21階層での逃亡劇3
“蒼海の眼”でも、炎に焼かれた男達のうち3人は死亡していたが、その生き残り3人、そして潜んでいた6人は生きたまま捕まえることができた。
しっかり縛った後は、尋問までに死ぬと勿体無いと言われたので、いやいやながら回復魔法で治癒させてある。
一方、“選ばれた盟友”の仲間6人は、誰も怪我をしていない。そしてマンファン分隊長たち3人の方にも怪我人は居ない。
「結果としては大勝だったが、なんて酷い綱渡りなんだ」
「そうですね。でも少なくともこの場は何とかなりましたね。ドミニコラ師範代もありがとうございました」
衛兵団の分隊長マンファンが班長セレスラン以外に連れて来たのは、シミリートが通い出した槍術道場のドミニコラであった。
「あぁ、マンファンが、信用が出来て腕が立つのは貴方だけだと泣きついて来たのでな。弟弟子の頼みは断れないからな」
「泣いてなんていないでしょう!」
「で、こっちの話は!?なんなの、ゾフィやヨルクまで火魔法を発動させて!あれってスクロール!?」
「そう、切り札が要るって、ユリが前から試そうと考えていたスクロールよ。なぜか≪火炎≫までは上手く作れなかったのだけど≪火球≫は成功したから皆で隠し持っていたのよ。上手くいったでしょ?」
「はぁ。それと、ユリ、あのヒソヒソ話は何?」
「あれはね」
古書交換会で入手した風魔法の魔導書で≪集音≫を習得したのだが、音は空気で伝播することを踏まえて、逆にこちらの小声を狙ったところに届けるよう工夫したものであった。
「それよりも“極東の輪舞曲”の人に早く謝りに行かないと!」
腰を下ろして一息ついていたユリアンネは、ハイオーク用の罠を勝手に使ったことを思い出し慌てて立ち上がる。衛兵であるシミリートとマンファン分隊長にも補足説明をして貰って、お詫びのポーションをいくつか差し出すことで穏便に済ませて貰うことが出来た。




