【第84話:匠】
空が明るみ始めた頃。
ようやく四台目の羊戦車が完成しました。
「お、終わった……ま、間に合った……」
「ちょ、ちょっとレミオロッコ!? 大丈夫!?」
間に合ったと言いながら、後ろにゆっくり傾いていったので、慌てて駆け寄って支えてあげました。
それにしても、さすがレミオロッコだわ。
絶対に間に合わせてくれると信じてはいたけれど、本当に四台の羊戦車を一晩で完成させてしまうのだから、レミオロッコの『創作』スキルの規格外っぷりを再認識させられました。
出来上がった羊戦車には、もう最後の色付きの羊たち、ライトグリーンの『めろん組』の五匹が繋がれています。
この最後の一台は、これから衛兵の詰め所へと行き、選ばれた衛兵が乗車する事になっています。
一つ、羊とある程度の意思疎通ができるようになる能力。
この能力を使って、羊たちには今日は衛兵たちのいう事を出来るだけ聞くように言いつけてあります。
まぁ「命大事に!」とも厳命しているので、無茶な事を言われても聞かないとは思いますが。
そんな風に、さっき羊たちに言って聞かせていた時の事を思い出していると、もう衛兵の小隊が引き取りに来ているようです。
「キュッテの姐さん! 衛兵への引き渡しも終わりやしたぜ!」
そして、引き渡しが完了したという報告は良いのだけれど……この人たち何とかならないかしら……。
「キュッテの姐さん、どうしたんですか? 引き渡し……」
「き、聞こえているわ。でも、その呼び方どうにかならないかしら?」
「え? なにがです? キュッテの姐さん?」
「……なんでもないわ……」
私を「キュッテの姐さん」と呼んでいるのは、大工たちのまとめ役、みんなからはお頭と呼ばれているドッコンさん。
私に食堂で絡んできて、ちょっとだけ怖い目にあって貰った、あの禿げ頭のおじ様です。
「お頭~、キュッテの姐さんを迎えに馬車が来たみたいですぜ!」
自分たちのまとめ役が「キュッテの姐さん」って呼んでいたら、そりゃぁ、下の人たちは皆そう呼びますよね……。
「あれ? キュッテの姐さん、レミオロッコの匠は大丈夫なんですかい?」
ちなみに、今聞こえたように、レミオロッコの呼ばれ方は匠となっています。
まぁレミオロッコの方は、そう呼ばれてもおかしくない活躍をしたので、納得なんだけれど、私の方は何とかならないかしら……。
おっと……悩ましい問題ですが、今はそんな事を考えている場合じゃなかったですね。
「わかりました。じゃぁ、ちょっとレミオロッコを部屋に連れてってあげて」
羊戦車が完成したのは良かったですが、本番はまだこれからです。
私は舟をこぎ始めたレミオロッコのことを、そばにいた年配の大工さんにお願いし、コーギーモードを連れて迎えに来た馬車へと向かったのでした。
◆
正面玄関の方へ向かうと、すぐに前方から声を掛けられました。
「キュッテさん! こっちです! アレン様が呼んでおられますので、お急ぎを!」
「ゴメスさん! わかりました! 例のモノはどうなったか聞いていますか!?」
私は、打ち合わせの時に聞いたある魔道具がどうなったか気になり、走りながらゴメスさんに確認しました。
「えぇ! バッチリです! ギルド長が商業ギルドのギルド員全員に呼びかけて結構な数が集まったようですよ!」
やりました!
一番心配していた問題がクリアされました!
ギルド長の手柄だと言うのがちょっと不本意ですが、まぁ少しは認めてあげる事にしましょう。
「良かったです! アレが手に入るかどうかで作戦の成功率が全然違ってくるので!」
「確かに衛兵や騎士様は隊ごとに所持しているそうですが、そこまで魔道無線が重要なのですか?」
そう。今回私が数を用意して欲しいとお願いしたのは、魔道無線という魔道具。携帯型の無線機のようなものですね。
これは携帯電話ほど優秀じゃなく、届く距離など色々と制限も多いのですが、前世の中世では絶対に無かったもので、さすが異世界といった感じがします。
領主様の方で所持していたものと、衛兵で隊ごとに所持していた物で、羊戦車隊に配る最低限の数は確保できていたのですが、これで偵察隊が編成できます!
「えぇ! これで偵察隊を編成して、リアルタイムでビッグホーンの群れの正確な位置が掴めますから!」
「り、りあるたいむ? ですか?」
あ、「リアルタイム」は、この世界にはない言葉なんですね。
実は私の前世の記憶は、この世界で思い出したためか、日本語からこの世界の言葉に置き換えられています。
その事に気付いたのは、レミオロッコと色々なモノを創り出している時でした。
どんなものなのかをレミオロッコに説明している時、前世の記憶から思い出した言葉の中に、レミオロッコがわからない言葉がいくつも含まれていたのです。
最初は単に存在しないからだと思っていたのですが、よくよく考えてみると、私は前世の言葉を覚えていない事に気付きました。
そして色々と検証してみると、どうやらこの世界にない言葉は、まったく新しい言葉として記憶が刻まれているようで、そのせいでレミオロッコによく「なによ? その変な言葉は?」と、変な目で見られるんですよね……。
まぁ言葉の件はともかく、今は少しでも急いで向かいましょう。
「まぁそれは、あとのお楽しみです! さぁ、急いで向かいましょう!」
「はい! じゃぁ、ちょっと飛ばしますよ~!」
こうして私は、ゴメスさんの馬車に乗り込み、アレン様たちが待つ対策本部へと向かったのでした。
************************
少し間が空いてしまい申し訳ありません。
ようやく他の作業が少し落ち着きましたので、
Webの更新も徐々に平常運転に戻るかと思います。
どうぞ引き続き、ご愛読宜しくお願いいたします!
************************










