【第59話:忙しくなる?】
「そうだわ!! なにも私のスキルの事を公表する必要ないじゃない! 全部羊たちのせいにしちゃえばいいんだわ!」
「ん? どういう事? ……えっ!? ま、まさか、色付きの子たちを売っちゃうつもりじゃないでしょうね!?」
「失礼ね! 大事なあの子たちを手放すわけないじゃない!!」
あの子たちを手放すぐらいなら、お爺さんたちに強硬手段取っちゃうわよ? ふっふっふ……ふっふっふっふふふふ……。
「あ、なんかごめん。キュッテ、私が悪かったから、その黒い笑みを引っ込めて……」
おっと……私の内なる何かがつい溢れそうに……ってそうじゃないわ!
「キュッテ。僕にもわかるように説明してくれませんか?」
「あ、はい。別に私のスキルの事を正直に話す必要なんてないという事です。羊たちが勝手に進化したと考える方が普通じゃないです?」
「なるほど……僕たちのようにキュッテのスキルが異常なまでにランクアップしていることを知らなければ、その方が自然ですね。すると、キュッテたちはその毛を使って加工しただけだと?」
「はい。その通りです」
「でもキュッテ、それだと牧場の羊たちが狙われない?」
「うん。だから……色付きの羊を大々的に表に出して、人気者になって貰うの! そうしたら羊のフェルトマスコットはもっと人気が出るでしょうし、色々なグッズ展開が出来るでしょ? すると更にまた羊の人気がでるという循環ができると思わない?」
そう。何も全部隠す必要ないのよね。
羊たちのことは隠すのではなく、逆に人気者になって、みんなの愛すべきマスコットになって貰えば良いのよ。
なんなら、牧場を観光地にしてお金を取るのもありね。
うん! 面白そうじゃない!
そして、そこで牧場体験とかグッズ販売、カワイイ小物や雑貨、服なども売りに出して……そうだ! 羊のミルクが凄く美味しくなってるから、それも名物にして……ふふふふふ♪ なんか楽しくなってきたわ♪
「こ、今度は黒くはないけど、なんか色々とんでもない事を考えているような笑みを浮かべてるわね……」
最近レミオロッコは、私の内面をいちいち言い当ててくるわね……。
まぁ当たってるからスルーするけど。
「全部隠そうとするから無理が出るんだと思うんです。だから、羊たちを人気者にするようにして、もう強引に手出しが出来ないようにしちゃうんです!」
毛糸や洋服、小物や雑貨などは、まだ売りに出せるような状況にないけど、羊のフェルトマスコット作りはもうみんな覚えてくれたので、毎日かなりの数が作られています。
そして、値段をかなりお手頃にした上に、今は少し小さめで最初からキーホルダーのようにぶら下げられるものと、少し大きめで部屋などに飾っておけるものと、大きさだけでも三種類に増えています。
あと、まだ商品としては並べていませんが、レミオロッコが作ってアレン様のお店の羊コーナーに飾ってある牧場の芝生とそれをぐるりと囲む柵の小物が、売っていないのかと問い合わせが来ているらしいので、これも商品化する予定です。
牧場セットとして、羊数体と色付き一体をつけて、こちらはプレミアム価格でちょっとお金に余裕がある人向けに売るのもありじゃないかしら。
その辺りの考えていたことを、ここにいるアレン様、ゴメスさん、レミオロッコに掻い摘んで説明していきました。
将来的には、普通のカワイイ小物や雑貨、服なども売りに出したいのだけど、これが成功すればきっとその足掛かりにもなるはずです。
「さ、さすがキュッテですね。僕には思いもつかないことを次々と……本当に凄いですよ」
「ありがとうございます!」
ふっふっふ~♪ 単に前世の記憶のお陰ではあるけど、謙遜なんかしないわよ?
だって前世の知識や考え方は、この世界での私の大きな武器ですからね!
「キュッテさん、それなら何か催しを開催するというのはどうでしょう?」
アレン様に褒められてちょっとご機嫌になっていると、ゴメスさんがそんな事を提案してきました。
「催し物? イベントかぁ……うん。ゴメスさん! それ良いかも!!」
錬金術ギルドに知られる前に、先手を打って色付きの羊たちを街に呼んで、街の人に広く知って貰うと言うのもいいわね。
そこで羊たちともふもふして貰えば、みんな虜になるに違いないわ!
「キュッテ、ゴメス、催し物って何か案があるのですか?」
ゴメスさんはアレン様にそう尋ねられても、まだ具体的な事は思いついていないようだったので、私の方から話してみる事にします。
「他でやっている所があるのかわからないですが、羊たちを街に呼んで『ふれあい牧場』と題して、街の皆さんに羊と実際にふれあって貰うのはどうでしょうか?」
「わぁ♪ それいいわね!! 羊たちのもこもこに触れて虜にならない人なんていないと思うわ!」
レミオロッコも初めてうちの羊に触れた時、いきなり虜になってましたからね~。
「でしょ~? ついでにそこで、羊のフェルトマスコットなどのグッズ販売を行ったりして、いつかは牧場も観光地として開放するのも良いと思わない?」
そのためにはもっと人もいるし、色々と準備が必要なので、まだそっちは先の話になるでしょうけど、でも『ふれあい牧場』の方なら、それほど準備も必要ないはず。
「うん……悪くないかもしれないです。国が一番機嫌を損ねたくないと思っているのは民衆ですからね。キュッテのところの羊が街の皆の知るところとなり、人気が出れば、色々な圧力なども受けにくくなるでしょう」
私はこの世界は元より、この国の事にも全然詳しくないので、アレン様の意見次第では諦めないといけないと思っていましたが、狙いは悪くなかったようで一安心です。
「いやぁ、さすがですね。催し物はどうかと言ってみたものの、フェルトマスコットの販売会ぐらいしか思いつきませんでしたよ。キュッテさんには本当に驚かされてばかりですなぁ」
ゴメスさんも反対ではないようですね。
うん! 凄く楽しくなってきたわ!
「レミオロッコ! これから忙しくなるわよ♪」
あれ……おかしいわね。
また一歩、牧場のブラック化が進んだ気が……。










