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【第77話:凄いんだから】

 アレン様にも事情を説明し、力を貸して貰えることになったので、これで領主様の衛兵とも連携して動くことが出来そうです。

 冒険者ギルドとの調整や、これから必要になる資材の提供はギルド長の方で手配してくれるそうなので、私は任されたことをしっかりと頑張りましょうか。


 となると……あとは時間との勝負です!


「レミオロッコ! ちょっと協力して欲しいの! それから工房のみんなにも一旦全員一階の作業部屋に集まって貰って! 今やってる作業は一旦止めていいから!」


 アレン商会に卸す商品も、一旦後回しにして良い許可は頂きました。

 だから、工房のみんなにも全員協力をお願いするつもりです。


「な、なに? いったい何がどうなっているの?」


 あれ? ちょっといきなり過ぎたみたいね。

 レミオロッコが突然の指示に混乱しているようなので、打ち合わせた内容と、これからの予定を先に軽く話しておきました。


「まぁそんなわけだから、よろしくね。レミオロッコの頑張りにかかってるから!」


「うぅ……本当にキュッテって、いつもいつも突拍子のない事ばかり……。わ、わかったわよ! みんなに声を掛けてくるから、先に行ってて!」


 さぁ、ここからが忙しくなります。

 私も私の出来る事を頑張ってみましょう。


 ◆


 アレン様とギルド長を見送り別れた私は、一階の作業部屋へと向かいました。

 まずは皆に現在の状況説明からです。


「みんな、急に集まって貰くれてありがとうね。もう知っている人も多いと思うけれど、現在、この街の周りで大規模な魔物の群れが確認されています」


「そ、そんなに大規模な群れですの?」


 不安そうに聞いてくるセイナに頷きながら、更に詳しい現在の状況を皆に説明していきます。


 最初は軽い気持ちで聞いていた人もいましたが、説明が進むにつれ、皆の口数が少なくなっていき、不安がこちらにまで伝わってきました。


「「それで、私たちはどうすればいいのかねぇ? 出来る事など限られてると思うのだけど……」」


 ギルダさんとギルナさんがいつもの完全なハモりで尋ねると、他の皆もうんうんと首を縦にふって頷いています。


「えっと、皆にはレミオロッコを手伝って貰います!」


「えっ!? なにそれ!? 聞いてないけど!」


 うん。だって、今初めて言ったもの。


「大丈夫よ。羊馬車よりはずっと簡単だから」


「い、いったい私に何を作らせるつもりなのよ……」


「レミオロッコに作って貰いたいのは……」


「も、貰いたいのは……?」


 みんな気になるのか、固唾を飲んで見守っています。

 せっかくなので、ちょっと勿体ぶりつつ発表する事にしようかしら。


「それは……なんと……戦車よ!」


 と、せっかく発表したのに、みんなのリアクションが薄いですね。

 まぁ、予想はしていたのだけれどね。


 だって……。


「せ、センシャ? なによそれ?」


 よし! やっぱりこの世界にはまだ存在していないようね!


「センシャって知ってる?」


「私も知らないのですわ」


 レミオロッコだけでなく、みんなも知らないようなので、やはりまだ存在していないのでしょう。

 これならレミオロッコの『創作』スキルで効率よく作れるはずだわ!


 もちろん戦車と言っても、前世でいう近代兵器の戦車ではなく、私が作ろうと思っているのは、中世ヨーロッパやそれこそ紀元前からあったとされる馬で牽く戦車です。


 まぁ馬車みたいなものですが、用途があくまでも戦いのためのものです。


「簡単に言えば、馬で牽く馬車を頑丈にして、戦うためにいろいろ工夫して特化させたものかしら」


「キュッテ! ばしゃじゃたたかえないぞ?」


 どうしてトルテは私にだけため口なんでしょうね……。

 諦めてはいたのですが、他の皆にはちゃんとそれなりの言葉遣いで話しているのを見て、私、ちょっとショックなんですけど……って、思考がそれたわ。


「普通の馬車じゃね。だから、新しく創るのよ!」


「お、おぅ。そうなのか。よくわからないけど、がんばって手伝うぞ!」


「ありがとうね」


 言葉遣いのぞけば素直は素直なのよね~。

 まぁ今はそんな事を気にしている場合じゃないから、話を進めましょう。


 ちなみにヨセミテは、首を傾げて不思議そうにしているけど、いつも指示さえ与えればこの子はきっちり仕事をこなしてくれるから、きっと大丈夫でしょう。


「でも、馬車で戦うって、どんなものを作るつもりなの? キュッテのことだからもうイメージは出来てるんでしょ?」


「うん。まず、レミオロッコなら薄々気付いているとは思うけど、牽くのは馬じゃなくて羊たちよ」


「でしょうね。もしかして色付きの子たち?」


「さすがレミオロッコ。良くわかってるわね。五匹に一台の戦車を牽いて貰おうかと思っているわ」


「今全部で色のついた子たちは二〇匹だっけ? という事は四台作るつもりなのね」


「そうよ。もも組、れもん組、みかん組、めろん組。それぞれに一台ずつ、合計四台の戦車を作るわよ!」


 さすがレミオロッコ。本当に話が早いわね!


「えっと……キュッテさん? それってかなり大変だと思うんだけど……いつまでに作るつもりなのかなぁ?」


 アンジュが恐る恐る聞いてきますが、そんなの決まってるじゃない。


「もちろん今日中に四台完成させるわよ!」


「「「えぇぇぇぇ!?」」」


 誰ですか牧場に続いて工房も黒いとか言っている人は?

 緊急事態なのだから、仕方ないじゃない。


 だから、たった今からこのレミオロッコ工房はレミオロッコ工房ブラックになるの!


 え? 自分の名前がついてないからって好き勝手言ってるに決まっているじゃない。


「キュッテ! よくわかんないけど、そんなの無理にきまってるよぉ! 羊さん馬車みたいな、おっき~な馬車つくるんだろ?」


 みんなも同じ考えなのか、首を横に振りながら無理無理アピールしてきていますが……これは凄さを知らないようね。


「あら? あなたたち、レミオロッコの本気を知らないようね」


「「キュッテさんや。レミオロッコさんの本気って、どういうことかね?」」


「レミオロッコ、イベントの時のあの羊馬車って、何日で作ったかしら?」


「え? 何日も何も、半日ぐらいじゃなかったかし……え!? な、なに!? なんで、みんなそんな目を見開いてこっち見てるの!?」


 若干みんなにひかれて、なぜかレミオロッコが少し涙目ですが、ここはちゃんとアピールしておかないとね。


 だてに工房長を任せていないんだから!


「普段は極度の人見知りだし、いろいろアレだけど、レミオロッコは凄いんだから!」


「どうしてあんたが自慢げなのかはわからないけど、とりあえずいろいろアレ(・・・・・・)ってのについて後でじっくり聴かせて貰うからね! まぁでも……明日の朝までには四台とも完成させるから、みんな今日は頑張るよっ!!」


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