アンダロフでの店舗準備
「まずは店舗に置く設備の調達よね」
宿屋と食堂であるジーモントは居抜き購入なので問題はなく、好みに応じた追加は少しで済むが、特にヨルクの場合はかまどの用意が必要である。
ユリアンネは元々調合の道具は魔法の収納袋に入れてあったし、魔法のスクロール製作にもそれほどの設備は不要である。写本も本業にしないので書見台も不要である。ただ、店舗を持てるのであれば、いつもの傷回復、魔力回復以外の薬も用意したいので、それ用に多くの種類の薬草など素材を並べる棚などが欲しい。
カミラとゾフィもそれぞれ作業するには、作業台が欲しいし、ゾフィはなめした皮を広げる環境も欲しい。染め物をする環境も、である。
そういう仕入れ先も含めて、それぞれこの王都アンダロフでの職人ギルドに挨拶に行く。1人で行くとなめられる懸念もあるので、最低2人以上と話し合った結果、ユリアンネにはドロテアだけでなくシミリートまでついてくる。
「テアだけでも良かったのに」
「いや、男も居た方が良いだろう?念のために」
「……そうね。ありがとう」
きっとカミラとゾフィにも、ジーモントやヨルクがついて行っているのだと思われる。
「いやいや、そんな若い姉さんが薬屋をいきなり開業できるものではないよ」
「物心ついたときから薬屋で育ち、訓練してきましたので」
「そうですよ。モンタール王国では、“薬姫”なんてあだ名されているくらいですよ」
「シミ!」
「ほぉ、大層な名前だな。ちょっと実演して貰えるかな?」
仕方ないのでその場で用意された一般的な傷回復の薬草を調合し、さらに魔力調節することで高級下位の品質のポーションを実演してみせる。
「なんと!しかも≪水生成≫≪粉砕≫と違う魔法はなんだ?魔法使いでもあるんだな」
≪簡易結界≫を使った調合は知られていないようである。また詠唱などをしていないので≪洗浄≫も認識されなかった感じである。
「これならば、確かにこの王都アンダロフでもトップクラスの商品になるだろう。ぜひ“薬姫”には頑張って貰いたい」
無事に、薬の素材だけでなくガラス瓶の仕入れ先なども教えて貰えることになった。面倒な二つ名の広がりとセットではあったが。




