【第64話:いよいよ】
ぐ……不覚だわ……。
まさかレミオロッコたちに、こんなイタズラをされるとは思わなかった。
「きゃぁ~♪ キュッテさん、すっごく可愛いですわ!!」
「ほ、ほんとに可愛いです……」
ぐぬぬ……私もセイナとアンジュの着ているような制服が良かったのに、レミオロッコたちめ……覚えていなさいよ……。
私はカワイイものは大好きだけど、こういう種類のカワイイは眺めて楽しむのが好きで、自分の着る服はもうちょっとおしゃれ感の高い物が好きなのに!
レミオロッコは私が教えた作業用のツナギを作ってからは、気に入ってずっとそれを着ています。
さすがに人見知りの激しいレミオロッコでは接客は無理なので、今日も裏方の予定だしそれは良いのでだけれど……どうしてくれようかしら。ぐぬぬぬ……。
「あ、これヤバイ奴だ……。わ、私ちょっと柵の設置手伝ってくるから!!」
あ、逃げた!
逃亡をはかったレミオロッコを、私も追いかけようとしたその時でした。
服の裾をくいくいと引かれた事に気付いて振り返ります。
「えっと……メイサちゃんだっけ? トルテの妹の?」
「は、はい!! いつも兄がお世話になっていましゅ! ……います……」
か、噛んだわ……まるでテンプレのように噛んだわ。
そして、テンプレを超える可愛さだわ!
語尾をすぼめながら、顔を真っ赤にしつつも、勢いよく頭を下げるメイサちゃんの仕草に癒されます。
あぁ……思いつきそうになっていた企みが洗い流されていく……。
羊のコスプレ風の制服と相まって、カワイイが限界突破しています。
「トルテはトルテ。メイサちゃんはメイサちゃんだから、緊張しないで大丈夫よ。今日は売り子頑張ってね? みんなも、制服すっごく似合っているわよ♪ ほんとにカワイイわ♪」
後ろに同じ格好をした子たちが四人並んで、もじもじしているのがあまりにもカワイイので、思わず自然に褒め言葉が出てきました。
「は、はい!! あの……キュッテさんのも、色違いでカワイイです!!」
「「「「凄くカワイイです!!」」」」
ぐふっ!? し、しまったわ……柄にもなく、恥ずかしさで顔が真っ赤になっている気がするわ……。
「あ、ありがとうね」
ちなみに、売り子と呼んでいますが、この子たちにお金の計算はまだ少し早いので、やって貰うのは宣伝や案内などです。
首からお弁当売りみたいな箱をさげ、そこに羊のフェルトマスコット『羊さん』のサンプルを乗せて、値段の一覧と一緒に見せ歩き、お店に誘導する役目です。
最初はサンプルを見せてまわるのではなく、商品を実際に売って貰おうかと思っていたのだけれど、集まった子たちが思った以上に幼かったので、断るのも勿体な……申し訳ないので、今のような役目に変更しました。
「でも、効果は抜群みたいね」
羊のコスプレ風の制服を着た幼い子たちが、ちょこまかと動き回る姿はとても愛らしく、街の人たちの中には悶絶しそうな人たちまで見受けられます。
え? 悶絶? だ、大丈夫かしら……。
「キュッテ! 柵の設置も終わって商品の陳列も終わったぞ!」
「トルテ、早かったわね。それじゃぁ、他の皆も終わったら、うちの牧場の羊ミルク出してあげるから、みんなに伝えてきて」
「おう! 任せておけ!」
口の利き方は相変わらずですが、しっかり頑張って働いてくれています。
「と言うか、私が一番何も出来ていない気がするわね……」
まぁその分、準備では大忙しだったので、当日ぐらい少し楽な役回りをさせて貰いましょう。
こうしてその後も滞りなく、準備は進んでいったのでした。
◆
会場の設営も終わり、全ての準備が整ったのは、ちょうどチラシで告知していた時間の一〇分前でした。
「危なかったわ……まさか念のために作っておいた整理券が本当に必要になるなんて……」
始まる前から、いきなり会場の入場制限をかけないといけないほどに人が集まってくれるとは思いもしませんでした。
どうやら羊馬車で街をパレードしたのが相当効いたみたいで、噂が噂を呼び、予想以上の人が集まってしまいました。
見たこともない羊馬車を、見たこともない色とりどりの羊たちが牽いている姿は、かなりインパクトがあったようです。
「うわぁ……なんかお祭りみたいな感じになってるわね」
「キュッテは牧場暮らしだったから、お祭り参加した事ないんだっけ?」
「そ、そうね。お祭りってこんな感じなのかぁって……」
この世界は娯楽が少ないのもあって、こういうちょっとした催し物でも、ある種のお祭りムードが溢れています。
みんなが本当に楽しみにしているのが伝わってきて、何だかこちらも楽しい気分になりますね♪
「アレン様。そろそろ始めようと思うのですが、よろしいですか?」
今回の催し物も、アレン商会から多大な援助を受けて開催しています。
だから最初に、アレン様に挨拶をして貰おうかと思っていたのですが……。
「そうだね。もう皆も待ちきれない様子ですし……じゃぁ、キュッテ! 始まりの挨拶を宜しく頼みます!」
この流れならアレン様がしてくれると思ったのに……。
でも、これぐらいは仕方ないわね。
私は柵の前で整理誘導されて並んでいる人たちに向けて歩いていき、いつの間にか用意してくれていた踏み台の上にあがります。
整理誘導などは、アレン様が連れて来てくれた護衛役の人たちが、そのまま手伝ってくれているので、皆大人しく待ってくれています。
私は一度大きく息を吸い込み、
「皆さま、今日は……きょ、今日は『もふもふキュッテ牧場~カワイイふわもこ羊とふれあえる癒しの広場~』イベントへようこそ!」
と言って、話し始めたのでした。










