【第62話:羊さん】
街に入った私たちは、アレン様が連れてきた護衛役のお付きの人たちの先導で、街の中を進んでいきます。
まぁ私は馬車に乗っているので、御者台に座ってるだけですけどね。
私の場合、羊を好きな場所に移動させる能力を持っているので、手綱すらいらないですし、羊たちとある程度の意思疎通ができるので、人が飛び出してきてもちゃんと止まってくれるように指示してあります。
だから、本当に座っているだけなんです。
そういう訳で、周りの反応もじっくり確認する事が出来ます。
「うわぁぁぁ♪ おっきな羊さんだぁ!!」
「きゃぁ~♪ なにあの羊さん! ピンク色している!!」
「うわっ!? イエローやグリーンまで!! 架空のモノかと思ってたのに、羊さんもも組が実際にいるなんて!?」
うん。すっかり羊のフェルトマスコットの商品名『羊さん』が浸透しているわね!
こういう商品に個別の商品名をつける習慣がこの世界にはなかったので、シンプルに「さん」を付けて「羊さん」シリーズとして売りに出したのよ。
どんなモノにも「ちゃん」や「さん」を付けて呼ぶだけで、不思議と親しみがわくからね!
子供などは飛び出してきそうになる子もいるのだけど、護衛役の人たちがうまくさばいてくれており、ついでに広場で行う催し物のチラシを配ってくれています。
まぁ、私の差し金なんですけど。
「ところでレミオロッコ。広場の方の準備はもう出来たの?」
「うん、大丈夫。でも準備も何も、ただ場所を確保しているだけだけどね」
あ、そうでした。イベント用の道具は全てこの馬車に積んでいるので、出来るのは場所の確保と今日のスタッフの準備ぐらいですね。
「そうだったわね。まぁ、準備は簡単に出来るようになっているし、場所さえ確保できていれば問題ないわね。あと、お願いしていた売り子は集まった?」
「そっちも問題なしよ。トルテの妹のメイサちゃんをはじめ、五人ぐらい集まってくれたわ」
「そう♪ 良かったわ♪ ……それで、例のモノは?」
「ふふふふっ♪ 任せて! 最高の仕上がりよ!」
サムズアップして答えてくれるレミオロッコが輝いて見えるわ!
「例のアレかな? 僕も着ているところはまだ見ていないから、楽しみにしてるよ」
こんな会話を続けている間にも人だかりはどんどん増えていて、狙い通り宣伝効果はかなり上々のようです。
この分なら、イベントにも沢山の人が来てくれるんじゃないかしら。
でも、ここまで目立っていれば、変な爺さん集団が現れないはずがありません。
「ななななな、なんぞぃ!? あれはいったいなんぞぃ!?」
「ぴ、ピンクの羊がいるっす!! モノホンのレア羊さんっす!!」
予想通り、ぞぃとっすが現れました。
後ろにもぞろぞろと錬金術ギルドの研究員たちが勢ぞろいです。
「ちょっと爺さん。馬車の通行を妨げるなら、衛兵を呼ぶことになるぞ?」
あれからアレン様と話し合ってわかったのですが、人を取り囲んで足止めをしても罪には問えないそうですが、馬車の通行を止めるのは立派な罪に問えるそうです。
まぁそれはそうですよね。
街中でむやみに馬車を止められたら、大通りでもそこまで道は広くないので、都市機能が麻痺してしまいます。
「あ、いや、しかし、その馬車に色々と聞きたい事があるのぞぃ……」
ぞぃも強気に出れないようで、馬車を先導してくれていた護衛の一人にあしらわれて、こちらを恨めしそうに眺めています。
「モノホンっす!! しかも、超レア羊さんのイエローや、まだ見た事ないグリーン羊さんにオレンジ羊さんまでいるっす!!」
っすは……アレ、完全にうちの羊さんガチャにハマっているわね……。
アレン様のお店で裕福な人向けに、くじを引いて色付きの羊のフェルトマスコットが当たる羊さんガチャを始めたのだけれど、あの興奮の仕方は絶対にやり込んでいるはず。
まぁそれも私が仕組んだんですけどね!
実はゴメスさんに、わざと興味を引くような色付きの羊の噂を流して貰い「研究員さま……特別ですよ?」と特別感を出しつつ羊さんガチャに誘導して貰うように頼んでおいたのです。
ふっふっふ。私のカワイイ普及の邪魔をする相手には容赦はしないわ!
錬金術ギルドの研究員はかなりお給料良いみたいだから、むしり取ってあげるんだから!
「あ、またブラックキュッテが現れたわね……」
失礼ね。ブラックなのは牧場だけにしてよね。
あ、そっちもブラックはダメだけど。
◆
街の話題をさらいながら羊の馬車でのパレードは順調に進み、ようやく街の中央広場へと辿り着きました。
ここは平時から多数の出店が出ているのですが、中央部分には大きな催し物スペースがあり、大規模な商団が街に訪れた時などはそこで特別な市などが開催されているのだとか。
今回私たちは、そのスペースを商業ギルドから借り受け、そこで……そこで『もふもふキュッテ牧場~カワイイふわもこ羊とふれあえる癒しの広場~』を開催する事になっています。
くっ……イベント名を言うたびに、なぜか精神ダメージを受けている気がするのはどうしてかしら……。
「キュッテ! それすげーな!」
私がなんとか精神ダメージをレジストしていると、見知った生意気でカワイイ声が、興奮気味に話しかけてきました。
どうやら売り子役の子たちも、工房のみんなも、既に全員集まってくれているようです。
さぁ、それでは早速、イベントの準備を始めましょう♪










