スリ2
「さて、どうしたものか」
スリの少年を捕まえたシミリートとユリアンネは、その扱いに困る。
前世の感覚ならば警察に引き渡すことを考えるのだが、子供のスリ程度だと衛兵もまともに取り合わない可能性がある。
しかも未遂であり実害が出ていない。
旅の途中で寄っただけの街で揉め事を起こすことも避けたい。
「おい、お前」
「なんだよ」
「とりあえず名前!」
「……ダニーク」
「本当だな?」
「そうだよ!」
「よし、ダニーク。腹が減っているのか?ちょっと待っていろ」
その返事を聞くこともなく、またユリアンネに断ることもなくシミリートは屋台の方に戻っていく。
最初は何事かと覗き込んでいた他の客たちも騒動がおさまったと思ったのか、こちらを見ているものは居ない。
「逃げない方が良いわよ」
ユリアンネは杖をしまわないまま、その杖をダニークに向けておく。
自分に対して何かをしようとすれば、≪衝撃波≫や≪魔力矢≫あたりを発動するつもりではあるが、実際に逃げようとすればどうするか考えてしまう。≪土壁≫などで逃げ道をふさぐ案もあるが、そうまでして逃さないようにする必要もあるのだろうか……
幸いなことに、シミリートが戻ってくるまでダニークは座り込んだままであった。先ほどまでの動きを見ても、逃げ出せないほどの怪我、骨折などをした様子もない。
本当に食べ物を買って来てくれるという期待をされるほど、自分たちはお人好しに子供にも見られているのだと思ってしまう。
魔法使いが世間には少なく、その杖を向けられることを怖いと思われるという思考はないユリアンネ。




