、作戦の細かい所まではわからないわ。ここでキュッテ以外に、その辺りの指示をだせる人がいる?」
「ぅぅ、そ、それは……」
「それに、私の向かう方は周りにも沢山の衛兵さんや冒険者さんたちがいるし、安全も確保しているはずよね? だって、キュッテ、あなたが色々考えてくれたんじゃない?」
それはもう安全対策はかなり気を使って考えたけど……。
「ぅぅ……」
レミオロッコと言い合いをして、ここまでやりこめられたのは初めてです……。
「キュッテ、あなたは凄い人よ。でも、何でも自分がなんとかしないといけない、なんて思わないで。私はあなたの一番の友達でしょ? じゃぁ、その友達をもっと信じてよ」
「ぅぅ……レミオロッコのぐせに……」
レミオロッコのばか……みんなの前で泣いちゃったじゃない……。
私だって、前世の記憶があるってだけでこんな大きな作戦、こんな怖い事初めてだもの……そりゃぁ怖いわよ。
でも、それでも私は役に立つ前世の記憶が、知識が、知恵があるし、私が頑張る事で助かる多くの命があるのなら、助けたいじゃない。
だから、怖くてたまらない自分の気持ちは一旦無視して、忘れて、忘却の彼方に蹴飛ばして、それで何とかしようと頑張ってたのに……。
「私は何度もキュッテに救われたわ。でも、私だってあなたと出会ってから随分成長したのよ? 親友を信じなさいよ」
「ぅぅぅぅ……うるさ~い! 従業員の癖に生意気よ! わわわ、わかったわ! 今回だけはあなたの事を信用して任せてあげる! 作戦の方は頼んだわよ!!」
「そうそう。キュッテはそのぐらい元気じゃなくちゃ。そもそも私の雇い主なら、もっとシャンとしてよね!」
こうして、作戦はレミオロッコが、シグナ様たちの救出は、私が助けに向かうことに決まったのでした。










