【第72話:ちょっとズル】
頭を下げるアレン様を見て、ソーサと呼ばれた男性が慌てて止めに入りました。
継承権のない三男だとは言え、領主のご子息様に頭を下げられたら驚きますよね。
「やめてください! アレン様! 頭をお上げください!」
それよりも、さっき解放されたと言ったわね? どういう事なのかしら?
なんだか展開が急すぎて、何がなんだか……。
「いいえ。領民を守るのは領主の家に連なるものの務めです。だと言うのに、この街の経済の要である商業ギルドの副ギルド長が、あのような横暴を長年続けていた事に全く気付く事が出来ませんでした」
そう言えば前に、僕は領主の家の者の中で一番商業ギルドの事に詳しいのに、気付くことが出来なかったと凹んでいた事がありました。
暗い顔を見せたのは一瞬だったので、その時はあまり気に留めていませんでしたが、アレン様ご自身はずっと気にしていたのでしょうね。
「たとえそうだとしても、わたくし達は、アレン様のお陰で解放されたのですから、頭をお上げください! そもそもあいつに騙されて家族を巻き込んでしまった私が一番責任が重いのですから!」
えっと……この人たちは家族で、副ギルド長の罠か何かにハマって、借金でも背負わされたとか?
そんな事を考えていると、突然私の名前が飛び出てきました。
「ソーサさん、僕のお陰ではありません。すべてここにいるキュッテのお陰ですよ」
「おぉ! 少女だとは聞いておりましたが、まさかここまで幼い子だとは!? キュッテさん! わたくし達はあなたのお陰で救われたのです! 本当にありがとうございます!」
ソーサと呼ばれた人は、突然私の方に向き直るとそう言って、他の二人と一緒に深く頭を下げてきました。
なんですか? この展開?
とりあえず私が副ギルド長を懲らしめたお陰で助かった家族って認識でOKかしら……?
でも、なんと答えていいかわからず戸惑っていると、イーゴスさんが助け舟を出してくれました。
「アレン様もソーサくんも、キュッテさんが困っていますよ。まずは自己紹介から始めてみてはいかがですか?」
さすがイーゴスさん。やっぱり元イケオジは、その行動やさりげない言動もイケていますね。
「おぉぉ。これは失礼致しました! わたくしはソーサと申します。元々は荘園を一つ所有していたのですが、副ギルド長に騙し取られてしまいまして……。断れば借金奴隷に落とすと脅されて、一年ほど前から奴の手足として良いようにこき使われていたのですよ。こうやって自由の身になれたのもキュッテ様のお陰です! 本当にありがとうございます!」
「い、いえ、そんな……。そもそも私も酷い目にあいそうになったので、自分の身を守ろうとしただけですし、そこまで恐縮しないでください。あ、あと、様はちょっと、私ただの羊飼いですので」
何か、アレン様もイーゴスさんも、若干ジト目で抗議の視線を送ってきている気がしますが、か弱いただの羊飼いなのは本当の事ですからね!
それにしても、まったく……やはり副ギルド長はとんでもない奴だったんですね。
偶然とはいえ、こういう人たちを結果的に救う事が出来たのなら、怖い思いをしてでも、懲らしめる事が出来たのは本当に良かったです。
「そうだとしても、キュッテさんのお陰でわたくし達家族が救われたのは紛れもない事実です。だから、せめて感謝の言葉を受け取ってください」
と言って、「ありがとうございました」と今度は深々と三人で頭を下げてきました。
「は、はい。では、感謝の言葉は受け取らせて頂きますので、どうぞ頭をお上げください。でも……解決したのでしたら、どうしてうちの牧場でという話に?」
副ギルド長が捕まって、全ての財産は没収されたと聞きますし、それなら元の生活に戻れるのではないかと思ったのですが、どうやらこの世界はそこまで甘くはないようです。
「それが……奴とかわした契約そのものは有効だったため、荘園は戻ってこず……。そのため、妻と一人娘とこれからどのようにして暮らしていこうかと途方に暮れていた所、アレン様とイーゴス様にお声を掛けて頂きまして……」
そんな話の流れでこの場に……。
まぁどちらにしても、うちとしてはアレン様の紹介なら即採用するつもりだったので雇う分には問題ないのですが……お給料、うちはそこまで多くないのだけれど大丈夫なのかしら?
前に話した時に、これぐらいの金額でという話は伝えてあるので、知っていると思うのですが、元々かなり裕福な出の人みたいですし、ちょっと心配です。
その辺りをやんわりと遠回りに尋ねてみたのですが……。
「はい! これは恩返しでもあるので、本当は衣食住を保証して頂けるのならお金などいらないぐらいなのですが……」
「だから、それはたぶんキュッテが承知しないとお伝えしたじゃないですか」
うん。アレン様正解です。
うちで働いてくれるのなら、タダ働きなんて絶対ダメです。
え? だれがブラック牧場ですって?
「そうですね。ただ働きしたいと言うのなら採用できません。条件面はお伝えしてある通り、牧場での住み込みになりますので衣食住はこちらで保証させて頂きますが、ちゃんとお給料もお支払いさせて頂きますし、儲けが出た場合はちゃんと従業員に還元するつもりです」
「おぉぉぉ……まだうちの娘よりもお若いのに、なんとしっかりとされているのか……」
うっ、ごめんなさい……年齢や経験はちょっとズルしてるので……。
「ま、まぁ、本当にしっかりしているかは置いておくとして、条件面に不満がないようでしたら、うちとしては働いて貰えると嬉しいのですがいかがでしょうか? ちなみに、娘さんも住み込みでお手伝いとかして頂けるのなら、ちゃんとお給料はお支払いさせて頂きますよ」
「まぁ!? わたくしもよろしいのですか!?」
女の子はずっと大人しく黙っていたのですが、私が一緒に働いて貰っても良いと伝えると、嬉しそうにそんな声をあげました。
「あの……自己紹介が遅れましたが、妻のシリアと申します。娘はスキルが牧場ではあまり役に立たないものなのですが、本当によろしいのでしょうか?」
「あっ! 失礼いたしました! わたくしは娘のミーアと申します!」
妻のシリアさんと、娘のミーアさんね。
「えぇ。牧場の仕事はそれほど能力に頼るようなものはありませんし、それに、私のスキルだけで、だいたい何とかなりますので全く問題ないですよ」
こうして契約も正式に決まり、私は新たに三人の牧場の従業員をゲットしたのでした。
もちろんその後、『ロシナン亭』の絶品ご飯を美味しく頂きましたよ。
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いろいろ考えたのですが、他の作品との兼ね合いで暫く忙しくなるのと、
無理して毎日更新を続けて作品の質を落としてしまうのは避けたいため、
当面は火木土の週3回更新とさせて頂く事にいたしました。
これからも楽しい作品作りを頑張ってまいりますので、どうか応援のほど
よろしくお願いいたします。<(_ _")>
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