【第60話:もふもふ?】
錬金術ギルドのお爺さんたちの追跡を躱しつつ『ふれあい牧場(仮)』の準備を進める日々が始まりました。
ゴメスさんが染料に関する偽の情報を流してくれたようで、今のところ牧場に押しかけてくるような事態にはなっていません。
工房の皆には迷惑をかけて申し訳ないですけど、あちらがある種の囮のような形になってくれたお陰で準備もほぼ終わり、いよいよ来週あたりには開催する事ができそうです。
「レミオロッコ~! いつまでグリーンの羊にじゃれついてるのよ!?」
「だって牧場来るの久しぶりなんだから、ちょっとぐらい良いじゃない! それにこの淡いグリーンの子、すっごい可愛いんだもん!」
実はあれからまた色付きの子たちが増えました。
増えたのはライトグリーンの羊五匹と、オレンジの羊五匹の計一〇匹。
名前は『めろん組』と『みかん組』。
ちなみに『もも組』『れもん組』と合わせて、これで二〇匹の羊が色付きの羊となり、牧場のメルヘンさがさらにアップしました。
なんか前世で少し流行っていたオシャレなわたあめみたいで、ちょっとわたあめが食べたくなったのは内緒です。
「「ぶぇぇぇ~」」
「あぁ、はいはい。カシワとオハギも元気そうね」
「「ぶぇぇぇ~!」」
なんかレミオロッコの扱いがぞんざいな事に、白黒山羊コンビが抗議の声をあげています。
いつかはあなた達だって進化を……あ、魔物じゃないから、あなた達はそもそも進化できないわね。強くイキテ。
「それで、もうお願いされたものは全部作ったけど、他にもまだ何かあるの?」
今回、レミオロッコに牧場に戻ってきて貰っているのは、『ふれあい牧場(仮)』で使う、分解できる柵やグッズ販売する時の陳列棚、それらを効率よく運べる馬車などを作って貰うためでした。
そう。「でした」なのは、あっという間に創り上げてしまったから。
どうやら工房で色々と頑張っているうちに、レミオロッコの『創作』スキルのレベルが一つあがったみたいで、更に効率よく作れるようになったみたいです。
やっぱり私の見込んだ通り、最強のモノづくりスキルね!
「実は牧場の施設をちょっと増築したいと思ってるのよ」
増築したい施設は二つ。
住み込みの職員が暮らす建物と、グッズ販売用の売店兼レストラン。
「あなたねぇ……私をいったい何だと思ってるのよ……」
あれ? その辺りを掻い摘んで説明してみたのですが、呆れられてしまいました。
レミオロッコの新たに得た能力の一つは、モノづくりをする時に限って、その身体能力が大幅に増大するというものです。
現に馬車を作る時とかも、力が強い事で有名な男性のドワーフを軽く凌駕する膂力を発揮していたので、いけると思ったのですが……。
「馬車ぐらいの大きさのモノならスキルの能力のお陰で何とかなるけど、さすがに建物とかは無理よ!!」
「あぁ、それならうちには優秀な牧羊犬がいるじゃない?」
久しぶりだし一応言っておきましょう。牧羊犬ですが何か?
「う……た、たしかに、フィナンシェちゃんに手伝って貰えれば行ける気も……」
「でしょ~? レミオロッコとうちの優秀な牧羊犬が手を組めば、作れないモノなんてないわ!」
「な、なんか言いくるめられた気がしないでもないけど……わかったわよ!!」
「さすがレミオロッコ♪ じゃぁ、フィナンシェ~。レミオロッコを手伝ってあげてねぇ~?」
「「がう♪」」
その後、どんな感じのモノを作るのかの話をし、レミオロッコはわずか三日で建物を完成させたのでした。
見た目幼女のレミオロッコが、文句を言いながらも柱を一人で軽々と担ぐ姿を見て、ちょっとひいたのは内緒です。
◆
更に日は流れて準備も全て整い、とうとう『ふれあい牧場(仮)』の開催日になりました。
ちなみに、いつまでも(仮)ではダメなので、イベントの正式名称も決められました。
その名も『もふもふキュッテ牧場~カワイイふわもこ羊とふれあえる癒しの広場~』です……。
え~と……私が「もふもふ」みたいに聞こえる件について。
あと、なんかやたらイベント名が長い件について。
失敗したわ……なんとなく思い付きで「従業員から名称募集して、ついでに皆のモチベーションアップよ!」とか言った、あの時の私を抹殺したい。
せめて人気投票で決めるんじゃなくて、私が独断と偏見で決める事にすれば良かったわ……。
「キュッテちゃん! 今日の『もふもふキュッテ牧場』頑張ってくださいね!」
「ふぎゅ……え、えぇ、頑張ってくるわ」
後ろのサブタイトルを省略されると、余計に私がもふもふしてるみたいに聞こえるんですけど!?
「そ、それよりリイネ。フィナンシェがいるから大丈夫だとは思うけど、一応気を付けるのよ?」
今回、レミオロッコに作って貰ったイベント用の馬車は、羊たち一〇匹で牽いて貰って街に向かう事になっており、フィナンシェは護衛のために牧場に残していきます。
これは、今回イベントを開催するにあたって、『一つ、羊の数を数える相手を任意に眠らせる能力』を有効に出来ないからです。
今回私は羊一〇匹と一緒なので、悪意を持つ対象さえ認識できれば、その対象限定で能力を有効にし、言葉巧みに眠らせる事もできるでしょうし、いざとなればフィナンシェを召喚する事もできるので、何かあっても大抵のことは何とかなるでしょう。
「はい! フィナンシェ様がいるから心配いりませんよ~♪」
なぜ雇い主の私が「ちゃん」付けで、牧羊犬のフィナンシェが「様」付けなのか、今度、小一時間ほど話し合う必要があるわね……。
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もふもふキュッテ(●´ω`●)
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