薬瓶
羽根ペンの確認も終わったところで、ユリアンネはダンジョンで消費した薬瓶の補充に励む。
盗賊からも噂になっていると言われたように、少し前からユリアンネの調合するポーションは迷宮都市の一部で密かな人気商品になっている。薬師としての店舗を持っているわけでは無いのと、“オトマン書肆”ではオトマンへの遠慮があり販売できないので、ガラクタ市で販売しているのである。
1人で店員になるのを避けるために、いつも幼なじみの誰かと一緒に出品していた。
ガラクタ市で販売している割には効果が高いのと効果があるので少し小さめにできたことで人気が出てきたところで、薬瓶を用意してくれるカミラが他者との差別化を推奨してきた。
「普通は薬瓶に何か目立つマークをつけるか、瓶自体に特徴を持たせるか、かな」
「じゃあ、こんな感じで」
「何これ、初めて見るマークね。これなら簡単には真似をできないわね」
治療の“治”という漢字と自身の名前の最初“Juli”を組み合わせたサインのようなマークを作り、それをカミラの実家に作って貰った。
最初はそれだけでも良かったのだが、その薬瓶を使いまわした粗悪品の苦情を露店で言われるようになったので、瓶も使いまわし出来ないように工夫することになった。
前世の記憶での、注射などの薬を入れてある首の細くなった密閉する瓶、アンプルである。使用するときにその首をポキッと折るため流用は難しい。カミラの実家の工芸屋でも初めてのものであり、持ち運びで壊れない強度を保ちながら手の力だけで折れるように試行錯誤の繰り返しであった。またガラス工房から入荷した後、ユリアンネが調合した薬を入れてから密封する手順も考える必要があった。
結果として、ある程度の力をかけないと首は折れないように工夫しているので、そこではない蓋になる天辺を薬の注入口として開けたまま納品して貰い、中身を入れた後は、ユリアンネが火魔法で炙ってその注入口を塞ぐことになった。
結果、薬効だけでなく薬瓶形状でも話題になり人気商品となったのである。
噂になるので、父や姉に知られないようにフードやマスクを着用して、誰かと出品するのがますます常態化するのであった。




