【第36話:お散歩】
アレン様と……いいえ、アレン商会との契約を結んでから、一週間が経ちました。
今回も前回同様に羊のフェルトマスコットを一〇〇個用意したのですが、今回はピンクの羊も別で一〇個ほど用意しています。
前回お会いした時、ピンクの羊は試作品の二個だけしか渡せなかったのですが、それを見せた瞬間、二人とも凄い食いつきだったんですよね。
まだレア進化した羊の警護をどうするのかという問題が残っているので、本当はピンクの羊毛の存在を明かすのはもう少し先に延ばしたかったのですが、イーゴスさんの強い要望で今回から取り引きに含める事にしました。
ちなみに、まずは少量という事になっていますが、フェルトマスコットに加え、うちで作った毛糸も同じコーナーで販売してくれることになっており、毛糸も羊のフェルトマスコットと同じく、白一〇〇玉、ピンク一〇玉を用意してあります。
イーゴスさんの計らいで、うちの商品を売る場合は出来るだけ抑えた価格で、一般の人にも平等に入手のチャンスがあることを契約書の条件に加えてくれているので、ピンクの毛糸にしても、一人の商人が買い占めするような心配もありません。
普通の羊毛で作った毛糸もかなり良質なものなのですが、こちらも対象にして貰っていますので、本当に二人には頭があがらないですね。
「レミオロッコ~! そろそろ街へ行こうと思うのだけど、本当に留守番一人で大丈夫~?」
レミオロッコと話し合った結果、これからは牧場を留守にして街に行くのはやめようという事になり、当面は私が街に行く役になりました。
本当はレミオロッコに街に行って貰えれば、レミオロッコはフィナンシェに守って貰えるし、私は何かあってもフィナンシェを召喚する事が出来るので一番安全なのですが、断固として拒否されてしまいました。
人見知りを早く何とかしないとダメですね。
と言っても、こんな周りに誰も住んでいない牧場で、私と二人で暮らしているのに直るわけがないのですが……。とりあえず羊で練習させようかしら?
「大丈夫だって。白山羊と黒山羊、羊たちは私が絶対守ってみせるから!」
「やっぱり大丈夫じゃないじゃない! もし危なそうなら、羊たちには悪いけど、レミオロッコは秘密基地に隠れるのよ!? わかった! あぁん!!」
「わ、わかったわよ……でも、私にとっても羊たちはカワイイから、その、出来れば守ってあげたいじゃない……」
レミオロッコには、出来ればカシワとオハギは一緒に避難させて欲しいけど、最優先は彼女自身で、危なそうならすぐに隠れるように言ってあったのですが……。
羊の事を可愛がってくれているし、大事に思ってくれているのは嬉しいのですけどね。
ただ、これは彼女自身の安全が一番大事だという事は勿論なのですが、羊たちなら、最悪攫われたとしても、私は能力で居場所がわかるからです。
先日街に行った時に試したのですが、私がかなり離れている街に居ても、意識すれば羊が牧場のどの辺りにいるかまでわかったので、たぶん攫われてもすぐに居場所が特定できるはずです。
「昨日の晩も話したけど、攫われてもケルベロスモード連れて、攫った奴らをぎったんぎったんのべっこんべっこんにしてから、救い出すから大丈夫よ!」
そりゃぁ、私のカワイイカワイイ羊たちを盗んだとしたら、ぜ~ったいに、ただではおきませんよ? ふふふふ……ふふふふふふ。
「あ、あの……キュッテ? ちょっとその黒い笑み怖いんだけど……。ちゃ、ちゃんと泥棒とか来たら逃げるから!」
おっと、私の中の黒い何かが洩れ出てしまっていたようですね。ふふふふ。
「わかったならいいわ。じゃぁ、行ってくるから羊たちをよろしくね~!」
私はそう言い残すと、ケルベロスモードに颯爽と飛び乗……よじ登り、街へと向かったのでした。
◆
ケルベロスモードの背に乗りながら、草原を駆け抜けていきます。
初めて乗った時は、激しい風圧と上下動で楽しむ余裕など皆無でしたが、今はフィナンシェが魔力のようなもので覆ってくれており、なるべく揺れが少ないように走ってくれるているので、今ではとても快適な乗り心地です。
でも、快適になった乗り心地とは裏腹に、その速度は倍近くにあがっています。
元々牧場から一時間ほどで街道に出ていたのですが、今ではその半分ほどの時間で辿り着いています。
「ストップウォッチがあったらタイムアタックしたいところだわ」
私は、あっという間に街道が見えたことにちょっと驚き、そんなくだらない考えを呟いてしまいました。
でも、街道から街までは、コーギーモードして一人と一匹で歩いて向かいます。
ちいさな私の歩く速度に以前との変化は無く、ここからは今まで通り、のんびりお散歩です。
今日は特に、晴れている上に春の陽気で、なんだか歩いているだけで気分が良いですね♪
「ねぇ、フィナンシェ? あなたが本気を出したら、牧場までどれぐらいでつくのかしらね?」
「「がぅ?」」
しかしコーギーモードは、私の話す言葉の意味まではわからないので、こちらを見上げて首を傾げていました。
はい、カワイイ頂きました~♪
「スマホがあったら、絶対に写真に残しているのになぁ~」
そんな他愛のない会話(?)をフィナンシェとしながら歩いていると、またあっという間に街が見えてきました。
今度は時間的にはそれなりにかかっているので、気分的な話ですけどね。
「フィナンシェのお陰で、街まで出るのがホントに楽になったわ♪ ありがとね」
「「がぅ♪」」
私はそのままいつも通り街に入ると、商業ギルドではなく、まずはアレン商会のお店へと向かいます。
アレン様は送還召喚コンボで荷の運搬が出来る事は知っているので、お店で部屋を借りて、荷物を運んでいるからです。
そうすれば、商業ギルドで個室を借りなくて済みますしね!
おのれ、ほんわか受付嬢め……。
そして、アレン商会のお店まであと少しという時でした。
「ねえちゃん! ねえちゃんって、そのひつじのおにんぎょう、どこで手にいれたんだ!?」
と、幼い男の子に声を掛けられたのでした。
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お読み頂いている皆様のお陰で、日間異世界ファンタジーで11位……
10位の作品とポイント同じなので、実質10位になりました!(おい)
本当にありがとうございます!(*ノωノ)
作風をがらりと変えた事で、最初は本当に少ない方にしかお読み頂け
ませんでしたが、PVの方も昨日は17000pvを超えており、本当に
嬉しい限りです。
これからも楽しんで頂ける作品を目指して頑張って執筆していきますので、
ブクマや評価、感想やレビュー……イチオシレビューによる応援を
よろしくお願いいたします! <(_ _")>
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