晦日2
テントが溢れる広場では、宿に泊まれない、つまり風呂に入れない人の集まりでもある。魔物の少ない河川などで沐浴ができる階層もあるが、そうでない階層にこもっていた冒険者達も居る。
「あ、≪洗浄≫屋が居るな。ユリも水属性の魔法が使えるならば、あれは覚えられないのか?きっと儲かるぞ」
「便利だと思うけれど、知らない人を目の前に次々と魔法発動するのはちょっと……それよりもヨルクが受付をしてくれるなら風呂屋が良いかな。私は水を出して温めたら表に出ないで済むから」
「え?俺?」
「変なことを言うからよ。荷物の盗難防止とか色々大変そうだから、難しいわよ。やっぱり≪洗浄≫魔法が妥当ね。ユリ、覚えたらダンジョンで使ってね」
雑談をしながらたどり着いたガラクタ市はいつも以上の出店者と買物客でいっぱいで、露店もいつもの場所からかなりはみ出て広がっている。
「お、ドワーフかい?ならば分かるよな、この剣の良さ。買っていってくれよ」
ヨルクに声をかけて来たベテラン風の冒険者。広剣を見せてくる。幅広という名前ではあるが細剣に比較した表現であり、あくまでも片手剣である。
「うーむ。確かに良いものだが、少し傷みがあるな。とは言っても、まだまだ使える範囲で売るほどに見えないのだが」
「流石の目利きだな。だが、俺たちが潜る階層では、小さな傷みが致命傷になりえるギリギリの戦いをしているんだ。地上に戻ったときに出来ることはしておくんだ」
「なーに、格好をつけているんだよ。その階層で失敗したから宿に泊まる金も無くて、格落ちしてでも傷のない得物に買い替えるんだろう」
仲間らしき男から指摘を受けてバツが悪そうな顔をする。
「そんな階層に潜られていたのでしたら、入手された素材なども拝見できませんか?」
「まともな物は買い取って貰ったから半端だけだぞ」
ゾフィの期待通り半端な皮革を安く購入できたが、ヨルクは広剣を購入していない。
「どうして買わなかったの?」
「俺は戦斧だし、片手剣でもカミラには腕力の都合上、ショートソードのままが良いし、シミは職場か実家で与えられるだろうし。ジモに渡すのなら親父の作品の方が上手になるだろうからな。ユリアンネもわかっただろう?」
「そうね、高級品だけど下位だったわ」




