【第24話:ぐぬぬ】
フィナンシェにカシワの尻尾を齧らせて送還したあと、私は今起こった出来事を思い返していました。
「これって……もしかしなくても、フィナンシェに触れている生き物も一緒に送還や召喚されるって事だよね?」
咥えた物を運べるのはわかっていました。
実際に何度もこの方法で建築資材などを牧場へ運んでいます。
そして、もしかしたら生き物を咥えさせれば生き物も運べるかもとは? とも思っていましたが、さすがに気軽に実験するわけにもいかないので後回しにしていたのです。
まだ人を運ぶのはまだ抵抗がありますが、この感じだと問題なさそうではありますね。
不可抗力で実験しちゃった形に思う所はあるのですが、カシワのお陰で能力の使い方の幅が大きく広がったのも事実です。
「仕方ないわね……ご飯抜きは勘弁してあげましょうか」
そんな事を呟いていた時でした。
「ん? 何か外が騒がしいわね?」
この部屋、パッと見は物置にしか見えないのですが、他の部屋同様に商談内容が外に漏れないような魔道具が使われていて、気付くのが遅れてしまいました。
「あ、でも、そろそろ呼び戻さないと……」
外の様子はちょっと気になりましたが、フィナンシェがカシワを草原にポイして、また羊毛の袋を咥えるのには十分な時間が経過したので、先に召喚おきましょう。
「召喚!」
だいぶん見慣れてきた淡い光が収まると、テーブルの上には自分の身体よりも大きな袋を咥えたフィナンシェの姿が現れました。
私は羊毛の詰まった袋を受け取って部屋の隅に置くと、
「おかえり、フィナンシェ~♪ ありがとね~♪」
と、優秀な牧羊犬をわしわししてあげます。牧羊犬ですがなにか?
「「がぅ♪」」
「フィナンシェ、さっきは助けてくれてありが……え? なんかさっきより騒がしくなってない?」
そんな呟きを漏らした時でした。
「おい! いったいこの部屋で何をしている!!」
突然、部屋の扉を開けて、男が怒鳴り込んできたのです。
「ひゃっ!? な、なんですか、いきなり!?」
「何ですかだと! 階段が光ってると連絡を受けて駆け付けてみれば、光はこの物置からではないか!?」
あ、この人、今この部屋のこと「物置」って言った!
じゃなくて……部屋が狭いから召喚と送還時の光が漏れていたってことかしら?
いいえ、そんな事より、思いっきり不味い事になったわね……。
「ん? お前、牧場の餓鬼か?」
怒鳴り込んできたのは、今一番会いたくない人だったのです。
「は、はい。副ギルド長……」
◆
その後、副ギルド長にこってりとお説教をうけました。
それはもう、ねちねちねちねちと……そして騒がした罰だとか言って、更に羊毛の買い取り額を下げられました。
まぁ安く買い叩くために、徹底的にねちねちと攻め立ててきたのでしょうけど。
「見てなさいよ……ぐぬぬ」
当初より安い額で売る事になり、私が悔しがっていると、
「実際に『ぐぬぬ』とか言う子初めて見たわね。そもそも、狭い部屋借りてしまったのが失敗なのよ」
そうだわ! 諸悪の根源は、あの一見人の良さそうなほんわか女ね……。
もう絶対に油断しないわ!
「ぐぬぬ……まぁ、今はいいわ。買い叩かれたのは腹が立つけど、ぐぬぬ、予定より羊毛を多めに売る事で必要なお金は手に入ったことですし、ぐぬぬ、さっそく買い出しに行きましょう……ぐぬぬぐぬぬ」
「もう突っ込まないからね……」
せっかく「ぐぬぬ」をサービスしてあげたのに。
とりあえず、心情は置いておけば予定通りよ! ……予定通りよ!
◆
私たちがまず商品として創るモノは『ぬいぐるみ』です。
その『ぬいぐるみ』の材料の大半は羊毛で作る予定なので、うちの牧場で用意できるのですが、今後は服やちょっとした小物も作ってみたいと思っているので、染料や装飾に使うボタンなど色々な物を購入していきます。
「ある程度溜まったし、一度荷物を送っておこうかしら」
「そうね。あ、あそこの路地裏とか良いんじゃない?」
私たちはまだ二人とも子供で身体が小さいので、ある程度荷物がいっぱいになったら、人気のない場所を探してコーギーモードを送還して荷物を置きに行って貰っています。
「フィナンシェ、ありがと」
「「がぅ♪」」
フィナンシェやっぱりカワイイよフィナンシェ。
お礼にしっかりとモフってあげましょう。
もふもふもふもふ……この首の付け根のもふ加減がたまらないですね……もふもふもふもふもふもふもふもふ……。
「キュッテの事がたまにわからなくなるわ……」
もふもふもふもふもふもふもふもふ……前足の脇の部分や背中のもふり具合も悪くないわね……もふもふもふも……。
「ねぇ、そろそろ……」
もふもふもふもふもふもふ……。
「ちょっとキュッテ……」
もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ……。
「てめぇ! わざとだろ! シメるぞ!」
「おぉ~、久しぶりに『シメるぞ』を聞けたわ♪」
私と二人だと、最近、すっかり言葉遣いも普通になってたから久しぶりに聞けたわ♪
「な・ん・で・喜んでるのよ!?」
「レアな台詞聞けたからですけど? あぁん?」
「煽っても、もう言わないからねっ!?」
「……ちっ……」
久しぶりに「あぁん!」も聞きたかったのに。
「今、『ちっ』って舌打ちしたぁ!?」
おぉ~、これでも言わなかったわね。
と、そんな事より、予定より時間遅れているし急がないと。
「そんな事より、次の店に急ぎましょうか。ちょっと遅れていますし」
「誰のせいよ!?」
むむ。今日は本当に原因全部私だし言い返せないわね。
「次の店に急ぎましょうか。ちょっと遅れていますし」
「スルーしたっ!?」
そんな騒ぎながら歩いていたので、少し時間がかかりましたが、ようやく最後の店に到着したのでした。
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今日の更新はここまで!
また明日の更新をお楽しみに☆
ぐぬぬ……もっと皆に読んで欲しい!
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