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【第26話:夕日】

 街に買い出しに行ってから数日が経ちました。


 日課の牧場の業務をこなし、空き時間にぬいぐるみ(商品開発)を……といきたい所ですが、まずは羊毛にどうにか色を付けられないかと色々な実験です。


「これもダメね……この染め方でも、やっぱりすぐに色落ちしてしまうわ」


「ん~、私の創作(能力)でも染め方まではわからないし、このまま続けても難しそう」


 しかし、色付け実験は全く上手くいっておらず、思いついた方法は全て失敗に終わっていました。


「やっぱりスキルの能力を使わないと、色を定着させられないのかしら……」


 街で染料を買ったあの時、元の世界との一番大きな点を知ることが出来ました。


 それは……羊毛のような魔物から作りだした素材は、薄っすらと魔力を帯び続けているという事。

 魔力を帯びている(このせい)で、前世のような方法で染めても、すぐに色が落ちてしまのです。


「魔力が原因の問題だから、私の『創作』でもやっぱり難しいわね……」


 スキルの能力を使わないで上手く染めるには、中々前途多難のようです……。

 レミオロッコにも色々と試して貰っていますが、今のところ思いついた方法は全てダメでした。


「あ、そろそろ皆を呼び戻さないといけない時間ね。はぁ……」


 思った以上に時間が経っており、今日もダメだったかとちょっと溜息をついてしまいます。


 ちなみに今は、秘密基地(地下倉庫)で作業をしているので日の傾きなどはわかりません。時刻が正確にわかるのは、レミオロッコが作ってくれた大きな掛け時計を設置してあるおかげです。


「いろいろやってみたい事があって充実しているからこそ、時間が過ぎるのが早いんでしょ? キュッテが言った言葉だよ。元気だしなさいよね」


 ぐぬぬ……不本意ですがレミオロッコに励まされてしまいました……。

 レミオロッコのくせにと内心ちょっと悔しいです。


「……レミオロッコのくせに!」


「心の声が駄々洩れしてるわよ!!」


 おっと、ワタシトシタコトガハシタナイ。


「もぅ……まぁいいわ。その調子だと大丈夫そうね。じゃぁ、私がフィナンシェちゃんに頼んで、羊たちを厩舎に戻してくるから、こっちお願い」


 周りに視線をむけると、色々と試していたので、染め桶や染料、染めるのに失敗した羊毛や布などが散乱しています。


「はぁ、仕方ないわね。私はここを片付けておくわ。フィナンシェならいつもの場所で寝てるから連れてって」


 羊たちはみんな素直で良い子だし、厩舎への誘導も、フィナンシェを介して指示をすれば、レミオロッコでも問題ないでしょう。


 最近では、レミオロッコもすっかり牧場の仕事にも慣れてきていますし、これぐらいなら安心して任せる事が出来るようになりました。


 え? 誰ですか? フィナンシェが牧羊犬らしいことをしていると驚いているのは?

 牧羊犬なのですから当たり前です。


「あ、そうだわ。白山羊と黒山羊(カシワとオハギ)を忘れないでね! 特にカシワ!!」


 あの子だけは、自由山羊()だから気を付けないと……。


「カシワちゃんは……気を付けておくわ。あの子の行動は予測できない……」


 レミオロッコも、カシワの自由っぷりはよく理解しているようですね。


「さ。とりあえず私は、コレ……片付けないと……」


 口には出さないけれど、レミオロッコが来てくれて本当に助かったわ。

 そんな事を思いながら、部屋の惨状に、もう一度だけ溜息を吐いたのでした。


 ◆


 それから私は、暫くせっせと片付けをしていました。

 そして、ようやくもう少しで終わると「ふぅ」と一息ついた時でした。


「ん?」


 外が何か騒がしい事に気付きました。

 ん? ……騒がしいと言うか、レミオロッコが私を呼んでいるようですね。


「きゅ、キュッテ!! 急いで上にあがってきて~!!」


「え? どうしたの? そんなに慌てて?」


「いいから来て! 早く!!」


 ここまで慌てているレミオロッコも珍しいですね。

 さすがに、ちょっと心配になってきました。


「わかったわ!」


 私はそう返すと、片付けを中断し、外へと向けて走り出しました。


 この秘密基地は、丘の斜面に設置された隠し扉が出入口です。

 階段を駆け上がり、そこから飛び出した私の目に飛び込んできたのは、幻想的な夕日に染まった草原と、厩舎へと向かう羊の群れ。


 前世にこの景色を見る事があったとしたら、きっとあまりの美しさに息を飲んだ事でしょう。


 でも……もう完全に見慣れてしまったわね。

 もちろん綺麗だとは思うんですけど、今はそれより、レミオロッコがあんなに慌てていた理由の方が気になります。


「ねぇ? レミオロッコ? 何をそんなに慌てていたの?」


 私は外で待っていたレミオロッコの元へと駆け寄ると、その理由を尋ねました。


「アレよ! アレを見て!!」


 レミオロッコは一瞬だけこちらに目を向けると、すぐに視線を元に戻し、夕日の赤に染まる羊たちを指さしました。


 えっと……? もしかして、私と違ってこの景色をまだ見慣れていないレミオロッコが、感動して……?

 それで、私に見て欲しくて慌てて呼びに来た?


 うん。ないわね。

 レミオロッコがそんなに可愛らしい行動をとるはずがないわ!


「ねぇキュッテ? なんかまた失礼なこと考えてない?」


「私の事をよく理解してくれている友人がいて嬉しいわ」


「私は嬉しくないわよっ!?」


 おかしいわね。

 ここは「私もよ!」とか言って私の胸に飛び込んでくる所なのに。


「なによ。じゃぁ、なんでそんなに慌てているのよ?」


 今世の私にとっては、この息を飲むような美しい光景も、見慣れた日常です。


 み、見慣れた……。


「……見慣れていない光景が混ざってるわね……」


 私は夕日に朱に染まった羊の中に、違和感のある羊が数頭いる事に気付きました。


「どうして夕日の赤ではなく、ピンクに染まった羊(・・・・・・・・・)がいるのかしら?」


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この作品は、こげ丸的にもとても楽しく書かせて頂いていますが、

やはり応援頂けると執筆にも力が入りますので! 人間だもの(´▽`*)

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