イスクラディヤの開戦3
「まず状況はわかった。でも、逃げた方が安全なのか?俺たちはこの街ならば食っていける。……浅瀬で魚を取ったりすることだ」
スリという方法のことは、小さな子供に言わないために、言葉を濁すダニーク。
大人たちもこのタイミングでそこを指摘はしない。
「この街から逃げて、どこに行っても食べ物を確保して生きていけるのか分からない」
ダニークの発言はもっともである。
自分たちは旅人と伝えてあるので、この街から逃げるのを手伝ってくれてもその後に子供たちだけで生きていく手段がない、というのである。
返事に困っている大人たちの様子を見ても、ダニークはそのことを非難しない。
「飯、美味かった。ありがとう。俺たちは自分たちの拠点に戻るよ。ここにいつまでもいると、この子たちが危ないから」
年下の子供たちを立ち上がらせて、街の方向に向かおうとするダニーク。
「ダク、待って」
「ユリ」
声をかけようとしたユリアンネの腕をつかんで、シミリートが首を振る。
「シミ、みんな、ごめんね。でも私は……」
ユリアンネが決心した様子を見た仲間たちは静かにうなずく。シミリートも仕方ないという顔をしながら、つかんでいた腕を離す。
「ダク、みんな。それでも私たちと来ない?今すぐに、将来をどうとは約束できないわ。でも、途中で放り出すことはしないと約束する。少なくとも、この街で戦争に巻き込まれるよりは安全にするから」
「いや、だから!俺たちは……」
「信じて。ちゃんとみんなのことを考えるから」
ユリアンネが説得を続けているところで、港の方から大きな衝撃音が聞こえてくる。




