【第27話:ほっぺちゃ】
「どうして夕日の赤ではなく、ピンクに染まった羊がいるのかしら?」
目をこすってもう一度しっかり見てみますが、やはり夕日の赤ではなく、ピンクに見えます。
「……いったいどういうこと? ねぇ、キュッテ? あなた、もしかして……」
「もしかして?」
「直接羊に染料を!?」
「そこまで落ちてないわよ!! 失礼ね! そもそも今日はレミオロッコとずっと一緒にいたのに私にそんな事出来ないでしょ!」
誰のイタズラかわかりませんが、私のカワイイ羊にこんな事をするなんて許せません!
で、でも、ピンクの羊って……控えめに言っても、神カワイイんですけど!?
「なんか反論事と顔のデレ具合が全然合ってないんだけど……」
しまったわ……ついあまりの可愛さに顔が……やっぱりカワイイわね♪ じゃなくて、とりあえず色を塗られちゃった子を呼んでみましょう。
「ちょっとピンクのカワイイ子たち~! 集まって~!」
でも、真面目な話、誰がこんなことをしたのかちょっと気を付けないといけないですね。ピンクの羊カワイイ。
だって、ここは街どころか、街道からも随分と離れたとこにある牧場ですよ? ピンクの羊カワイイ。
それに、いつも通り寝てたんでしょうけど、フィナンシェが反応していないのもおかしいです。ピンクの羊カワイイ。
「キュッテ……まずは、その蕩けそうな顔をなんとかしようか」
おっと、ワタシトシタコトガハシタナイ。
「そうだ。コーギーモード~、一応、周りに怪しい人がいないか偵察してきて~!」
「「がぅ!」」
今もフィナンシェは全く警戒していないので、たぶん大丈夫だとは思いますが、事実、このようにピンクに染められた羊が何匹もいるので油断はできません。
そして、フィナンシェがカワイイお尻をふりふりさせながら走っていくのと入れ替わりで、ピンクの羊たちが集まってきました。
「「「「「めぇ~」」」」」
ピンクに染められた羊は、全部で五匹いるようですね。
「「ぶぇぇぇ~」」
なぜか白山羊と黒山羊も集まってるけど……あなたたち呼んでないからね?
それより今は、ピンクの羊です。
「え? キュッテ……この子たちの毛、すごく綺麗に染められてない? 色が完全に定着しているように見えるよ」
レミオロッコに言われてあらためてじっくり見てみます。
何度も色んな染め方をして失敗してきたからこそ、その違いがわかります。
「本当ね……ちょっと羊毛の質を見てみるわ」
私には、前世の異世界モノの定番。どんなものでも見極める鑑定眼のような便利な能力はありません。でも、私にはこれがあります。
一つ、羊毛を鑑定する能力。
私は一匹の羊に近づくと、すぐに羊毛の鑑定能力を使ってみました。
「え? うそ……この羊毛、上質なピンクな羊毛ってなってるわ……」
私の羊毛の鑑定能力は、ゲームのステータスのような詳細なことはわかりませんが、その羊毛がなんとなくどれぐらいの質で、状態として痛んだりしていないかなどが把握できるというものです。
今までの染色実験でも何度か使ってきましたが、黒の染料を使っていた場合「黒い汚れが付着した羊毛」という風な結果がでていたのですが、今回は「上質なピンクの羊毛」となっていたのです。
「やっぱり……これ、どう見てもイタズラで簡単に出来るレベルじゃないわ」
「そうね。そもそも、何の意味があるのかって話でもあるんだけど……」
私たちが羊毛の実験を繰り返していたのは秘密基地なので、誰かに見られることは絶対にありません。
もし、私たちが能力を使わずに羊毛を染めようとしている事を知っている人がいたとすると、染料を買ったあの店の店主ぐらいですが、こんな事をする意味がわかりません。
「ねぇ、キュッテ……あなた、ランクアップし過ぎて自分の能力を把握しきれていないって言ってたわよね?」
レミオロッコには、私のスキル『牧羊』が信じられないぐらい一気にランクアップしたせいで、能力が把握できていないことは教えています。
しかし私は、能力の一覧を一気に見る事は出来ませんが、こんな能力を使いたいと念じて探せば「該当する能力があるか」を把握する事は出来ます。
習得済みの能力は、自然に認識し過ぎているせいで普段は認識できませんが、その能力に意識を向けさえすれば、その能力の内容を理解はできるのです。
「だから、それは実験を始める前に言ったと思うけど、羊毛を染色するような能力はないって……」
「そう! それよ! キュッテは染色に関する能力を探したんでしょ?」
……確かに……私は羊毛を染めることが出来ないかと能力を探していました。
「つまり、羊毛を変色させる能力とかってことね!」
と思って、再度調べてみたのですが……。
「あれ? 変色させるような能力も無いわね……」
この状況の謎がやっと解けると思ったのですが、変色や変化やら思い浮かべて探してみましたが、いずれも該当する能力を見つけることはできませんでした。
「そっかぁ~。絶対、キュッテの変人じみた馬鹿げた能力が関係していると思ったのに……い、いたひです……ほっぺたつかみゃないで……」
まったく……何が変人じみたよ……。
私はレミオロッコの頬を両手でふにふにとひっぱりながら、でも、それならこれはと、もう一度視点を変えて考えてみます。
「ふぁの……かんぎゃえこみゅなら、ほっぺちゃはにゃしてからに……」
私はいろんな角度で、自分の能力をもう一度探っていきます。
そして……一つ、もしかしてと思う能力を発見しました!
「レミオロッコ! これかもしれないわ!」
「ふぁに? でみょ、そのみゃえにほっぺひゃを……」
いや~、考え込んでいて気づきませんでした。うっかりです。
「シツレイ、キヅカナカッタワ」
「ぜったい嘘よね!?」
それよりも、きっとこの能力です。
「そんな事より、これかもしれないわ!」
一つ、稀に、羊が主の想いに沿った進化をするようになる能力。
思い通りに、いつでも、という感じで進化をさせる事は出来ないようですが、私が強く望んだ時に、稀にその想いに応えるような進化をする能力のようです。
「え? じゃぁ、このピンクの羊たちは被害羊……あ、いひゃい、うしょです。ほっぺちゃはにゃして~!!」
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試験的に長~い副題を付けてみました(/ω\)
不評なら消すので、副題無くなってたら、
「あ、お察し…」と、そっと目を逸らしておいてください…
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