イスクラディヤ入国
「ユリ。オリガ王女はなんだったんだ?」
「大した話ではないわ。シミの調子乗りのところに気をつけてねって」
「何!」
「冗談よ。ゴブリン退治報酬のお酒の恨みも伝わっていた、とかよ」
ドラゴレシエ国とイスクラディヤ国の国境の川はそれなりに大きく、その上を久しぶりの愛馬に騎乗して渡る途中のことである。
『まさか、前の世界から来た人が他にもいるのに出くわすとは……でも、彼女もあまり目立たないようにはしているみたいね』
きっと、驚いて色々と考え込んでいた自分を見たシミリートが気遣って声をかけてくれたのだと思う。そのような気遣いには素直に感謝する。
「ドラゴレシエ国ではまともに買物もできなかったから、このイスクラディヤ国では何か買えるかしら」
「港もあるんだろう?魚も楽しみだよな」
「オーク肉はオリガちゃんたちに売らないでくれたのだから、安心だよな」
仲間たちも気遣ってくれているのか、気づいていないのか、いつも通りの会話である。
この仲間たちがいたおかげで、前世の記憶を取り戻して混乱しても今までやって来られたのである。
「みんなありがとうね!」
「ユリ、どうしたんだ?いきなり」
「なんでもないわ。じゃあ、イスクラディヤに入国ね」
ユリアンネが愛馬ゼラに勢いをつけて、珍しく先頭に立つ。
「あら、うちのゾーンも負けないわよ」
「何を、ライオも負けないぞ」
そこまでは大きくない橋の上で、互いに久しぶりの愛馬に乗る感触を楽しみながらじゃれ合うように先を争う。
そのことをイスクラディヤ国側の関所から見られていたようであり、通るときに叱られる。
「良い大人が何を。他の旅人にも迷惑でしょう」
「申し訳ありません……」




