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【第68話:失敗】

 昨日は結局リイネが酔っぱらってしまったせいで、牧場へ戻るのが深夜になってしまいました。

 帰るの自体は、リイネも私も羊も羊馬車も、ぜ~んぶ送還召喚コンボであっという間だったので、すぐに帰ってこれたのだけれどね。


 ちなみに、どうやってかわからないのだけれど、私の部屋に侵入したカシワがベッドで寝ていたので、叩き起こしてひと騒動あったけれど、まぁそれは置いておきましょう。


 それより……。


「おはよう。リイネ」


「お、お、おお、おはよう、キュッテちゃん……」


 何故か朝からリイネの顔が真っ赤です。

 それはもうお林檎さんみたいに。


 まぁ本当は、何故かはわかっているのだけれど、そっとしておいてあげましょう。

 どうせなら記憶も飛んでいたら良かったのにね……。


「ところでリイネ。今日もまた一人で大変だと思うけど、留守番よろしくね」


「あ、うん。牧場の仕事大好きだから、ぜんぜん大丈夫だよ!」


 今日は昨日と違ってフィナンシェに乗っていくので、牧場の護衛役はいなくなるのだけれど、また羊の数を数えると眠ってしまう能力を限定的に有効にしてあるので、何かあっても、からくりを知らない相手ならなんとかなるでしょう。


 ただ、いつもはある程度牧場の仕事を私も一緒にやってから出るのだけれど、今日はアレン様たちと会う約束の時間が早いので、この後すぐでなければいけません。


 そう思い、もう一度確認してみたのだけれど……。


「もう~! キュッテちゃん、少しは私を信じて任せて? その……頼りないかもしれないけど、いつもの牧場の仕事なら問題ないから!」


 と、頬を膨らませながら、ちょっと怒られてしまいました。


 どうも最初のリイネの印象が凄く自信なさげだったので、ついつい過保護になってしまっていたようです。


「わかったわ。それなら、今日は牧場の仕事、よろしくね。でも、リイネのことはちゃんと信頼はしているから」


「う、うん! 任せて!」


 レミオロッコの話だと、工房のみんなも日に日にモノづくりのレベルがあがってるみたいですし、本当にうちには勿体ない人が集まってくれたわね。


 孤児院との間を取り持ってくれたアレン様にあらためて感謝しながら、私は街へと向かったのでした。


 ◆


 今日もケルベロスモード(フィナンシェ)に乗って街道まで駆け抜けたところ、少し不思議な現象にあいました。


「あれ? フィナンシェ? どうしたの?」


 街道に着いて、フィナンシェを小さな姿へと変身させた時でした。

 ケルベロスモードからコーギーモードになるとき、一瞬、身体が僅かにブレたように見えたのです。


「んん? 見間違いかしら?」


 でも、目をこすり、あらためてもう一度確認してみても、特に変わった所は見当たりませんでした。


「ん~? 昨日、ようやくイベントが終わって、ちょっと疲れでも出たのかしら?」


 ずっとイベントの準備で忙しく過ごしていて、そして昨日ようやくイベントが終わったので、ホッとして少し気が抜けたのもあるかもしれません。


 今日は帰ったら早めに寝るとしましょう。


 今、私やうちで雇っている人たちのベッドは、レミオロッコ作のふわふわもこもこ羊毛ベッドなので、寝心地抜群で寝るのが毎日楽しみなのよね。

 どうせなら日がな一日もこもこベッドの上で、ずっとごろごろしていたいところだけれど、そんな事をしていると前世のぐーたらな生活が復活しそうなので自重しています……。


 しかし、この世界に転生して、前世よりずっと頑丈で体力のある身体になったので、ついつい無理をしてしまっているのも確かかもしれません。

 せっかく今世は毎日楽しく充実した生活が出来ているのだし、健康にも気を使わないとダメですね。


「という事で、フィナンシェ。時間はまだ少し余裕あるし、街まではのんびり行きましょうか」


「「がぅ♪」」


 その後、フィナンシェがお尻をぷりぷり振りながら歩く、カワイイ後ろ姿に癒されながら、いつもより少しだけのんびりと歩いたのでした。


 ◆


 フィナンシェと一緒に結構のんびりと歩いたつもりでしたが、クーヘンの街に辿り着いたのは、予定通りの時間でした。


 ただ、そこで予定外のことがおきました。

 いいえ。これは想定しておくべきだったのに、ちょっと現実逃避して、考えないようにしていたのかもしれません……。


 こちらを指さし向かってくる人たちを見て、自分の失敗を悟りました。


 街の門をくぐった所に待ち構えていたのは、錬金術ギルドのお爺さんたち……と、お爺さん(それ)を押しのけ吹き飛ばし、私に駆け寄ってくる女性と子供たちでした。


「わぁ♪ もふもふキュッテちゃんだ~! 本当に来た~!」


「ほんとだわ! もふもふキュッテちゃんじゃない! 昨日は凄く楽しませて貰ったわよ!」


「えぇぇ~、今日はもふもふじゃないの~! またあの格好見たかったなぁ~」


 くっ……しまったわ。

 錬金術ギルドのお爺さんたちなら、羊の数でも数えさせて寝かせてしまおうと思っていたのだけれど、この子たちを無差別に寝かすわけにはいかないわ……。


 結局その後、特に打つ手も思いつかず、アレン商会につくのにいつもの倍以上の時間がかかってしまい、約束の時間に遅れてしまったのでした。


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