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【第39話:悪意】

「副ギルド長は、以前、街の外の農家が栽培に成功した、貴重な植物を根こそぎ奪った疑いがあるようなのです。しかもその際……家の者も行方不明に……」


「え……」


 私は一瞬頭が真っ白になりました。

 どういうこと? 最悪、泥棒に来ることは警戒していましたが、家の人が行方不明?

 え? 怪我をしたとかじゃなくて?


 魔物のいる異世界に転生したと言っても、私はずっと牧場でのんびりと暮らしてきました。だから、どこかそういう殺伐とした話は、遠い世界のことのように感じていたのかもしれません。


 そんな悪意が自分に向けられるかもしれないと知って、私はどう反応して良いかわからなくなってしまいました。


「あ……ぼ、僕が、キュッテはいつもケルベロスを従えているので、心配は不要でしょうなどと軽率な事を言ったから……」


「いいえ。わたくしもキュッテさんはもう一人の少女と一緒に街に来ているものと思っていたので、とりあえず身に危険は及ばないだろうと……気付くのが遅くなってしまい申し訳ございません」


 私が放心していたからでしょう。

 アレン様とイーゴスさんに、自分が悪いのだと謝らせてしまいました。

 二人は何も悪くなんてないのに……。


「そんな! お二人とも頭を上げて下さい! お陰で私の方も認識を改める事ができましたから! それに、今日牧場(うち)を襲うって情報が入ったわけじゃないですよね?」


「はい。わたくしどもも、牧場を襲うと言った情報を掴んでいるわけではありません。ただ、副ギルド長は、キュッテさんのお作りになるこのフェルトマスコットにかなり価値を感じているようなので、レミオロッコさんが牧場で一人いる状態はやはり危険です。ですから、今日はお早めに帰って差し上げた方が良いでしょう」


 そ、そうよね。別に今日うちの牧場を襲うって情報を掴んだとかじゃないんだし、そういう可能性のある相手だと早めにわかっただけでも良しとしなきゃ。


 一応、能力を使って何匹かの羊の居場所を確認してみましたが、普通に牧場にいるようなので少なくとも今は大丈夫そうです。


 あとは、イーゴスさんの言う通り、今日は早めに帰る事にしましょう。


「人に危害を加えてくるような相手だとは思っていなかったので、ちょっと驚きましたけど、だ、大丈夫です。ただ、今日はもうギルドには行かず、このまま帰ろうかと思います」


 やっぱりこんな話を聞くと心配なので、この後、商業ギルドで羊毛を売る予定はキャンセルする事にしました。


「あ、それなら羊毛はうちで一緒に買い取らせてください!」


「え? でも、アレン様の商会では、羊毛のような素材は扱っていないのではないですか? それに素材は商業ギルドでという規則が……」


 以前お話をした時に、アレン商会で扱っている主な商品を聞きましたが、素材のようなものは扱ってなかったと記憶しています。

 それに素材は、商業ギルドが取り仕切ることになっているので、アレン様の商会で買い取ると不味いのではないかと思ったのですが……。


「たしかに、本当は素材は商業ギルドでって事になっていますが、そこに不正があるのなら従う理由もないです。それに素材はうちの商会では扱っていませんが、イーゴスのところが確か扱っていたはずです」


「はい。アレン商会で買い取って、うちへ卸せば問題ないでしょう」


 結局その後、イーゴスさんも認めたことで、副ギルド長の件が片付くまではフェルトマスコットと毛糸だけでなく、羊毛も買い取って貰えることになりました。


「じゃぁ、さっそく運びますので、少し下がって頂けますか? フィナンシェも準備はいい?」


「「がぅ!」」


「じゃぁフィナンシェ、行くよ! 送還!」


 私がそう叫ぶと同時に能力が発動し、フィナンシェの足元に淡い光が広がっていきます。

 そして、光が収まった時には、フィナンシェの姿は消え去っていました。


「三分ほどしたら召喚して呼び戻しますので、少しお待ちください」


「はい。しかし……何度見ても、その能力は凄いですね。しかも、キュッテは羊飼いだと言うのだから驚きです」


 うん。私も驚きです。


 魔物使いと呼ばれる人たちは、この世界とは違うどこかに魔物を送還するようなので転移としては使えませんが、羊飼いが本気を出すと輸送革命が起こりますね。


「……そろそろ良いかしら?」


「キュッテさん、今、ちょうど三分経ちましたよ」


 イーゴスさんの言葉につられるように目を向けると、懐から懐中時計のようなものを取り出して時間を確認している姿が見えました。


 わ~♪ レミオロッコが小型の時計も存在するって言っていたけど、さすが元この国有数の商会の商会長ね。とんでもなく高額だと言っていたのに。


「凄い……懐中時計ですか。ありがとうございます!」


 とりあえず時計はともかく、十分な時間待ったので、召喚してフィナンシェを呼び戻しましょう。


「では、呼び戻します! 召喚!」


 先ほど送還した際と同じように、淡い光が放たれると、やがて大きな影が二つ……え? 大きな影? 二つ?


 えっと……なんでしょうか……デジャヴなこの感じは……。


「はっ!? またお前かぁ!?」


 私が咄嗟に後ろに飛びのくと、そこには……。


「「ぶぇぇぇ~!?」」


 カシワ(白い何か)黒い何か(オハギ)が驚きの声をあげて立っていました。


「前回よりも増えてるし!? カシワはともかく、なんでオハギまで一緒なのよ!?」


 カシワは自由山羊()なのでわかるのだけど、自分の事を絶対羊だと思っているオハギまで一緒なのは珍しいわね?


「や、山羊? ですか? これはいったい……」


 私も驚いたけど、アレン様たちはもっとびっくりしています。

 そりゃぁ、突然山羊が二匹も転移してきたら驚きますよね……。


「すみません! 二人ともうちの牧場の子たちで……」


 私が前回同じような事があったこと、そして今回は二匹に増えてまた起こった事を掻い摘んで説明しました。


「はははは。そうなのですね。ちょっとびっくりしました」


 と、アレン様は笑みを浮かべたのですが、しかし、イーゴスさんが少し真剣な表情を浮かべている事に気付きました。


「イーゴスさん? どうされたのですか?」


「いえ、思い過ごしなら良いのですが……先ほどキュッテさんは、レミオロッコさんが牧場で待っているとおっしゃっていたのが気になりまして」


 え? た、たしかに……レミオロッコがいるのに、どうして地下にある秘密基地の中にカシワとオハギがいるの……?


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深夜のゲリラ更新です(=゜ω゜)ノ


このまま第一章完結まで駆け抜ける予定なので、

この土日はブックマークをして要チェックですよ~!

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