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【第85話:羊の】

 今回の大規模なビッグホーンの群れの対策本部は、街の外に設営されました。

 本来ならば、街の中の安全な場所に設置するべきものだとは思うのですが、作戦上、私がケルベロスモード(フィナンシェ)に乗ってすぐに動けるようにという事で、街の外に設置する事になったのです。


 その対策本部には、いくつかの天幕が張られ、周りに沢山の衛兵や冒険者が集まっており、既に羊戦車も最後に完成した一台を除き、全てここに運び込まれていました。


 まるで戦争でも始まるみたい……物騒で、なんだかちょっとしり込みしてしまいそう……。


 そんな風に、ちょっと不安に思っていおると、アレン様が声を掛けて来てくれました。


「キュッテ! よくやってくれたね! ご苦労様!」


 声を聞けてちょっとホッとする気持ちになれたのは嬉しいのですが、でも、アレン様まで街の外に来ることは無かったと思うのですが……。


「ありがとうございます。だけど、アレン様はどうぞ街の中へお戻りください。それにイーゴスさんまで……」


 やはり心配なのでそう言ってみたのですが、まったく聞き耳を持ってくれませんでした。


「何を言っているのですか。キュッテには一番危険な役回りをして貰うというのに、自分だけ街の中でゆっくりなどしていられません」


「私は老い先短い身ですからね。こんな大きな出来事を、街に籠って見過ごすなどという選択肢はございませんよ」


 アレン様の責任感といい、イーゴスさんもまだまだお元気だから全然老い先短くは無いのに、お二人とも人が良すぎます。


 それに、ケルベロスモード(本来の姿)のフィナンシェの背に乗っている限りは、そうそう死ぬようにもならないでしょう。


「はぁ……たぶんここで私が何を言っても、街には戻ってくれないんですよね?」


 私がそう言うと、何も言わず、にっこりと微笑む糸目イケメンと元イケオジ……。

 本当にこの人たちは律儀なんだから。


「わかりました。では、時間が勿体ないですし、さっそく始めましょう!」


「わかってくれれば良いです。さぁ、あちらの天幕に地図など全て準備が出来ています。急ぎましょう」


 アレン様とイーゴスさんの後に続いて、中央に張られた一番大きな天幕に入っていくと、そこには何人かの屈強な男の人たちがいました。


 そしてその中央には……。


「やぁ、キュッテ! また会ったねぇ♪」


 アレン様の兄であるシグナ様が、一人大きく手を振りながら、また軽い感じで声をかけてきまたのでした。


 ◆


 その場にいた人たちと一通りの挨拶を交わしたのち、あらためてこの場で一番偉そうな人物であるシグナ様に、もう一度挨拶をしておきました。


「シグナ様。いよいよ本番ですが、よろしくお願いいたします」


「もう~、アレンみたいに堅いのはやめてくれないかなぁ?」


「シグナ兄さん! 僕は別に堅いわけでは!?」


 兄弟で顔は似ているのですが、言動や性格はかなり正反対ですね。

 それより、ここにシグナ様が来られているという事は……。


「シグナ様。もしかして作戦に参加されるのですか?」


「あぁ、もちろんさ! 私はこう見えても騎士だよ? この鎧が見えないかい?」


 たしかに、衛兵の詰め所でお会いした時と違って、今は高そうな全身鎧に身を包んでおり、言動とは裏腹にとても立派に見えます。


「あれれ? なんだか私のこと疑っているのかな?」


 以前の副ギルド長の一件の時にアレン様が着ていたのは衛兵のものと同じ革製のものでしたが、シグナ様が着ているものはほぼ金属製でかなり頑丈そうです。


「いいえ。とんでもございません。鎧が綺麗なのでつい……立派な騎士の鎧ですね」


「だろ~? これでもこの街に常駐している騎士の小隊の隊長なんだよ?」


 騎士なだけでなく小隊の隊長までしている事に、ちょっと驚きました。

 失礼ですが、言動がかなり軽いので……。


「シグナ兄さん、それより早く作戦会議を始めましょう」


 あら? アレン様が少し不機嫌そう。

 もしかしてヤキモチかしら~♪ 私って罪作りなおん……。


「時間が勿体ないです! 少しでも早く作戦を開始した方が成功率があがるのですから、軽口を叩いている暇はないのですよ!」


 あ、そうですね。時間が勿体ないことぐらいわかっていたわ。


「わかったわかった。じゃぁ、早速始めるとするか」


「キュッテ、一通りの作戦は既に皆には説明済みだけど、当初の予定から何か変更になった点はあるかな?」


 ほぼ最初に立てた作戦通りですが、魔道無線が沢山集められたのなら、少しその点を説明しておかないといけないですね。


「はい。でも、その前に確認をさせていただけませんか」


「ん? なにかな?」


「ゴメスさんから魔道無線が結構な数集まったとお聞きしたのですが、具体的には何個集まったのでしょうか? あ、羊戦車で使用する以外の数です」


 各羊戦車には、最初から領主様や衛兵隊などで所持している分でちょうどカバーできていたので、その使い道は説明してあるのですが、それを超えて集めて貰った分をどう使うかの説明はまだしていません。


「えっと、たしかギルド長から聞いたのは十八個だったかな」


 うん! 思ったよりもずっと集まっていますね!


「そんなに! ありがたいですね! では、十八人の偵察隊を編成したいので、並行で人選をお願いできませんでしょうか?」


 それから「出来れば」と付けてから、編成する時の条件も併せて伝えておきました。


「しかし、偵察隊ですか? その者たちに持たせるわけですね」


「はい! 羊偵察隊です!」


「へ? ひ、羊の偵察隊、ですか?」


「なになに? 羊の偵察隊とか面白そうじゃないか~。早く聞かせて欲しいな!」


 アレン様は少し困惑気味に、シグナ様は興味津々と言った感じで身を乗り出してきました。


「そうです。羊の(・・)偵察隊です! ではこれから、既存の作戦からの変更点を中心に説明させていただきます!」


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