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【第58話:ぜ~んぶ】

 アレン様の話を聞いて、私は前世での常識に引きずられていたのだという事に、ようやく気付きました。


 私も詳しくはないのですが、この世界では前世のように細かい法などはなく、基本的には肉体的な被害にあったか? なにか物質的な損害が出たかが重要で、他の事で裁かれる事は稀だったはずです。


 つまり、この世界では、さっきの錬金術ギルドの研究員(お爺さん)たちのように、悪意もなく、ただただひたすら迷惑な行為に対しては、自分たちで身を守るしかないという事になります。


 まぁあの人たちも、きっと悪気はないんでしょうけどね……。


「中々面倒な人たちなんですね……。でも、そもそもどうして私たちのところへ押しかけてくるようになったのでしょう」


「それは……うちがキュッテの所から買い取った羊毛。あれをイーゴス商会の方に卸していたのですが、どうやらそこから流出した羊毛……いいえ、加工していたそうなので毛糸ですね。それを、どこかで錬金術ギルドの研究員が手に入れたらしくて……すみません」


 話を詳しく聞いてみると、鎧や特殊な衣服の研究をしている錬金術ギルドの研究員が、たまたまうちの羊毛で作られた毛糸を手に入れたのが始まりだったようです。


 その毛糸を使って衣服を作り、錬金術のなんらか実験を行っていた所、今までにない高い結果が出たようで、その原因を調べていくうちに、どうやらこの毛糸が特殊らしいという事がわかったそうです。


 その後、錬金術ギルドの方で毛糸を調べてみた所、聞いた事もない色の毛糸で作られた人形が存在するという話に辿り着き、それがどうやらレミオロッコ工房で染色された毛糸のようだという結論になり、連日押しかけてくるようになったと……。


「えっと……特殊なのはピンクなどの色付きだけだと思っていたのですが、そうなると、うちの全ての羊毛がなんらか特殊な効果を持つ羊毛だということですか?」


 色付きの羊毛は、もしかすると何らかの特殊な効果があるかもとは思っていたのですが、まさか普通の羊毛にまでそのような効果が……ん? ちょっと待って……それって……。


「キュッテ。前にあなたから聞いた話だと、普通の羊毛は進化した羊ではなく、普通の羊だという事でしたよね?」


 やっぱりそうだわ。羊じゃない……特殊なのは、私の『牧羊』スキルの効果だ。


「そう、ですね。色付き以外の羊たちは、まだ進化していないはずです」


「……その事が知られると、錬金術ギルドの関心は、全てキュッテ自身に向かう事になるかもしれませんね」


「そうですねぇ。今は研究員の爺さん(奴ら)、特殊な染料を作ったか、毛糸を()る時に何か処理を施していると思っているみたいなので、興味の対象はあくまでもその方法や材料などでしょうが、バレたらキュッテさん、あなた一人が狙い撃ちにされる可能性が高いですよ」


 アレン様やゴメスさんの言う通りです。

 バレたら錬金術ギルドの興味は、全て私に向く事になりそう……。


「はははは。キュッテ、良かったわね。モテモテだよ?」


 いやぁぁぁ~!? あんな連中にモテても全然嬉しくな~い!!


「ちなみにイーゴスは、羊毛の件で何か打てる手はないかを探りにイーゴス商会に出向いていますが、今から情報を隠しても遅いですし、ちょっと難しいでしょうね」


 ようやく工房が立ち上がり、いろいろと安定してきたと思った矢先に、本当に面倒なことになりました。


「それから羊毛そのものについてなのですが、事態が事態だったので、レミオロッコに許可を貰って色々とうちでも調べてみました」


 今回の件が起こってすぐ、アレン様の方でうちの羊毛を調べてくれたそうですが、普通の羊毛と比べて質が良いのはもちろん、かなり多くの魔力が含まれているようで、それが錬金術で加工する際などに、なんらかの効果をもたらしたのではないかということでした。


「キュッテ、どうする? いっそのこと、堂々とスキルの事とか話してしまうのも手だと思うけど?」


 うぅん……レミオロッコの言う通り、協力する代わりに私の事を他言しないようにとか言うのも一つの手なのかしら……。


「ん~待ってください……それは、あまりお勧めしないかな」


 レミオロッコの言うようにしようかと考え始めたのですが、そこでアレン様から待ったがかかりました。


「例えば錬金術ギルドと取り引きして、協力する代わりに私の事を他言しないようにと言うのはダメなのでしょうか?」


「キュッテさん。錬金術ギルドは国の管轄なんですよ」


 ゴメスさんにそう言われても、まだピンとこなかったのですが、アレン様の次の言葉でなるほどと理解させられてしまいました。


「錬金術の進歩は国の繁栄に大きくかかわってきます。だから大部分の研究費は国が出しているのですが、その代わり、錬金術ギルドはその過程で得た全ての情報を国に報告しなければならない義務を負っています。そして、国にキュッテさんのことがバレれば……おそらく普通の生活は出来なくなってしまうでしょう」


 錬金術ギルドのお爺さんたちだけでも厄介なのに、この上、国って……本当に勘弁して欲しいわね。


「でもこのままじゃ……キュッテが牧場を営んでいるっていうのは、もう知られているでしょうし、そのうち牧場にも押しかけてくるようになるわよ?」


 今でこそケルベロスモード(フィナンシェ)に乗ってすぐに街まで来れるようになりましたが、私の牧場は街からかなり離れています。


 実際以前は、朝、日の昇らないうちから羊に牽かせた馬車に乗って牧場を出て、街で手早く用事を済ませても、牧場に戻る頃には、もう日が沈むような時間になっていました。


 だから、すぐに牧場まで押しかけてくるような事はないと思いたいところですが、それも時間の問題かもしれません。


「困ったわね……牧場に来られたら、桃組や檸檬組の羊たちの存在がバレてしま……ん? ちょっと待って……」


 何か今、良い事を思いつきそうだったのですが、なんでしょう……。


「桃組と檸檬組って……キュッテらしいけど」


 レミオロッコうるさいですよ。今、本当に良い案が……んん!?


「そうだわ!! なにも私のスキルの事を公表する必要ないじゃない! 全部、ぜ~んぶ! (あの子)たちのせいにしちゃえばいいじゃない!」


***********************

さぁ♪ ここからキュッテが本領発揮~?(*'▽')

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