【第63話:オーナー仕様】
「トルテ。それにみんなももう来てくれていたのね!」
集まってくれた皆を見渡し、そして……ある一角で私の目は釘付けとなりました。
「か、カワイイ……」
そこにいたのは、羊の着ぐるみのような衣装に身を包んだ小さな子供たち。
今日、お店で売り子をして貰う予定の、孤児院からお手伝いに来て貰ったメイサたちでした。
「どう? すっごい良い出来でしょう?」
レミオロッコが若干どや顔で鬱陶しいですが、今回ばかりは許します!
だって、めちゃくちゃカワイイんだもの!
「レミオロッコ……あなたやっぱり天才よ!!」
「へへ~ん♪ 私とみんなの最高傑作だもの!」
うん! 確かにこれは最高傑作だわ!
羊毛をふんだんに使ったその服は、あくまでも着ぐるみ風であって、着ぐるみではありません。
しっかりと制服としてデザインされており、ふわもこ帽子にはデフォルメされた巻角が装飾され、服も要所要所に羊毛をつけてふわふわ感を演出していますが、実際に羊毛でふわもこなのは帽子とベストとブーツだけで、あとはふわもこが馴染むような可愛らしいデザインの服としてちゃんと機能しています。
「いや……どう考えても、後ろの馬車の方が凄いと思うんですが……」
ゴメスさんが何か言っていますが、誰が何と言おうとこれはレミオロッコの最高傑作だわ!
「それに、他のみんなの制服もカワイイわね!!」
「そうでしょ♪ 私たちも凄く気に入ってるのですわ♪」
そう言って、スカートをひるがえしてくるりと回ってみせたのはセイナです。
年長組の女の子、セイナとアンジュの着ているのもほぼ同じデザインの制服なのですが、帽子とベストとブーツが普通のカワイイデザインのものに置き換えられています。
こちらはコスプレ感は少なく、純粋にデザイン的にカワイイです♪
あと、トルテとヨセミテの男の子二人は、スカートが半ズボンに置き換わったバージョンを着ており、こちらも少年っぽい感じが出ていてカワイイです。
もうヨセミテが、ヤヴァイレベルの可愛さを滲みださせていますね……。
「「さぁ、せっかく時間通りに進んでるのだから、さっさと準備を始めるさね」」
ちなみにギルダさんとギルナさんも、ほぼ同じようなデザインですが、こちらは帽子とベストとブーツが、少し落ち着いたデザインのものに変更されています。
それでも十分カワイイのですけど。
「そうですね。それじゃぁ、さっそく準備を始めましょう!」
ちなみに小さな売り子さんたちに力仕事は無理なので、今のうちに羊たちと戯れて貰っています。
イベントが始まってしまうと、あの子たちは遊べないですから、せめて今のうちにね。
「それにしても、な、なんてカワイイ光景なのかしら……」
羊のコスプレ風の制服に身を包んだカワイイ小さな子供たちが、これまた色とりどりのふわもこなカワイイ羊たちと戯れている光景は、私だけでなく、周りで興味深そうにしていた街の人たちにとっても注目の的です。
「キュッテさん。ずっと見ていたい気持ちはわかりますが、先に馬車の展開をお願いできますか? まずは柵を設置しておきたいので」
思わず目を奪われてしまっていたわ。
私はゴメスさんに了承の言葉を返すと、馬車の後部まで歩いていき、取りつけられた大きなハンドルのようなものを回していき……ま、回らないわね……。
「れ、レミオロッコ!! これ、全然回らないんだけど!?」
「あれ? そうかなぁ? ふん! ……回るじゃない?」
「いま何気に『ふん!』とか言わなかった!? レミオロッコが本気で力入れないといけないようなハンドル、私が回せるわけないじゃない!」
「わかったわよぉ。キュッテ、ひ弱なんだから……」
私が必死に力を入れてもびくともしなかったハンドルを、レミオロッコは軽々と回していきます。
「……私がひ弱なんじゃなくて、レミオロッコが馬鹿力過ぎるのよ」
私が呟きをもらしながら見守っていると、巨大な羊を囲っていた柵がゆっくりと左右に大きく開いていきます。
そして柵が地面と水平まで開くと、そこから更に足が飛び出し、簡易ウッドデッキの完成です!
更に、次はその横の別のハンドルを回し始めると、今度は支柱が飛び出し、巻き取られていた布が展開され、日差しを遮ってくれるタープが現れました。
周りに集まっていた街の人たちからもどよめきと歓声があがっています。
「ほんとに何度見ても凄いわね」
私はこういうのが欲しいと基本的な構造のアイデアを伝えただけなのだけれど、レミオロッコは、まるでこのからくり人形のような複雑な仕組みをあっという間に完成させてしまいました。
「キュッテ~! 展開終わったわよ~。お店の方もやっとく?」
「お願い! どうせ私じゃ非力だからハンドル回らないし!」
えぇえぇ、私が非力だと認めますよ。
今日ばかりはレミオロッコをたててあげましょう。
というか、次の仕掛けの方が重いからね?
私じゃ絶対にハンドル回せない自信があるわ!
レミオロッコは手をあげて了承の返事をすると、今度は馬車前方の御者台の方へと近づいて行き、そちらに設置された更に一回り大きなハンドルを回していきます。
「うわぁぁぁ!! おっきな羊さんが立ち上がった~!」
もうここまで来ると周りも大騒ぎです。
別に羊が立ち上がったわけではないのですが、羊が上へと持ち上がり、中に隠されていた売店のような小さなお店が姿を現しました。
見た目で言うと屋根が大きな羊になっているような感じですね。
「終わったわ! ゴメスさん、みんな! まずは柵を運び出すから手伝って~!」
レミオロッコももう工房のみんなとは普通に話せるようになったので、テキパキと指示を出していってくれます。
私はレミオロッコの事がちょっと誇らしい、そんな気分に浸りながら、彼女に近づいて行きます。
「お疲れ様。何度見ても凄い仕掛けね!」
「ふふふ。これを作ってる時は本当に楽しかったわ♪」
この巨大な仕掛けを一人であっという間に創り上げるのだから、本当に凄いわ。
……と、あらためて感心していると、レミオロッコが何やら手渡してきました。
「ん? これは?」
「あなたの分の制服よ。お店の中で着替えて来てね♪」
「うん。ありが……と……」
手わされた服を見て愕然としました。
「それ、オーナー仕様の制服だから、ちゃんと着るのよ~♪」
なぜなら……手渡された制服は、売り子用の羊コスプレイ風制服の色違いバージョンだったのだから。
「何がオーナーバージョンよ!? これ、ちびっ子用の制服じゃない!?」










