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【第74話:ギルド長】

「失礼します!」


 そう言って扉を開けて部屋に入ると、そこにはイメージとかなり違う人の姿がありました。


「やぁ! キュッテちゃんだね? ようやく会えたよ~♪ 僕はクーヘンの街の商業ギルド、ギルド長のペレオンクックパネット・サミューマネスクレ・ミカッカモーイだよ」


 ……へ?

 ペレオン、サミュ……え? な、なに?

 人の名前を覚えるのは得意な方だけれど、これは紙にでも書かないと無理だわ……。


「ノーム族の名前って覚えにくいでしょ? キュッテは特別に(・・・)モーイって呼んで良いよ~?」


 の、ノーム族? え? なにそれ? 前世の伝承だと地の妖精とかで、確かそんな名前の妖精がいた気がするけど、こっちの世界でそんな種族聞いた事ないよ?


「あ、もしかして、ギルド長()がノーム族だってこと以前に、ノーム族のことを知らない感じ?」


 うん。そんな感じ……仕方ないので、こくこくと頷いておきます。


「やっぱりぃ? 悲しいかな僕たちの存在って、良くも悪くも秘匿されているからね~」


 えぇぇ……秘匿されてたら、そりゃぁ、知らなくて当然じゃない……。

 それにしても、なによこの軽い感じのノリは?


 ギルド長のイメージがガラガラと崩れていくわね。

 と言うか、ちょっと緊張してたのが馬鹿らしくなってきたわ。


「そうなのですね……ところで、お話があって来られたのでは?」


「おぉっと、そうだった!」


 なんか……こんなのでよくギルド長やってますね……。

 あ、こんなのだから副ギルド長に好き勝手されたんじゃないのかしら?


 そう思うと、今度は何だか腹が立ってきたわね……ぐぬぬ。


「あ、あれ? なんか凄く身の危険を感じるんだけれど、気のせいかな? き、気のせいだと良いなぁ~……」


「……気のせいじゃないけど気のせいって事で良いので、早く本題をお願いできませんか?」


「気のせいじゃないんだ!?」


「良いから本題を……」


「えぇ~!? だって今~!」


 なんだか面倒になってきたわね……。

 ちょっと静かになって貰おうかしら。


「「がぅ!」」


「へっ……? う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 ギルド長の座っている椅子の後ろに、こっそりとコーギーモード(フィナンシェ)を召喚して一吠えさせたのですが、想像以上に驚いたせいで、こっちまでちょっとびっくりしてしまいました。


 それにしても尋常じゃないぐらいに怯えてないですか?


「ここここ、これほどとは、ちょちょ、ちょっと予想以上だだだね……」


 噛み噛みな上に、冷や汗が凄いことになっています。

 これは、何かありそうですね。


「フィナンシェカワイイデスヨ?」


「ちょ、ちょっとぉ! わざとやってるでしょ!?」


 わざとじゃないけど、ちょっと色々思う所のある相手ですし、せっかくですから?


「せっかくなので……おっと、失礼。つい心の声が出てしまいましたわ。ほほほ」


「この子、見た目と違って恐ろしいよ!?」


 こんな見た目も性格もカワイイ子を捕まえて失礼な。

 それにしても、全然話が進まないわね。


「それで……本題はまだですか?」


「わ、わかったから! も、もうちょっとケルベロスを離してくれないか?」


 フィナンシェがケルベロスなのを知っている人はかなり少ないはずなのですが、さすがに商業ギルドのトップともなると、情報を手に入れているようです。


「仕方ないですね……フィナンシェ、こっちおいで~」


「「がぅ♪」」


 私がフィナンシェを足元まで呼ぶと、ギルド長はあからさまにホッとした様子です。

 しかし、いくらケロべロスだと知っていたとしても、このコーギーモード(カワイイ容姿)の時のフィナンシェを見て、ここまで怖がるのって何だかとても不自然ですね。


「フィナンシェがケルベロスなのを知っているにしても、ギルド長は随分な怯えようですね。何かあるのですか?」


 という訳で、気になったので聞いてみました。

 なかなか本題に入れないですけど。


「いやぁ、ノーム族は魔力が強い種族でね。強い魔物の存在は身体に凄く負荷がかかるんだよ。それにしても、うちに秘めた力がただのケルベロスとは思えないほど強く感じるんだけど……容姿といい希少種なのかな? あっ、それからギルド長とか堅苦しいから、キュッテは特別にモーイで良いよ?」


 そりゃぁうちの牧羊犬は優秀ですからね!

 ちなみに容姿は私の能力なのだけれど、いつかまた脅かすのに使えそうだから黙っておきましょう♪


「わかりました。そういう理由だったのですね。それでギルド長(・・・・)、いい加減に用件をお願いします」


「わわ、わかったから、フィナンシェ(その子)をこっちに押し出さないでくれ!? よ、用件は商談で来たのだ!」


「商談ですか?」


「あ、あぁ、そうだよ。昨日発見された魔物の大きな群れの話は知っているかな?」


「はい。さっき聞いたばかりですが……」


「魔物の群れ正体がわかったんだけどね。ビッグホーンと言う巨大な魔物なのだよ」


 ビッグホーンってあれよね?

 美味しいお肉……じゃなくて、アレン様と知り合うきっかけになった牛の魔物だったわよね。


 結構強い魔物だって言ってた気がしたけど、大丈夫なのかしら?


「大きな牛の魔物ですよね? 群れって、街の外の人たちは大丈夫なのでしょうか?」


 ギルド長に聞くのもおかしな話なのですが、この話題を持ち掛けてきたのはギルド長なので、何か知っているのだろうとそう聞き返したのですが……返ってきた言葉を聞いて驚く事になりました。


「全然大丈夫じゃないね。数体でも討伐にはそれなりの冒険者でないと勝てないというのに……数百頭からなるビッグホーンが確認されたのだよ」


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