【第75話:契約の地】
「全然大丈夫じゃないね。数体でも討伐にはそれなりの冒険者でないと勝てないというのに……数百頭からなるビッグホーンが確認されたのだよ」
え? あの大きな魔物が数百頭?
そんなの街の外とか関係なく、この街も危ないんじゃ……。
「そ、そんな……数百頭なんてどうやって……」
「だから、ほんとにやばい状況なんだよね~。いや~参ったよ。魔物の気まぐれで、群れが街に向かえば町が壊滅するし、そうじゃなくても街の外では被害はどんどん拡大していくだろうし」
「そ、そんな!?」
私は街ではなく牧場で育ったので、街に知り合いもおらず、最近までボッチでした。
でも……今は違います。
工房のみんなを始め、先日のイベントを通して街には顔見知りもかなり増えました。
もう他人事ではすませられません!
「だから……キュッテのところへ商談に来たんだよ」
「え? ど、どういう事ですか?」
魔物の群れの話と商談が結びつかなくて、思わずそう尋ねると……。
「冒険者ギルドでは対応しきれない。領主様とも話をしてきたけど、王都の騎士団への派遣要請はしたものの、到着までには早くても三日はかかるらしい。となると……君に頼るしかないんだよね~。キュッテ」
え? なんでそこで私に頼るしかないってなるの?
それに、領主様ならまだしも、どうして商業ギルドのギルド長がこんなに率先して動いているのかしら?
などと考えていると、
「ん? 僕がこんな風に積極的に動いているのが不思議かい?」
見事に言い当てられました。
「そうですね。事態が急を要するのはわかりましたが、なぜ商業ギルドのギルド長が、しかも私のところへ来ているのかが……」
「なに、簡単な話さ。僕たちノーム族はとても長い寿命を持つ代わりに、契約を結んだ地から離れる事ができない。僕の場合はこの街『クーヘン』から離れる事ができないという訳さ」
ギルド長から語られる話は、前世では考えられないような話でした。
なにせ、ギルド長は見た目は子供なのに、既に数百年も生きているというのですから。
まさに体は子供、頭脳は……あれ? か、考えるぐらいはされていたわね……。
「いやぁ、数百年も生きると楽しい事も無くなって来てさ~。だから僕は、百年ちょっと前から商売を始めてね。僕自身が行けないかわりに、各地の色々な物をこの街に取り寄せているのさ。いやぁ、本当に商売初めて良かったよ。世界中の色んな食べ物も食べれるし、色々な珍しい物も見る事ができるからねぇ」
寿命が千年を超えるとか、まるで本当に地の妖精のような存在なのに、結構俗物的な思考なのね……。
「つまり、自分は逃げるわけにはいかないし、街が無くなると困るから、個人的に依頼をって事ですか?」
「あはははは……そう言われると見も蓋もないなぁ~。確かにその通りなんだけどさぁ」
「だけど、それでどうして私のところへ?」
「結論から言えば、他に選択肢がないから。かな? いやぁ、僕はこれでも一応副ギルド長の件ではキュッテに申し訳なく思っているんだよ? だから、他に手段がないか色々検討したんだけど、どれも相当な被害が出る方法しかなさそうでね。どうだろう? そのケルベロスの力で街を守っては貰えないだろうか?」
ギルド長は、正直、人としてはあまり信用がおけないように思える。
ただ、どこまで信じて良いかはわからないけれど、俗物的なところで自分が困るという話なら、ある程度は信じても良さそうかしら。
でも、一番の問題は……やはりケルベロスの力が目当てだということでしょうか。
「フィナンシェ……ケルベロスの力は、とても強力だとは思います。ですが、数百頭のビッグホーンを相手に勝てるとはとても……」
いくらフィナンシェが強いと言っても、数百頭のビッグホーンが相手と言うのは、かなり厳しいような気がします。
もしかすると、生き残る、戦って勝ち続けるだけなら何とかなるかもしれません。
でも数が多すぎれば、ケルベロス一匹で街を守れるとは到底思えません。
「うん。戦い方を考えないと、いくらケルベロスでも負けちゃうだろうねぇ」
「や、やっぱり……」
「でも、戦い方をしっかり考えれば、勝てない戦力差じゃないと思うんだよ。君一人だけに丸投げするつもりはないからさ」
あぁ、そりゃぁそうよね。
この街には少ないながらも衛兵や冒険者たちもいるわけだし、罠を仕掛けたっていい。私だって頭脳は大人なんだから、ちゃんと考えれば何か方法が見つかるかも?
だって……私にとっても、この街が無くなったら困るもの!
「……わかりました。街のためですし、協力させてください」
「やったね♪ そうこなくっちゃ♪」
それにしてもノリが軽いわね……。
その後、契約内容について色々話し始めたのですが、正直、驚くほどの金額を提示されました。
街の命運がかかっているとは言え、ちょっとびっくりするほどの。
「さっきも言ったけど、キュッテには本当に申し訳ない事をしたと思っているのさ。まぁだから、これに関しては僕の罪悪感を払拭するためと思って受け取ってくれよ」
ん~。ノーム族だからなのか、長い時を生きてきたからなのかわからないですが、色々と普通の人の考え方からズレているように思えます。
だけど、私にとっては内容自体は悪い話ではないですし、結局街を第一に考えるのなら、ここで一人で行動に移すより、皆で協力した方が上手く行く確率は上がるでしょう。
「わかりました。まぁ元々、私も街のみんながやられるのを放っておくつもりはありませんでしたし」
「ありがと~♪ じゃぁ、契約成立だね!」
「はい。街を守る事を第一に考えるのなら、みんなで協力した方がいいのは明らかですし。ただ……何か考えはあるのですか? さっきギルド長自身が言われたように、真正面から戦えば、いくらフィナンシェだって勝てるとは思えません」
「ん~、そうなんだよね~。実はさぁ。一つ、案が無いわけでは無いんだけれど……」
そう言って、ギルド長のナントカモーイはニヤリと笑みを浮かべたのでした。
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第二章もそろそろ終盤が見えてきて、
物語が動き始めますよ~(*'▽')
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