大人達の配慮
それからの数日もユリアンネは外出を控え、ほとんど引き続きこもってスクロールの追加検証などを行っていた。
ゾフィの皮革屋からスクロール用の羊皮紙をたくさん購入し、自身が習得済みの魔法を全てスクロールにしてみたが、やはり≪火炎≫だけは成功しない。ユリアンネは、魔法陣を正確に認識でき魔法の発動もでき、間違いなく書ける能力があり魔導書も正確に書写できているので、問題はそこでは無いはずである。
思いつく違いは、ユリアンネが習得済みの中級以上の魔法は≪火炎≫だけであるということである。中級以上のスクロール製作には何かしら別の制約があるのだと推測する。
オトマン、ジーモントに付き添ってもらい、需要のありそうな≪火球≫スクロールを魔道具屋に納品に持ち込んだところ、銀貨3枚で店頭販売できるから、1枚あたり銀貨2.5枚で買い取るとのこと。他の初級魔法に比べて、いざという時の攻撃手段になるので人気らしい。
また中級以上の魔法をスクロールにするにはやはり何か他に必要なことがあるらしいが、それは教えて貰えなかった。
“オトマン書肆”に帰りジーモントと別れたところで、オトマンから座るように言われる。
「ユリちゃん、よく聞いて欲しい。ユリちゃんはポーションの調合も出来るし、売れるスクロールの製作も出来ることが分かったね。書店という拠点がないと難しい写本や本の修復の技術で無くても、いざとなれば何処ででも生きていけるよ」
「オトマンさん?」
「私のことを気遣ってこの街を出ていくことをためらっているんでしょ?まだまだ死ぬつもりはないし、友達と一緒にしばらく出てくるくらいは大丈夫よ。うちの後継者はユリちゃんだから、居ないあいだに他の人を探したりもしないからね」
「オトマンさん……」
「でも、腰痛の処方だけはラルフさん達に教えておいてね。注釈もつけてくれるユリちゃんの写本へのファンが寂しがると思うけれど、修行から戻ってくるまで待っておいてと言うから、必ず帰ってきてね」
涙で言葉を出せず頷くだけのユリアンネに対して、オトマンもウンウンと頷くことで答える。




