写本販売計画
翌日、オトマンのところへ見習い修行に行った際に、火魔法の魔導書とその書きかけの写本を持参する。オトマンに話して装丁も行うつもりだからである。
「これはどうしたのですか?初級魔法とはいえ、魔導書は貴重ですのに」
経緯を説明すると、オトマンは魔法習得への知見を話してくれる。
「確かに魔法習得は、知見を得る機会が必要です。また魔力操作のきっかけをつかめるかどうかにも依存しますね。私も魔導書に触れる機会はたくさんありましたが、後者が上手くいかず」
「このような写本をたくさん作って安く広めることはできないのでしょうか」
「そうですね。魔法は貴族や豪商など一部の方々のみが扱えるものにしたいという思いを持っている人たちから反感を買うでしょうね。自分たちの既得権益を脅かされると考えて」
文字の読み書きや簡単な計算ですら全国民が十分に習得してはいない世界である。支配階級の人たちにとって、非支配者階級の人たちが力をつけ過ぎない方が、都合が良いのかもしれない。
「ただ、目をつけられないようあまりに安過ぎない値段にしても、よく売れる定番商品になることでしょう。ユリアンネさんのように魔導書まで書写できる人は少ないので。これからも入荷した魔導書はぜひ写本を作ってください。それに、ご自身の魔法習得の糧にしてくださいね」
薬師になりたいはずが、写字生を含めた書店員、そして魔法使いへの道を確実に歩んでいるのではないかと不安になる。それに気づいたと思われるオトマンが奥の部屋へ案内する。
「さぁどうぞご覧ください!こちらが薬師の工房ですよ」
様々な薬剤を入れるたくさん引き出しのついた棚、大量の調剤をするときに使用する大鍋を含めた鍋類、当然のように薬研、乳鉢、薬皿なども作業台の上に並んでいる。
「改装工事のために少し店舗をお休みしていましたが、いかがですか?」
「オトマンさん、本当に作って頂いたのですね。ありがとうございます!」
「そろそろ日帰りではなく住み込みも考えてくださいね」
「はい、父たちに相談します」
約束を確実に実行するオトマンに感謝しかないユリアンネである。




