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【第47話:提案】

 レミオロッコと一緒に街に向かうという事は、牧場に誰もいなくなるという事です。

 暫くはレミオロッコを一人牧場に残していくのは嫌だったので、私、考えました。


 牧場のいたるところに……、


『羊の数、数えちゃダメだぞ? ひつじが一匹♪ 羊が二匹♪ 羊が三匹♪』


 と書いた看板を立てたのです。

 羊の絵も描いておいたので、子供でもわかるはず。


 能力をオンにしてテストしたところ、どうやっても回避不可だったようなので、たぶん大丈夫でしょう。

 だれでテストしたかって? それはレミオロッコ(秘密)です。


 まぁだから、私たちが留守中に牧場に近づく人がいたとしても、問答無用で眠らせてしまうので、二人で街に出掛けても羊たちなら大丈夫だろうと判断したわけです。


「あっ、もう街が見えたわよ」


 レミオロッコの声を受けて前方に目を向けると、地方都市クーヘンの街が目に入りました。

 本当は街の門までケルベロスモード(フィナンシェ)に乗って行ければ早いのですが、それは出来ればやめて欲しいとアレン様に言われているので、自重しています。


 でも、徐々に街の皆にも慣れてもらって、いつかは街中もケルベロスモード(フィナンシェ)の背に乗って移動したいんですけどね~。


「じゃぁ、さっそくアレン様のところに向かいましょうか」


「そうね。お腹も空いたし♪」


 何気にレミオロッコも、アレン様にご馳走して貰う食事を楽しみにしているのよね。

 私たちが街を訪れる日のお昼は、いつもアレン様がアノ(・・)お店に連れて行ってくれるから、私もレミオロッコもまんまと餌付けされちゃってます。


 あのお店、実は街で一番と噂の料理店らしく、しかも一見(いちげん)さんお断りなんだとか。

 ただ、店の名前が『ロシナン亭』と言うらしく、なんだかちょっと残念な感じがするのは私だけかしら……?


「「がぅ♪」」


 うん。そう言えば、コーギーモード(フィナンシェ)もすっかり餌付けされていたわね。


「まぁ、私も人の事言えないし、アレン商会へ急ぎましょうか」


 ロシナン亭はともかく、たまに街でちょっと良い食事をするぐらいなら、今の私なら全く問題ありません。

 それぐらいは余裕で出来る程度には稼ぐようになったのだけれど、これから人を雇ったり、牧場の施設をパワーアップ(増築)したりしたいので、贅沢出来るようになるのはまだもう少し先かしら。


 アレン商会には、もう何度も通っているので、道中の街並みも、だいぶん見慣れてきました。

 しかしその途中で、若い女の子の持つ鞄に、ある物がぶら下がっているのを見つけ、思わず声をあげてしまいました。


「あっ、レミオロッコ! あれ見て♪」


「わ♪ うちの羊ちゃん! こうして知らない人が身に付けてるのを見ると、結構嬉しいものだね♪」


 その女の子の鞄には、うちがアレン商会に卸している『羊のフェルトマスコット』がぶら下げられていました。


「そうね♪ 嬉しいわね……って、あっちの子も!」


 それからも、アレン商会への道すがらよく見てみると、何人もの女の子の鞄や腰のベルトなどに、うちの羊のフェルトマスコットがぶら下げられているのを発見しました。


「もしかして、うちの羊のフェルトマスコットって、ちょっと流行(はや)ってる?」


 ◆


「ちょっとどころではないですよ!」


 アレン商会に到着し、取り引きの前にお茶を出して貰ったので、先ほどの街での様子を尋ねたところ、アレン様がちょっと興奮気味に身を乗り出してきました。


「え? そ、そんなにですか?」


「そんなにです! キュッテから仕入れた商品は、毎日、一瞬で完売している状態なんでよ!」


 な、なにか、珍しくアレン様が凄く興奮されていますね。

 領主様のご子息、三男で、このアレン商会の商会長を務めるアレン様は、どちらかと言うと普段はとても落ち着いたお方です。


 それが今は、普段は線のように細い目を見開くほど興奮しており、ちょっと驚いてしまいました。


 なにかアレン様が目を見開いていると、糸目開眼で能力解放でもしそうなカッコよさがありますね。実際はイケメンに拍車がかかるだけで、そんな能力は持っていないはずですが。


 そんなどうても良い事を考えていると、その様子を苦笑いしながら隣で見ていた、相談役のイーゴスさんが、その理由を教えてくれました。


「実は、お二人から仕入れさせて頂いているあの商品は、次の取引予定日までの日数で日割りし、毎日少しずつ店頭にお出ししているのですが、そのお陰で閑古鳥が鳴いていたアレン様のお店に、連日お客様が押しかけてくるようにまでなったのです」


 なるほど。そう言えば、お店の方は人が全然来てくれないって言ってましたね。

 それが毎日たくさんの人が訪れるようになったのなら、アレン様も大層嬉しいでしょう。


 もう少し話を聞いてみると、一人一個、もしくは子供の数までと決めて販売しているようで、不正な転売をふせぐために店で会員証なるものを発行して身元の確認までしてくれているようです。


 まぁ私のアイデアなんですけどね。


 それにしても、ちゃんと皆に行き渡るように、色々と考えて販売してくれているようで嬉しいです。


 これでこの世界に少しでもカワイイが増えたら良いな~♪


「そ、そんな事をわざわざキュッテたちに説明しなくても……」


 アレン様も自覚はしていたのでしょう。

 イーゴスさんに自分がなぜテンションが高いのかを冷静に説明されて、顔が真っ赤です。


 イケメンの恥ずかしがるさまは、なかなかレアなので、カメラがあれば撮っておきたいところです。残念。


「そ、それよりキュッテ。羊のフェルトマスコットの増産は出来そうですか?」


 前回取り引きしに来た時に、検討してみて欲しいと頼まれていたので、増産できるのか、ずっと気になっていたのでしょう。

 アレン様は、やや申し訳なさそうに、そう尋ねてきました。


「それが……うちは街から離れた場所にある牧場なので、中々人を雇うのが難しくて……。この後、一応商業ギルドに行って人材を紹介して貰えないか相談してみるつもりではあるのですが、正直、すぐには見つからないかなぁと思っています。申し訳ありません」


「あぁ、謝らないで下さい!? 無理を言っているのはこちらの方ですから!」


 アレン様にはとても良くして頂いているので、期待に応えたいところですが、なかなか難しいですね。


 そんな風に考えていると、イーゴスさんが、


「キュッテさん。それなら、街に工房を作られてみてはいかがでしょうか?」


 と、提案してきたのでした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 眠らせるために先ず看板を読んでもらわないとダメですが、識字率が高いんですか?盗賊のような底辺でも文字が読めるぐらいに
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