麻薬騒動
「ユリ、すまん、助けてくれ」
平穏な人生を願っているユリアンネなのに、幼なじみで衛兵になったシミリートが、明らかに厄介ごとと思われる話を持って来た。
「最近この迷宮都市トリアンの一部で麻薬が広がり出しているらしいんだ。確かに死と隣り合わせの冒険者達が、軽めの麻薬を大怪我したときに使用するなどはあった。しかし、一般市民にまで広がって来ているらしい。それに薬師が絡んでいるみたいで」
「私に何ができるのかしら」
「ユリの解毒ポーションはその麻薬にも効果があったみたいなんだ。頼む、俺と一緒に分隊長のところに来てくれ」
嫌がるユリアンネを、いつものようにフードとマスクで顔を隠す非礼は問わないでもらう等で説得し、衛兵団の拠点に連れて行くシミリート。
「シミリート二等兵、入ります。薬師を連れて来ました」
「あぁよくお越しくださいました。あなたがシミの言っていた薬師ですか。私は彼の所属する分隊を率いるマンファン伍長です」
「ユリアンネと申します」
「あ、そのフードとマスクのままで結構ですよ。事情があるとは聞いておりますので」
他言無用との注意を言われた後は、協力者になるはずのユリアンネにその丁寧な口調のまま事情を語るマンファン。
発覚した経緯は、自分の妻が差し出して来た薬瓶にあるという。「いつも疲れた疲れたと言っているから、隣の奥さんが効くという薬を貰って来たわよ」と。しかし、食後に何気なく飲もうと瓶の蓋を開けたところで、独特の甘いような臭いで大麻だと気づく。衛兵も血生臭いことには縁深く、大怪我したときなどに使用することからマンファンは大麻の臭いを知っていた。
隣家の婦人は大麻と知らず、まだ常用もせずに単なる爽快感を得られる薬と知人から紹介されただけとのこと。
そこから芋づる式にたどろうとすると、その知人がまさに中毒者であった。




